JAD-153「技術の残滓」
「山を越えようと? それは無謀を通り越した探検だな」
「多少は飛べるから、どこかに行けそうな場所がないかなーって思ったんだけどね」
柵のそば、屋外といえば屋外、な壁だけはある待機所のような場所。
ブリリヤントハートをそこに止め、降りた私たちを相手は迎えてくれた。
さすがに、武装したままだけど。
「だが、それも納得だ。この辺りでは見ないJAM……それだけの実力があるということだ」
「まあね。さっきみたいな襲撃って、多いの? 境界にはあまりいないからわからないのだけど」
別の土地から、山脈超えのロマンを求めて探検中のフリージュエリスト。
自分たちをそう説明したのだった。
我ながら、全部通るとは思ってないけど、相手もそれは百も承知。
使えるものは何でも使う、そんな扱いを感じる。
「季節毎のイベントのようなものだな。2年に1回ほど、ああなる。だからこそ、迎撃もしやすい」
「それで素材や食料も大量に獲得、と。皆さんたくましいですねえ」
「私たちも大概だけどね」
そうして笑っていると、相手の警戒も少し和らいだのを感じる。
そろそろ、本題に入らないとだ。
こっち側に来た理由、戦争の介入。
「少し聞きたいことがあるの。山に挑む前に、どっかとドンパチ始めたって噂で聞いたんだけど」
「んん? そういえば、西の本国のほうがあわただしいらしいな。こっちとしては、維持と開拓を進めるので手いっぱいだが」
どうやら、細かい情報は来ていないようだ。
もしくは、それだけ足が止まっている、のかもしれない。
集落を案内されつつ、話を聞いてみるけど大体同じ。
それでわかったこともある。
この場所に、物資の販売や輸送に来る頻度が少し減っているという事実。
「それどころじゃないってことかしらね」
「かもしれませんね。でも、こっちは向こうと比べるとちぐはぐですね。偽装する技術が、こんな場所でも」
そう、柵の向こうに集落が急に現れたように見えた理由は、いくつもたっている壁。
いつかの透明化技術とは違う、比較的単純な物だ。
それでも、私たちの視界をごまかしていたぐらいには優秀。
これがあるから、普段過ごせてるのかもしれない。
集落、とはいったがしっかりした町が裏側にはあったのだから。
ほかにも、いくつかの技術が残っていることを感じさせる。
それだけ激戦地で遺跡的なものが残っていたのか、復活させたのか。
そのあたりも気になるけど、今じゃない。
「長居はお互いにメリットがないわね。すぐに行きましょう」
「そうしますか」
大自然そばの生活も、普段なら楽しむところだけど今日のところはお預け。
一宿一飯、これも出会いである。
色々気になることはあるけれど、一度地元に戻ると告げて、旅立つことに。
と、昨日応対してくれた男が見送りに来てくれた。
「どこまで行くかは知らないが、内陸に行くなら、輸送に問題が出てないか、軽く気にしてもらえるか?」
「ええ、そのぐらいなら」
相手も、そこまで重要視していないように感じる。
よくあることなんだろう、きっと。
そこにたくましさを感じながら、機体に乗り込み雪原へと繰り出す。
山脈付近と比べれば、うっすらといった雪景色。
ホバーするように進めば、白い雪が舞う。
「まだトラックだと滑りますね、これ」
「地面が見えるまではこれでいきましょ」
外から見ると目立ちそうだなあと感じつつも、教えてもらった道を行く。
日が暮れそうになれば、トラックを出してその中で。
日が昇ったら、またしまい込んで機体で滑るように。
そうして、何日も過ごした。
だんだんと雪景色も茶色が混ざるようになったころ、周囲の何かが変わったのを感じた。
一度機体を止め、周囲をうかがう。
「レーテ?」
「何か……少し違うような。引っ張られるような感じがする」
こういう時は、普通の目には見えない何か、というときだ。
視界に、意識して石の、星の力を見えるようにする。
そういうフィルターをかけたかのように、視界に光が生じる。
それは線となり、曲線となり、流れとなる。
「やっぱり、力がどこかに流れてる。もともとの流れはこっちなのに……」
太い力の流れは、別にある。
でも、そこから分かれるように細い光の流れが生まれている。
考えられるのは、JAMなどによる大規模な戦闘。
ここまでの力の動きとなると……うん、そういうことだろうか。
「どこかで力が消費されてて、それを埋めるように周囲から流れてるんだわ」
「少なくとも、平和な感じではなさそうですね」
頷き、改めて進む。
機体の手には、ライフルを握らせ、背面武装も起動しつつ。
気持ちを切り替えながら、なおも半日近く進んだ。
どんどんと力の流れ、その変化ははっきりとして……あった!
まだ遠いけど、2つの集団が戦闘を行っている。
「どっちに味方するんですか?」
「うーん。歩兵がいるほう? 両方にいたら、様子見で」
カンだけど、片方は無人だと思う。
力の感覚が少し、違うのよね。
「わかりました。石のほうは?」
「アパタイトからダイヤに。確実にやるわ」
うまいところ話が転がると楽だけど、どうなるだろうか。
話の通じる相手だといいなと思いつつ、戦場へと近づいた。




