JAD-140「荒野の町で」
「へぇ。そんなことが……実入りはいいけど、準備が大変ね」
「まったくだ。あんたらみたいに、火力が高ければ十分なんだが……」
最近、ああいうのが多いんだ、という愚痴から始まった雑談。
途中で切り上げ、まずはタンセの町へ。
目的地であるタンセへは、意外に早くつけた。
どこか懐かしいような門を抜け、町中に。
(結構様変わりしたような、変わってない場所もあるような)
探索者やジュエリスト御用達の宿に一緒に向かい、駐車場で雑談。
弾薬の実費のほか、携帯食料を分けてもらった。
本当はもっとふっかけるのがよくあるパターンだろうけど、困ってるわけでもない。
でかけの駄賃みたいなもんだし、このぐらいが妥当よね。
「鉱山は少し距離がある。手近なところじゃ、あの岩の怪物が重要な資源だ。狙って狩ってるやつもいるらしいぜ」
「それでも、狩り切れない、と。あいつだけなら逃げられるし、防衛もできるんだけどねえ」
「獣も一緒のことが増えた、というのは厄介ですね」
そう。今回遭遇したように、最近はああいうセットが増えてきたらしい。
時には、岩の怪物、ゴーレムと獣やミュータントが争うこともあるのだとか。
大きさにもよるけど、ゴーレムの体は、それなりに高純度の鉱石であることが多い。
おそらくだけど、昔の人類が色々試した名残だと思う。
自動生成される仕組みが、どこかに残ってるはずだ。
「おっと、話しこんじまったな。もし一緒に何かすることがあれば頼りにするぜ!」
「支払いが良い限りは、大丈夫よ」
そんな冗談を飛ばせば、相手も笑いながら部屋に戻っていく。
私たちも……ひとまずはシャワーかしらね。
「久しぶりにゆっくりしましょうか」
「はい。疲労はないですけど、やっぱり休養は大事ですよ」
どこか、カタリナの笑顔も柔らかな物。
やはり、長い間車で揺られるというのは、精神的には疲れる。
彼女には、そういうものはないはずだけど……いいことだ。
宿に向かい、先に長めに駐車したことを謝罪しようとすると……。
「あれ? お姉ちゃんたち?」
「ん? あー……もしかして、前に外で助けた子かしら」
カウンターで受付をしていたのは、子供。
言われてからよく見ると、見覚えがある。
前に、この町にやってくる前に、荒野で救出した商人の親子、その子供のほうだ。
「そうそう。あの時はありがとうございます」
「いいのよ。お互い様だわ。アルバイトしてるの?」
「うん。あ、父ちゃんたちは無事だよ。自分で使えるお金が欲しいなって思ったんだ」
一瞬、頭に嫌な予感がよぎったけど、それが相手に否定される。
よかった、親に何かあった子供はいなかったわけだ。
となると、気は楽になる。
1部屋をお願いし、シャワーの予約もする。
水源がないわけじゃないけど、無駄遣いできるわけでもないようだ。
確か、車でも往復一週間といった距離なのだ。
「食事はどうする? 追加料金でステーキにできるよ」
「ならお願いするわ。ずっと旅しててね。しっかりしたのは久しぶりなの」
「後で持っていくね。先週、入ってきたばかりなんだ!」
鼻に届く香りは、そのためらしい。
この土地では家畜は育てにくいから、自然のある方から運んできたんだろう。
もっとも、私があまり気にしてなかっただけで、前から育ててたのかもしれないが。
楽しみにしながら、部屋へ。
そうして、男女で別れているシャワールームへ向かい、全身の砂と汗を洗い流す。
「水浴びとは、同じようで違うわよね」
「全くですね。石の力で水は出せても、気分は違うのが不思議ですよ」
私としては、人間らしくそんな感想を言えるカタリナもなかなかのものだと思うけどね。
相棒としては、とても心強いというか、うれしい変化だ。
部屋に戻ったことを伝え、食事を持ってきてもらうことにする。
しばらくして、ほかの部屋への宣伝も兼ねた香りの暴力が漂ってくる。
「おまたせー!」
「なるほどね。いうだけのことはあるわ」
「贅沢な話です、はい」
湯気をたてる肉と、そのほかの食事内容に頬が緩むのがわかる。
食事の時間は、短くも長く、終わってほしくない時間だと感じたことだけは記しておく。
至福の時間も終わりをつげ、片づけをしにきた少年に、聞いてみることにした。
深い話ではない。要は、儲け話はないか、だ。
「お仕事? うーん。物騒っていえば物騒だけど、お姉ちゃんたちみたいに強い人は……あっ」
「何かあるんですか? あまり料金は気にしない性質ですから、遠慮なく」
「それもどうなのかしらね。まあ、そのつもりだけど」
お姉ちゃんたちはお姉ちゃんたちだね、なんて少年に言われてしまう。
咳払い1つ、話を促す。
そして少年から聞き出したのは、井戸と、水源の話。
意外と、本格的な話になりそうだった。




