JAD-163「大規模線・前」
「2面作戦、ね。問題点は私が言うまでもないわよね?」
「ああ、もちろん。これを見てほしい」
副町長から繰り上がって町長となった相手の示してきたのは、地図。
指さすのは、2か所。それぞれに町があることがわかる。
片方は、つい先日偵察に赴いた場所だ。
「こちらはわかりますけど、こっちのほうは?」
「この町は、表向きは小規模の工場を復活しただけの町なんだが……地下にな」
「取り返したいものがある、と」
よくある話といえばよくある話だ。
技術的には復活できていないけど、明らかに前文明の遺産だとわかるもの。
このまま無人機に占領されていると、厄介なことになりそうということだ。
「厄介かもしれない度合いは、どっこいどっこいなんだがね」
「どっちに私が行くかってことね……ドンパチが激しそうな方でいいわ」
町長の顔が、いいのか?と言いたそうに変わる。
私たちの実力は知っただろうけど、だからこそよそ者に頼むことでもないとわかっている。
こういう奪還というのは、当事者たちの納得も重要だからだ。
「姐さん、別に俺たちに気を使わなくても……父ちゃんの故郷は俺たちで」
「レーテはそんなこと気にしてませんよ。カンのようなものです」
「そういうことね。時間は向こうの味方でもあるわ。細かいところを詰めましょう」
ライアンに微笑みつつ、町長と作戦の打ち合わせ。
場所を移動し、たどり着いた場所にはたくさんの人。
主力となるJAMパイロットらということで、騒がしいながらも会議は順調に進んだ。
携帯食料や物資を補充し、夜明け前に、出発となる。
「もう一度作戦を確認するわ。町の占領そのものはみんなに任せる。私は有志とともに一度町中の戦力を減らして、施設からの増援に切り替えさせる」
「そうして増援の箇所が限られたところで、合流して深部を制圧、と。姐さん、本当にいいんですか?」
ライアン以外は半信半疑というところかな?
無理もない話だし、ここで説得に時間をかけるのももったいない。
「ま、だめでも町の戦力は変化するし、次に活かせるでしょ」
あえて軽く告げて、機体に乗り込む。
ふわりとわずかに浮き、ホバー移動をして見せれば、慌てたようにライアンたちがついてくる。
「本当は私たちだけのほうが早いかも、とは言えないわよね」
「そうですねえ。私たちは定住しないですし……」
前と違い、速度重視の移動。
視界を意識して切り替えれば、石の力や星の力が混ざってくる。
色付きの薄煙が流れになって漂うような光景だ。
ところどころに、力の塊のようなものがある。
地形の問題だったりするけど、今はスルー。
遠くの町を眺めるようにすると、力の流れもつながっているのが見える。
「町を力がたどっているのか、力が通るから町ができたのか」
「いつか、調べてみたいですね」
頷き、念のためにライフルを構えつつ進む。
数時間進んだところで、小休止だ。
わずかな時間でも、休息は大事。
私たちはまあ、なくてもいいけれども。
気持ちが途切れないうちに、と再出発。
「少しぐらい、会話してほぐした方がよかったかしら?」
「このままのほうが緊張感があって、いいと思いますよ」
その言葉を証明するかのように、道沿いの林から飛び出す影。
「迎撃! うん、いい反応ね」
私以外の誰かが仕留めたそれは、装甲で背中を覆った獣。
もうミュータントだろうその相手が、沈黙している。
その異様な姿に、面々が息をのむのを感じる。
『姐さん』
「ええ、こういうのが混ざってるわ。行くわよ」
目的地は、もうすぐだ。
しばらくして、見えてくる建物。
やはり、かなりの規模がある街だ。
周辺地域の中でも、一大拠点だったに違いない。
だからこそ、ここが落ちてしまい一気に防衛ラインが厳しくなったといえるだろう。
「戦闘準備。予定通り、私がメインでひっかきまわすわ」
『姐さん、俺たちも忘れちゃ困りますぜ!』
「ふふっ、そうね。しっかりついてきなさい!」
叫んで、武装をすべて展開。
ダブルダイヤ、予備にグリーンダイヤも準備しつつ突撃開始。
「道を……開けなさい!」
地面を滑るように進みながら、大通りを埋め尽くすように展開する無人機と獣へ、光を放った。




