JAD-162「返す刃」
命の冒涜を目撃してからしばらく。
こちら側としては、大きくは動いていない。
仮に、私たちだけで拠点を解放しても、維持できずにまたということもあり得るからだ。
現実は、ゲームのように拠点から敵性体を排除したらあとは勝手に、とはいかないのだ。
「壊すのじゃなく、行動不能が都合がいいというのが伝わっただけいいかしらね?」
「そうですね。先日の襲撃も、その形でしのげたようですし」
何かといえば、つい先日、再びの襲撃が町にあったのだ。
この場合の町、は私がこの地方で最初にやってきた町、なのだが。
倒せば倒しただけ補充されるという情報は、1つの判断材料となったらしい。
余力がある限り、本体ではなく武装や足回りを攻撃するようになった。
結果として、増援が少なく、被害なく迎撃できたのだとか。
「ここからどうするか……こちらの回復を待つか、もう少し切り返しに行くか……」
私が決めることではないけれど、余裕がどちらにしても少ないのは間違いない。
どの決定にせよ、自分でよければ手助けはする、そのつもりだ。
なんだかこう、ゲームをしていた時を思い出す展開だ。
世界の情勢に合わせて、依頼を選んでいた時を思い出してしまう。
気のせいでなければ、その記憶のおかげで、戦い方も変わってきたように思う。
ゲームのことだから、とどこかで除外していた動き、戦い方。
そういったものが、解禁されてきているように感じる。
「姐さん、戻りました」
「だから姐さんは……まあいいわ。悪いわね、寝床を借りちゃって」
「いえ、姐さんがいてくれるだけで心強いっす」
そう、今の私はまだライアンの故郷にいる。
何度かは偵察らしき無人機を相手にしたし、不安材料もある。
私という存在を抜きにして考えると、再度襲われるならこっちかなと思ったのだ。
被害が出ることがわかってる大きい街より、戦力が少ないだろう場所を再制圧、なんと合理的か。
(生き残ってる相手が、徐々に変化してる気がするのよね)
まだなんとなくの感覚だけど、相手は学習のようなものをしている気がする。
この星に来たばかりの相手なら、知識として知っている行動しかとっていない。
でも、この地域の相手は、少し違う。
どう動いたらいいか、を土地に合わせているような気さえするのだ。
それ以上の柔軟な動きができないあたり、指揮官機の存在が問題だ。
「そうね、ライアンがそうして素の口調で話してくれるぐらいには、役立ってるかしら」
「からかっちゃいけませんよ、レーテ」
「ほんと、どちらの姐さんも一体何さ、なんでもないっす!」
おっと、表情に少し出てしまっていたようだ。
とはいえ私自身、年齢はわからない。
見た目は20代でも通る気はするけど、ね。
眠っていた時間を含めると、それこそ云百は確実。
目覚めてから、だと今度は若すぎるかな。
「ふふ、長生きできるわよ。復興は順調みたいね」
「あ、はい! 装備も整ってきたし、防備も戻せてます。今度は戦い方も違いますからね」
謎の生産設備から、武装を延々と作り出している最中だ。
これはJAMには乗れなくても、ほとんどの人間であれば使えることもわかった。
最初はJAMに乗れるなら、だと思ったけど、どうも初回起動には必要ってだけだったみたい。
「なら、反撃も近いかしらね」
「そうありたいっす。親父は、ここの出じゃないんですよ」
そう言われ、頷く。
故郷は、1つじゃない。誰かの故郷はどこかにある。
ただそれだけのことが、少しだけうらやましく、まぶしかった。
私自身は、誰かが親ではない。
だから、何のために生きて、戦うのか。
私自身にしか、その理由がないのだ。
「姐さん?」
「ううん、なんでも。待ってるだけじゃ、つまらないわよね」
「レーテ、郊外に反応あり。こちらの援軍でしょうかね」
3人で外に出ると、遠くに土煙。
確かに、無人機ではなく、人間の運転する車両だ。
この地域には、車両の工場も復活か新設できているようで、意外と車両が多い。
「町長に、話を聞きに行きましょ」
町中に入ってくる車両らを追うように、役場的な建物へ。
見張りの人は、私を見るなり、そのまま中に通してくれた。
そのまま町長たちがいる部屋へと向かい、ノック。
返ってきた声は、少し緊張が混じっている。
「お邪魔するわよ。何か花火を打ち上げるお話かと思って」
わざと軽い口調で言えば、中にいた男性たちの表情も和らぐ。
やってきたのは、私も顔を見たことがある相手だった。
あの、最初に応対してくれた面々のリーダー格だ。
「話は聞いてるよ。アンタにも話は持っていく予定だった」
「なるほどね。それで、何をしたらいいかしら?」
前置きは短くて構わない。
この土地はこの土地の人間が住む場所だ。
私はお邪魔してるに過ぎないし、できることがあればそれをやるだけだ。
緊張して固まっているライアンと、そんな彼を心配している様子のカタリナ。
そちらを一度見た後、話を進めるのだった。




