JAD-152「ファーストコンタクト」
おおよそ、人類が踏破するのは困難な雪山が並ぶ山脈。
長く長く、大陸を両断しているそこは、白銀に染まっていた。
飛行することで、無理やりにそれを超えた私たちを待っていたのは、新たなる土地。
人の手が全く感じられない、ほとんどを木々や雪原で埋め尽くされる大地だった。
その木々たちも、延々と雪化粧のまま。
「大きなのは何もいませんね。真っ白です」
「そのぐらい、こっちは別の意味で人類には不毛の土地なのかもね」
見た通りに気候が厳しいのか、住む獣たちが駆逐しきれないのか。
あるいは、ミュータントが潜んでいるのか。
「少なくとも、この辺りは凍結しそうですね。外気温、マイナスをぶっちぎってますよ」
「下手に出られないわね、これは……」
季節がどういう感じかはわからないけど、下手にアクアマリン等を使えば、凍り付きそうだ。
少し高度を下げて、自然を観察しながら進む。
結構な時間進むとようやくというべきか、少しずつ景色も変化してくる。
それでも、木々の種類が変わったかな?という程度。
たまの草原や湖が、アクセントになっている。
「湖も凍って……!?」
ぞわりとした感覚。
とっさに機体を横に滑らせると、眼下で湖が割れた。
幸いにも、こっちには届きようのない動きだったけど、飛び出てきた何か。
ちょっとした村ならすっぽり入りそうな大きさの湖に、巨体。
私が感じたということは、石の力を使うミュータントなんだろう。
「行きましょうか……」
「そうね。さすがにここは人が住んでるとは思えないわ」
家も、建物もないから、いるとしたら……変わり者ぐらいかしらね?
探検家や、山脈を超えようとする人というところか。
そんなことを考えながら、なおも進み……。
遠くに、何かが見えてきた。
「あれ、何かしら」
「壁……にしては低いですね。森も途切れてます」
木々で埋め尽くされた地面が、急に途切れた箇所がある。
そこに何か長く続いているものが……うん、壁といえば壁。
どう見ても、柵程度でしかないけども。
「この地方での人類の最前線、かしらね」
つぶやきながら機体をそちらに向け……たところで発砲の気配。
たくさんの光と、火薬によるものだろう発砲が見える。
そして、森からしみ出すように出てきた何か、おそらくは獣たち。
「メインをネオンブルーのアパタイトに変更!」
「了解! すぐ行けますよ!」
機体の調整の結果、石の交換、そのラグも短縮された。
すぐに引き出せる力の変更を感じつつ、ライフルを両腕に構えさせる。
「善人か悪人かはわからないけど、ひとまずはねっ!」
独特の光の粒が、次々とライフルから放たれる。
そして、それらは多くの獣たちへと自分で向きを変え、着弾。
それでもまだ多くの獣がいるところから、相当な数がいることがわかる。
「下手に降りずに、境界線で高度を維持!」
「一応こっちに来ないか警戒はしておきますね」
頷きつつ、射撃先を左右へと変更。
一か所ではなく、全体的に支援になるように、だ。
雪原に雨が降るかのように、光の弾丸が穴をあけていく。
10分もないぐらいだと思うけど、久しぶりにこれだけ打ち込んだ気がする。
ようやく獣が途切れたころには、大地には獣の躯が無数に転がっていた。
「警戒はしつつ、近くに降りるわ」
「じゃないと話が進みませんか……」
正直、相手からすると私たちは怪しくて仕方がないと思う。
言葉も通じるとは思うけど、果たしてどんな相手だろうか?
「無線を試しますか? っ! 先に向こうから発信を確認」
「受けましょ」
機体を止め、武器も下げる。
これでひとまずの意思は伝わるはずだ。
『あー、聞こえるか? JAMのパイロット、応答されたし』
「聞こえるわ。通りすがりの探検家みたいなものなんだけど、さっきので一晩泊めてくれない?」
少しばかり、カタリナの視線があきれたものになったような気がする。
どうせ怪しいのだ。このぐらいのほうが、向こうも笑えるかなと思ったのだ。
『今から獣の回収をいくらか行う。付き合ってくれるのなら、な』
「良いわよ。じゃ、そういうことで」
返事を返してしばらく後。
柵の向こうにいた歩兵やJAMたちが、徐々に動き出す。
先ほどの通信にあった、回収ということだろう。
よく見ると、カモフラージュの何かがかぶさっていたのか、建物がたくさんある。
柵の向こう側には、結構な規模の集落があったのだった。