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JAD-015「後ろ暗さを隠す闇」



「レーテさんなら、気にしてると思いましたよ」


「それはどうも。逆に、貴方こそ儲けもないのに首を突っ込むの?」


 夜の酒場で、気になる話を耳に挟んだ私。

 そのままぼんやりと過ごしていたところに、思わぬ来客だった。

 慌てて手元の端末を見れば、売却が終わった旨のメールが届いていた。


 場所を壁際の離れた場所に移し、まずは乾杯。

 そして気が付かなかったことを謝罪する私に対し、カインはどう見ます?なんて言ってきたのだ。

 鉱山から、戻ってこない人がいるという話に対して。


「単純に、危険が残ったままだとしたら買い付けにも影響が出るなっていうことで」


「そういうことにしておくわ。事実ではあるのだし」


 値段のつり上げといったことも考えたけど、現実的とは言い難い。

 むしろ、カインの言うように危険が残っていれば人も減る。


(1人も戻ってこないってのは……謎よね)


「これ、本当に偶然なのかしら……自分で言うのもなんだけれど、ジュエリストは確かにピンキリよ。でも、何人もそうだとは思えない」


「役場もそう考えてるみたいですね。明日、さっそく捜索隊を組織するそうです」


 悠長なことだ、とは言えない。

 既に外は暗いし、その上で坑道の中となればまさに探検だ。

 どこまで続くかわからない暗がりをさまよい、化け物に出遭う……そんな話。


 一見すると、財宝に見えたそれが迷宮の罠だったなんて映画も……。


「そうか……その可能性も……カタリナ、聞こえる?」


『聞こえますよ。レーテ。何を調べますか?』


 通信機越しに聞こえる声は、待ちわびたといった感じ。

 目の前で不思議そうに見つめるカインを見つつ、告げる。


「帰ってこなかった人員、鉱山回りの電波障害や停電の件数、範囲なんかを調べて」


『了解です。5分ください』


 酒場は喧騒に満ち溢れていて、私の言葉を聞いた人は1人だけ。

 目の前の、カインだけだ。


「一体……」


「単純な話、一番怖いのは怪物より、人間じゃないかってことよ」


 この鉱山は、何が出るのか。

 ほとんどが石英ばかりだと思っていたけれど、普通の鉱山ではないらしい。

 貴石、つまりは宝石になりえる物も混ざっていると。


 宝石は、物によるけども適性のある物はジュエルアーマード等の重機のジェネレータに使われる。

 その中でも、より適性の高い物が戦闘用のJAMに使われている。


 比率は大体7:3、7割がただの宝石だ。

 戦闘用となると稀に、3割の中でさらに一部がといったところだろうか。

 判定方法は意外と簡単で、専用の器具があればどこでもできる。


 そう、掘った直後の現場だろうと。

 宝石が手に入る鉱山、そして当たりの宝石だった場合、その価値、もっと言えば軍備としての価値は?


「つまり、レーテさんは採掘人員の中に何者かが……」


「可能性よ、可能性。っと仕事が早いわね」


 予定より1分早く、カタリナからデータが送られてくる。

 手元のタブレット上の端末に、それらが表示されていく。

 鉱山での護衛となれば、地元馴染のジュエリストが使われることが多い。


 私のような存在は、例外なのだ。


「当たりね。戻ってないのは、役場を経由しないで護衛に入った連中ばかりだわ」


 くるりと回転させ、カインに画面を見せればその表情が固まる。

 電波障害は、このご時世だとどこでもたびたび起きる。

 停電だってそうだ。


 でも、もしそれが人為的な物だったら?

 助けも呼べず、危険な目に遭うかもしれない。


「戻ってきた人たちは、大したものが出なかったんでしょうね」


「今からでも役場に」


 身を乗り出そうとするカインの口にそっと指を添える。

 そのまま座らせ、タブレットをつついた。


「まだ、状況証拠だけよ。全部、たまたま重なってるだけだし、想像でしかない」


「じゃあどうすれば……」


 表情をゆがめるカインの前に、指を何本か出す。

 選択肢を、見せるためだ。


「1つは、ここでの商売をしばらくやめて見なかったことにする。鉱山が復活したらしいから、様子を見に来たついでといったところでしょうし。2つ目は、良い物が見つかったと嘘で騒いで誘う。3つ目は、今から追いかける、ってとこかしら」


「前2つはわかりましたけど、3つ目は? 何をです?」


 これには私のカンが大いに混じっているのだけど、戻ってこない作業員はまだ生きていると思う。

 正確には、連れ攫われている。


 本当は始末、つまりは殺してしまうのが早いけれど、それだと場所に困ったのだ。

 そう、下手に死体を転がしておくわけにはいかない。

 かといって、動かない相手を持ちだすのも手間。


「ということで、どこかに連れ出されて、離れたところで強制労働か、まあ……そんな感じで」


「でも一体どうやって……夜間の見回り!?」


 頷きながら、常設で人員募集がされている仕事を見る。

 夜の見回り、外壁の確認、等々。

 おおよそ、人気がないのが丸わかりの仕事だ。


 出歩いてても、不審がられない。


「……ほら、もう半分も埋まってるわ」


 回覧板のように、役場が提供しているネットワークには、人員募集の文字。

 まだ足りない、という文言と、半分は埋まってることが示されている。


「私は申し込んで、先に行ってるわ。カインからは、一応自警団なんかへと話だけ振っておいてちょうだい」


 力強く頷く彼に、こちらも笑みを浮かべつつ頷く。

 そして、機体へと戻りながらカタリナと共に、夜の見回りへと参加するべく、移動するのだった。





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