JAD-141「水神」
水の変化、一言でいえばそうなる。
けれど、浄水場やらの施設がない現在の文明では、大変な事態だ。
幸いなことに、飲めなくなったとかそういうわけではないとのこと。
問題といっていいのか、いまいちわからないような内容だというのだ。
「水が、美味しくなったんだよ。神様のおかげかな?」
「……それ、悪いことなの?」
「悪くなったってことじゃないんですね」
いまいち、要領を得ない。
水量が少なくなったとか、そういうのではなく。
水が、美味しくなった?
神様……水神とでもいうべき存在が?
「よくわかんないけど、お姉ちゃんたちみたいな人が、最近調子がいい、水のおかげだって」
「私たち……レーテ、探索者やジュエリストのことじゃないですか?」
「たぶんそうね。ん、ありがと。余所で聞いてみるわ」
食事も終わり、良い時間。
どこかといえば、酒場の類だ。
夜を騒がしく過ごし、情報も行き交う。
あまり遅くなるつもりはないわとだけ告げて、2人で外へ。
案の定、十分暗いけど、明るい建物もある。
「なんでしょうね、一体」
「さあ……ただの冗談かもしれないし、本当かもしれない」
子供が、自覚できるぐらい水が変わったということであれば、重大な話だ。
水源の浄化が行われたのか、もしくは……。
ともあれ、ここならもう少し違う話も聞けるのではないだろうか?
喧噪が外まで漏れる酒場の扉をくぐると、視線。
「おお? 誰が呼んだんだ?」
「おいおい、装備を見ろよ。そういう女じゃ……な……ラストピース!?」
「あら、知ってる人がいたわね」
何人かは、そういう目で見てきたけど、違う人もいた。
おどけて肩をすくめつつ、カウンターへ。
ここのマスターも久しぶりだけど、そうそう変わらないか。
「久しぶりだな。あちこちでそれらしい噂が出てるが、どこまで本当だ?」
「心当たりが多すぎるわ。それより、最近の水事情に関して、聞きたいんだけど?」
「それなら、俺が少しはわかるよ」
聞き覚えのある声に振り向けば、男性。
まだまだ若い、けど瞳には力が……ああ。
「カインじゃない、久しぶりね」
「ああ、久しぶり。相変わらず豪快だな」
「やっぱり、レーテは目立つんですよ」
急に、空気が柔らかくなった気がした。
興味がそれたというのもあるだろうけど、カインがうまい。
以前、男の子を弟子に紹介したこともあるけど、結構な商人だ。
「ははは。ここらじゃ、美女2人組の腕利きで有名だからな……っと、水の話だったな」
「そうそう。なんでも、調子がよくなるとか、美味しいとか」
すっと出されたグラスの水を、一口。
まあ、普通に水だ。
この水が件のってことでは……んんん?
「わかっただろう?」
「水だけど、何かあるわね。毒とかじゃなくて、何か」
「失礼……はい、何か成分に不純物があるわけでもないのに、何かが」
横からグラスをさらっていったカタリナ。
彼女の分析でもはっきりしないとなると、相応の物ということだ。
「そこまでわかるなら話は早い。最近、この町で水を飲んだジュエリストたちに、力の向上が見られるんだ」
「力の向上……それは、出力があがるとかそういうことよね」
うなずきの、肯定。
考え込みながら、私の知識がそれを否定する。
体調としての良し悪しはあれど、直接力を増す方法なんて、聞いたことがない。
この力は、地道な特訓と、多くの力の行使が経験になって……いや、待てよ?
(ゲームとしての記憶に、似たようなのが何かあったような?)
それは、クリアのための補助。
カプセル薬や、注射型のアンプルという怪しげな仕組みで。
一時的に、強化することができた……でも、水で?
「副作用というか、後から体の調子がってのは出てないのかしら」
「今のところは、無事だな。力がなくなるのが怖くて、他の土地に遠征できないな、なんて笑い話ぐらいさ」
それはそれでどうかと思うけど、大きな問題にはなってないようだ。
その後も、カインから噂話を仕入れるのだった。




