JAD-159「使えるものは何でも、な時代です」
町の奪還からしばらく。
今も、私はこの町にいる。
予想以上に町に人は戻ったけど、予想以上にそのままだった。
増援は、ほぼなし。理屈はわかるのだ。
一度襲われたところに、また戦力を分けてもいざというときに困る、と。
その分の報酬、物資の融通はすでにもらっているから別にいいのだけどね。
(まとまっててもじりじり危ない気がする……いや、でも?)
「ねえ、カタリナ。私って冷たいのかしら」
「この町の防衛のことですか? うーん、どちらも正しいと思います」
その言葉にうなずきながら、お茶を一口。
自慢にするだけはある、なんとも言えない風味だ。
個人的には、このお茶を守るために多少苦労してもいいかなと思えるぐらい。
「ああ、姐さん。ここにいましたか」
「ライアン、そんな焦ってるってことは、襲撃が?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど」
呼び方に一言いいたいけど、尊敬の気持ちです!とか言われると弱い。
それに、何かあったかの方が問題だ。
実際、襲撃であれば私かカタリナが感知するはずだ。
あくまで、同じ奴らなら、となるが。
だとすると、どういう問題だろうか。
「姐さんが解放してくれた鉱山奥に、よくわからない設備ができてたじゃないですか。そこの片づけをしてた時に、自分たちでも使えそうな武装があったんで、一緒に確認してほしいなと」
「私も専門家というわけではないけど、わかったわ」
「すぐ準備しますね」
お茶を一息に飲み干し、外に飛び出す。
何があるかわからないから、念のためにJAMに搭乗。
ライアンを開いたままのコックピットに座らせながら、鉱山へ。
町中のがれきは多くが片付けられ、ところどころに戦いの跡。
倒壊した建物たちが、戦いの激しさを主張していた。
そうこうするうちに、人の出入りがある鉱山に到着。
何人かは顔を覚えているので、挨拶だけして中へ。
「数はどのぐらいなの?」
「たぶん見た方が早いっす」
「レーテ、こういう場合……」
ライアン、口調が安定しないわね。
指摘してもしょうがないから、いちいち口にはしないけど。
まだまだ子供ってことかしら?
それに、カタリナもみなまで言わなくて大丈夫。
言葉の濁し方から考えると……おおう。
「もしかしなくても、あれ全部?」
「はい。あちこちに転がってました」
下手に動かすのは危ないと悟ったのだろう。
ある程度まとめられた部分と、そのままの部分、両方がある。
いかにも人間が手持ちができそうな銃器、あるいはJAMなんかにつけられそうな筒状の物など。
共通しているのは、今すぐにでも使えそう、というところ。
「きっと、こいつらにつけて使うつもりだったのね」
言いながら、資源と化した無人機たちを見る。
加工出来ないっていうことはないと思う。
っと、今はこの武装たちだ。
「細かい検査は別にやった方が良いと思うけど、今見た限りは……専用の認証装置とかはなさそうね」
非常にシンプルな造りだ。
手持ちできそうな大きさのはそのまま、筒状の物も問題はなさそう。
ブリリヤントハートのクリスタルジェネレータはもとより、普通のJAMの動力源でも動く気がする。
「じゃあ、俺たちでも使えそうですか?」
「たぶんね。いくつか持ち出してみましょ。あと、設備の検査もして、流用できそうか見ないとね」
適当に数本の武装を確保し、外へ。
試射をすると周囲に告げてから移動していると、なぜかJAMが数機ついてくる。
「あいつらも気になるんですよ。武器は重要ですし」
「そういうことね。ちょうどいいわ。あっちにも試してもらいましょう」
町を出るぎりぎりまで行き、何もない荒野の方向を向く。
ついてきた数機を見てから、まずは手持ち武器から。
機体から降り、見覚えのない銃器を構え……トリガー。
結果、何も発射されない。
「弾切れっすか?」
「いえ、これ……たぶん石の力を使ってますね」
「そういうことか……適当に供給でいいのかしら……ねっ」
普段使うライフルと違い、燃料代わりの石を入れる場所がない。
仕方なくポーチに手を伸ばし、一番手前にあった黄色いトパーズをつかみ、構えなおす。
敢えて何も考えず、もう一度トリガー。
何かが引き出される手ごたえがあった。
(これは、拾い物ね)
「発射できましたね」
「できたわね。結構適当な感じだわ。ライアン、貴方JAMの操縦は?」
「農作業にずっと使ってたんで、結構自信ありっす!」
生身で石の力は使ったことはない、と続いた。
逆に、テストにはちょうどいい。
私の予想が確かなら、この銃器は面白い性質を持っている。
JAMを操作できるなら、だれでも使える、そんな性質。
「まずはそのままトリガー。うん、発射されないわね。次、これを持って。ああ、何もしようとしなくていいわ。そのままトリガー……やっぱり」
「姐さん、こいつはすげえっすよ!」
興奮するライアンに頷き、近くで見ていたJAMの操縦者、知り合いになった若者たちを手招きする。
駆け寄ってくる彼らに、同じように試させるのだった。




