JAD-143「小さな生態系」
「道中には変なものはなし、と。あれば町の人も気が付いてるか」
「ですね。川に水晶の山が!なんてこともないようです」
周囲には自然しかないような場所。
町は遠く遠く、もうとっくに見えなくなっている。
そんな中を川は力強く流れ、その流れは見事なものだ。
「一度止めて。確認だけしましょう」
少し離れた場所にトラックを止め、川へと駆け足。
腰から背丈ほどもあるあれこれをかき分けて、川へと到着。
念のためにミュータントがいないかなどを探ったうえで、手で水をすくう。
「匂いは特に変じゃないし、見た目も大丈夫。さて……」
石の力に意識を集中しつつ、一口。
口に含み、飲み込んですぐにわかるこの感覚。
間違いなく、何かある。
薄いけど、栄養剤を飲んだ時のような感覚といえばわかるだろうか?
「もうここから影響は出てるわね」
「レーテ、よく川の周りをみてください」
言われて、立ち上がる。
自然豊かな……豊かな?
(ここ辺、ここまで大自然の中だったかしら)
座り込んだ部分は、砂地で視界は開けている。
けれど、それ以外の場所は結構生い茂った状態。
前に通った時は、ここまでではなかったはず。
誰も管理してないという可能性は、低い。
不定期に、確認が入るはずだ。
「見回りの間隔はそこまで長くないはず、その短期間にここまで?」
「ありえますよ。量が減っているとかじゃなければ、わざわざ危険は冒さないでしょう」
確かに、その通りだ。
今回は遭遇していないけど、外には多くの獣やミュータントがいる。
畑だって、徐々に広げ、相手にここは危険な場所だと認識させるから成り立つ。
「なるほどね。私は機体に乗り込むわ。いける場所まではトラックで、そのあとは機体で移動」
「了解。ルート確認します」
車に戻り、私はブリリヤントハートの中へ。
起動後、膝立ちのように荷台でライフルを構える。
高さがかなりの物になるけど、どうせトラックが通れる場所なら大丈夫だ。
警戒しながら進めば、もうすぐ水源となる湖が見えてくるはず。
『レーテ』
「ええ。何か、いるわね」
この距離から、石の力を感じる。
すごい強いわけじゃないけど、存在感みたいなものはばっちりだ。
トラックを止め、カタリナにもこっちに来てもらう。
「なんでしょうね。ミュータントでしょうか」
「さあ……でも、敵意はないような気がするのよね」
どうしても木々をかき分けとなるので、音が出る。
そのことで相手が逃げだしたりしないか不安だったけど……。
(あれは……ゴーレム?)
少しずつ見えてきた湖。
そこにいたのは、複数の人影……大きいけど。
体全体が半透明な、石の怪物、ゴーレムだった。
「岩じゃないですね。あれ、濁ってるけど水晶、石英結晶じゃないですか?」
「たぶん、そうね。水に浸かってどうしてるのかしら……」
観察してみるけど、いまいちわからない。
が、ふと思い立って石の力に集中することにした。
レーダーを切り替えるかのように、モニターの表示をそちらに切り替え。
すると、ゴーレムの中から力を帯びた流れが湖に注がれていることがわかる。
「水を吸い込んで、力を吐き出している?」
「そうなり……ますね。でも自動で?」
なおも観察を続けることで、その疑問は氷解した。
ゴーレムの体が、徐々に透明度を増しているのだ。
1時間ほど待ってみた結果、1体のゴーレムは見事にほぼ透明な姿に。
ただし、全身に何やら黒っぽいつぶつぶや、布の切れ端のようなものがあるが。
「あ、移動を始めますよ」
「見えてるわ。結構早いわね。トラックは自動防衛モードで、こっちは追うわ」
「了解。どこまで行くかわかりませんもんね」
うなずき、ゆっくりと機体を移動させる。
力を感じる形にすることで、ゴーレムを逃さない。
奇妙な追いかけっこが始まった。
その行き先が町とは違う方向であることを感じたのは、すぐのことだ。
(最近、ゴーレムが多いとか言ってたような……)
山には、獣が多い。
ゴーレムはそうでもなかった、のがこれまでの認識。
でも、あの湖にいた数は……うーん?
増えてきている、が正しいのだろうか?
「止まった、わね」
「はい、止まりました。どういうことでしょう」
山を下り、森を抜けた先。
山々と比べると、まだ荒れてるなと感じる場所だ。
見守っている中、ゴーレムは少し進んだかと思うと、両手を地面に突き刺した。
「!? え、まさか……」
瞬間、わずかだけど力の動きを感じた。
それはゴーレムの中、正確には小さいけれどたくさんの動き。
ズームしてよく見ると、ゴーレムの体で見えるのは、種や苗だ。
硬いはずのゴーレムの体がひび割れ、その隙間を縫うように芽を出し、葉っぱが広がる。
「どんな速度ですか……!?」
「たぶん、最初だけよ。こういうのは、最初に根付くまでが大変だもの」
予想通り、驚くべき速度での成長は、すぐに止まった。
それでも、さっきまで透明だったゴーレムが、見事に姿を変えた。
見えている場所はひび割れ、それ以外は植物で覆われている。
「もしかして、ゴーレムはもともとこういうやつだったのかしら。自律移動式の、自然復興システム」
「岩石のや、襲ってくる奴は失敗か故障ってことですか? いや、まさかそんな……」
仮説に仮説を、といったレベルの話だが、全部外れではなさそう。
なぜなら、よく見ると周囲にはそれらしい植物の山が点在しているのだ。
湖で余剰分の力を浄化のようにして調整し、適切な場所まで移動。
見事なシステムで、恐ろしい。
「実害はないとして、もう少し確かめにいきましょ」
「レーテ、こういうの本当に好きですよね」
「仕方ないじゃない、性分だもの」
笑いながら、機体を湖へ。
ゴーレムがどこから来るのか、確かめに行くのだ。




