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JAD-158「合理的な残酷さ」


『姐さん、本当に大丈夫なんですか?』


「だからなんで姐さんなのよ。大丈夫かどうかで言えば、見てのとおりよ。みんな動いてないでしょ」


 外でちゃんと待機していたライアンたち。

 迎えに外に出たところで、駆け寄ってくるあたりは心配してくれてたらしい。

 悪い気分ではないけれど、姐さん呼びだけは勘弁してほしい。


 鉱山だったであろう場所にみんなで突入。

 道中、凍らせた相手はもう動いていない。


『確かに……壊れてる様子もないのに?』


「今から行くところの、親玉が操作してたんでしょうね。見えてきたわよ」


『すっげ……工場みたいだ』


 誰かの声が、正解を言い当てる。

 仕組みはともかくとして、確かに工場である。


 今のところ、電源は入っていない形だし、動いてないけど。


「下手に電源をもう一度入れると、また暴れそうだからよく調査してからのほうが良いとは思うわ。残骸や、動きが止まった奴はばらして使えると思うけど」


『十分っすよ! これだけあれば、また防備を固めるのだってできる!』


『ああ、そうだよ!』


 無線が、活気づいていく。

 浮足立ちそうな空気に、釘をさすのも先達の役目だろうか。


 私が先達かどうかはイマイチわからないけれども。


「まずは調査をもっとしてからよ。自律式のが残ってるかもしれない。撮影機材ぐらいはあるでしょう? 何人かは町に一度戻って増援を頼んで頂戴。残りは私と一緒に探索ね」


 元気のいい返事が返ってきたことに微笑みつつ、町中の探索に向かう。

 幸いにもというべきか、不思議と町そのものは、あまり壊れていない。


 もっとこう、襲撃で破壊された!なんていう光景をイメージしていたのだが。


「レーテ、あれを見てください」


「生き物? って、家畜やペットは殺されてないのね……んんん?」


 いまいち基準がわからない。

 そりゃあ、奴らの通った後、占領された後は生きているものが何もいない、は困るけど。

 1つ考えられるのは、武装するかどうか、道具を使うかどうか、だろうか。


(たぶん、ミュータントが襲ってきたら反撃ぐらいはするわよね)


 目的が少しずつ、見えてくる。

 同時に、奴らの背後にいる存在がどれだけ厄介そうか。


「ライアン、この町は発電所はないの?」


『あります! いや、ありました。こっちです。くず石とかを使った変換施設が』


 案内を受け、向かった先は……なるほど。

 動きを止めた無人機が、気味が悪いほどに絡みついている。


 同時に、ここは攻防があったのだとわかる。

 散らばった残骸、そして……遺体。


『この場所が無事なら、まだ抵抗できる……そう言って戦ってました』


「そういうことね……まだはっきりわからないけど、何が目的かは推測できるわね」


 落下した先で、資源を漁る。

 すでに資源を使って何かしている生命体がいれば、滅ぼす。

 動力や諸々のエネルギー施設を再利用する。


 恐ろしいほどに、効率的で合理的な動きだ。

 同時に、非常に傲慢だなとも思う。


 そこにいる生命体が、自分たちより下位であり、蹂躙していいと考えていなければこんなことにはならない。

 もっとも、私やライアンたちを含めた人間の先達が、この星の生き物に同じことをした可能性もあるのだが。


「ひとまず、引っぺがすわ。発電施設の復旧が大事だし。警戒よろしく」


『わかりました!』


「すっかり子分や部下みたいですね」


 カタリナの指摘に苦笑しつつ、発電施設を覆う無人機を排除。

 幸い、動いてくることはなく、本当に引っぺがすだけだ。


 私の知っている襲撃者より、もっと本体の意思を感じる光景だ。

 せいぜいが、周囲に攻撃をしかけるようなものしか私は知らなかったのだから。


「私の知らない場所で、何回かは資源の打ち上げや情報が宇宙に飛んでるのかしらね」


「可能性は十分にありますね。これまでより、敵意というのか害意というのか、はっきりしてます」


 私は一人だ。メテオブレイカーからの情報提供も、世の中のすべてではない。

 現実問題、こちら側の隕石は迎撃できていないのだから。


『姐さん、何人かは墓……作っていいですか』


「見回りは私と貴方でも十分ね、好きにしなさい」


 神妙な気持ちを抱えつつ、ライアンとともに町中の探索を進める。

 結果としては、想像以上にそのまま復興ができそうということだ。


 JAMを使えば、簡単なお墓を掘るぐらいは簡単なこと。

 泣きはらした顔はそのままに、青年たちが合流してくる。


「ついでに見た限り、住居に問題はほとんどないです。住む気持ちさえあれば、すぐに住めそうですよ」


「ならよかったわ。家財もそのままだものね」


「姐さん、よかったらこっちで」


 今日は屋根のある場所で休もう、と提案され、案内されたのはごく普通の家。

 なれた動きからして、彼の実家なんだろう。


 ほかの子たちも、各々の家に立ち寄るらしい。

 記憶にある映像作品のように、1人1人いなくなるということもないだろう。


「建物はほとんどそのままで良かったわね」


「まったくです。ここなんか、俺が逃げた時のままですよ」


 扉が開き、物が散らばったままの部屋を指さし笑うライアン。

 その光景をほほえましく見つめていると、自分が人間なんだろうなと実感できる。


「姐さん、本当にありがとうございます。依頼代金として必ず」


「その辺はお任せするわ。大変なのはこれからよ。一度襲われた土地、次ももしかしたらという気持ちと戦うことになるのだから」


 真剣にうなずくライアンの用意してくれたお茶を飲みつつ、一時の平和を味わうのだった。



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