JAD-161「冒涜される命」
「対JAMだと、遠くからでも感知する存在がいる。だから、隠れながらゆっくり進むのは逆効果の時があるの」
『ど、どうやって見分けるんです?』
「石の力を使い続けるしかないわね。でも、そういう相手かもしれないってわかってるだけでも違うわよ」
記憶上の経験、この世界で目覚めてからの経験。
そのどちらでも、とても役立った技術だ。
目に見えなくても、感じる力の気配。
なんていうか、そう。
「水の気配がわかる人、たまにいるでしょう? そんな感じ」
『よくわかんないっすけど、わかりました』
思ったよりしっかりと返事が返ってきたことに頷き、前を向く。
今日はライアンしかお供はいない。
いざというとき、抱えて逃げられるのは一機ぐらいかなと思ったためだ。
(周辺の街の配置、通信が途絶えた場所からいって……)
大体のあたりをつけて、進む。
相手も、無人ではあるものの、何かしらの作戦行動のルールがあるように思うからだ。
例えば、資源の多そうな場所を優先するとかね。
ほかにも、戦力を移動させやすい場所を制圧する等。
「どう、カタリナ」
「たぶん、この先にあると思いますよ」
ずっと、カタリナには地図情報と情勢などから、探してもらっている。
無人機たちが、一番戦力が集中させているだろう場所を。
木々、草花、時々の森と丘。
遠くに山を眺めながら、しばらく前までは人間が行き来していた場所。
今は、自然の楽園と化している。
『何もなかったみたいに平和だ……』
「そうね。時期が来たら、全部あいつらが採掘し始めるでしょうけど」
ライアンでも感じる、この異様さ。
あいつらだけじゃなく、ミュータントにも注意だ。
今のところ、この辺りで凶暴なのにはあまり出会わないらしい。
でも、人間がいなくなるということは、環境が変わるということでもある。
『姐さん、なんか変な感じが』
「合格ね。私も感じたわ。何かいるわね」
もうすぐ、とある街が見えてくるだろう場所で、気配。
林から飛び出てきた影に、射撃。
ダイヤの光に貫かれたのは、四足歩行の獣。
しかし、その装甲とでもいうべき体表は、明らかに金属。
『コイツっ!?』
「ミュータントが、無人機を取り込んだ……にしては適応が早すぎね。だいぶ前からいたのか、それとも……」
どうやら、ややこしいことになっていそうである。
ライアンを手招きし、より警戒しながら進む。
そうして見えてきた建物たちは……ひとまずは形は保っている。
「望遠、生体反応を確認して」
「了解です……いますね、さっきのやつと似たような反応がたくさん。これは?」
町中を、なぜか無人機と獣が仲良くパトロールする光景が見える。
確かに、あの町でもペットや家畜のようなものは放置されていたけれど……。
一部、殺されていたのは襲い掛かったペットだろうか?
そう考えると、映像の獣、ミュータントたちは無人機に従っている?
そこまで考えたところで、嫌な光景が飛び込んでくる。
機械のくっついていない獣に、無人機が何かをさしていた。
その結果は……。
「ライアン、すぐ戻りましょう。あいつら、現地の獣を改造して戦力にしてるわ。自分たちの弱点がわかってるんだわ」
息をのむ声が無線越しに伝わってくる。
私も、内心かなり驚いているのだ。
無人機たちは、この短期間に変化している。
自分たちが、集団の頭のようなものをつぶされると、動けないことを。
そうなった際の予備、それがミュータントか獣を改造することだ。
(これは、厄介だわ。もし、この改造が進めば……)
「人で人を襲わせる? 冗談じゃない」
「絶対に止めないといけませんね」
頷きながら、作戦を相談するべく、戻るのだった。




