JAD-142「力とは」
目的のために、栄養のある食材を食べる。
それ自体は、古今東西、当たり前に行われていることだ。
しかし、ただ水を飲んだだけで……それが叶うとしたら?
酒場から戻り、宿の部屋で2人して星空を見ながら考える。
「煮込むとだめ、多少温めるだけなら大丈夫……揮発成分かしら?」
「分析では、特に成分は検出されませんでしたよ」
私としても、カタリナの分析自体は信用している。
となると、水の中に普段ないはずの成分がという説はなくなった。
あと考えられるのは、石の力そのものだ。
水晶などが、自然と回復するのは地面や水、空気中に力が満ちているからだ。
(自然あふれる場所なんかだと、回復しやすいのよね)
町中でも、そういう力の流れがあるのか、回復しやすい場所もあったりする。
星の力が巡る流れ、スターストリームの吹き出し口みたいなものだ。
「石の力が溶け出している……というのはどうかしら」
「ああ、なるほど。それなら……でも、これほどの規模で?」
「そこが問題よね」
石の力が、地面や水に溶けだしているのは、今さらだ。
昔から、どこでもほとんどがそう。
荒れ果てている、力の喪失した場所を除けば……だ。
逆に言えば、特別感じるほどのことは普段、ないはずだ。
「ま、行ってみるしかないわね」
カインからも、よければ探索してみないかと誘われた。
悪いことじゃないので、放っておいてもいいのだけど……。
何かあって、毒性に変わったら大変、なんて言われてはうなずくしかない。
「最悪の場合、川をせき止めてとか考えないとですね」
「そこまでのことはたぶん、ないとは思うんだけどね」
現地に行ってみないとわからないという結論は変わらず、就寝。
例のごとく、まだ朝も薄暗い時間に目を覚ますことになる。
窓を開け、冷たい空気を感じながらハンドガンを手に、動きの確認。
軽く力を練ることも忘れない。
そうして気が付くのは、自身の変化だ。
(機体だけじゃない……私も……)
ゲームのように数値は見えないが、諸々の向上を感じる。
いいことだけど、少し不気味でもある。
筋力はともかく、石の力を扱う能力の向上は、もともとあったかどうかわからないからだ。
戦える力があるのは、悪いことではない。
ただ、自分が把握できないものがあるのは、少し怖いところ。
「やるだけやるしかないか……」
小さくつぶやき、確認作業を続ける。
そして起きてきたカタリナとともに、準備をして現場に向かうべく、外出。
まず向かう先は、カインの店。
そこで、空きコンテナをいくつか借りるのだ。
「おはよう。早いわね」
「商売は時間との勝負だからな」
すでに店に出ていたカイン、そしてそのそばには少年。
見覚えがあるのも当然で、ここを紹介したのは私なのだから。
「元気そうね。稼げてる?」
「うん、じゃない。はい! 母ちゃんも元気になりました!」
「そう、よかった」
家族環境は、良好なようだ。
温かい気持ちになりながら、コンテナを2個、借りる。
何かあった時に、回収するためだ。
「めぼしい物がなければ、すぐ帰ってくるわよ?」
「そうならないことを祈ってるよ」
どういうことか、少し気になる言葉を聞きつつ、出発。
向かう先は、以前水源の確認にいった山だ。
再び、往復一週間はかかる旅。
もう少しゆっくりしていたかったような、微妙なところ。
「レーテって、動いてないと退屈しますよね」
「そうかしら? そのつもりはないのだけど……」
これという目標がないと言われればその通りだ。
カラーダイヤを集めて、力を手にして、それで……来るであろう襲撃をどうにかする。
あえて言うなら、こんな感じだけど……ね。
「当てのない旅も、良いと思いますけどね」
「だったらいいじゃない。お人よしの、人助け旅よ」
車に揺られながら、そんな会話を続けるのだった。




