JAD-139「荒野を行く」
どこまでも青空が続いている。
先日までは、砂嵐に染まっていた空も、大地も、今は静か。
まばらな緑と、荒地。
そして、そこを貫く川。
砂が多く混じった泥水がひたすらに流れている。
「この川、最近復活した感じでしょうか」
「でしょうね。水辺にほとんど何もないわ」
上流を見れば、黒々とした雲を着込んだ山。
前は、ここも普通に川だったのが長らく渇いていたようだ。
雨が一切降らなかったとは考えにくいので、雨期にだけ出てくるとか?
さすがに、例の施設が色々と吸い取っていたからとは考えにくい。
砂自体は、そのせいだったと思うけど。
「自然が復活してくるといいのだけど……」
「いつ渇くかわからないのは、怖いですよね」
「そこよね。石でも埋め込めば、勝手に水が出てこないかしら?」
まるでホースで水を出すかの如く、高圧の水で攻撃を行うことはできる。
鎮圧用に使われたんだろうなあと思う手段だ。
本気でやれば、建物たちをなぎ倒すぐらいもできなくはない。
(ああ、力を引き出す装置がないとだめかしらね……)
考えながら、この思考のせいで、自然が荒廃していったんだと感じさせる。
人の、自分の都合のいい環境にしたいという欲求が、いびつさにつながったんだ。
「維持が大変そうですよ」
「それもそうね。さて、移動に集中しますか」
目的地へは、件の川を越えないといけない。
そのままでは横断できないので、施設を埋めた時のように石の力を使う。
「このぐらいなら荷台からでも行けるわ。できたら進めて頂戴」
「わかりました。一応、気を付けて」
手のひらを振りつつ、荷台の機体へ。
仰向けに寝た状態で、片腕だけを荷台から川側へ。
そして、石の力で鉄板のように岩を生み出し、川に乗せる。
まあ、簡易的な橋だ。
石の力を注いでいる限りは、丈夫なはず。
『移動開始……はい、大丈夫です』
「了解。解除っと」
多くは川岸に崩し、少しだけ川に砂として落ちていく。
深く考えちゃいけないんだろうけど、この砂とかってどこから来るのかしらね。
(近くから持ってきてるなら、急に地面に穴が!とかあるのかしら?)
施設を埋め尽くした時も、特に周囲に変化はなかった。
もしかしたら、もしかしたらだけど、石の、星の力は物質を変換……そんなわけないわよね。
『レーテ? 戻ってこないということは、何かいましたか?』
「ううん。少し考え事してただけよ」
コックピットから再びトラックの助手席へ。
トラックも、そろそろしっかり整備した方がよさそうよね。
「おかえりなさい。ずっと押し黙ってたから、何か見つけたのかと」
「ふふ、ごめんなさい。道は特に問題なさそうね」
そして、またしばらくは無人の荒野を進む。
時折の緑、そして遠巻きの獣。
ふと地図を確認していくと、偶然にも見覚えがある場所だとわかる。
そう、あの商人の親子を砂嵐から助けたところまで、あと少しだ。
「開拓が少しは進んでるといいのだけど」
「この辺りは変な獣も少ないみたいですし、案外順調なんじゃないですか?」
「案外、そうなると油断する人も多いのよね。あら?」
視界の先に、砂煙。
何かが走って……車両だ。
「スキャン開始。特にこれといった特徴はないですね。何かから逃げてる感じでしょうか」
「そうね。無線を飛ばしてちょうだい」
自分でいうのもなんだが、こっち側には何もない。
方向を変えれば、開拓村というのか、そういう場所はあるはず。
商人親子も、そことの行き来にこのルートに絡んでいたはずだ。
『通信? 誰だ!』
「通りすがりのジュエリストよ。何かお困り?」
『岩の怪物が、獣と一緒に襲い掛かってきやがった!』
カタリナに合図し、速度を上げる。
そうして見えてきたのは、確かに岩の塊が動く姿と、その周囲の獣たちだ。
獣たちの中に、石の力を感じる。
岩の化け物、ゴーレムを従えているのか、はたまた偶然か。
「機銃で牽制、逃げないようなら機体を出すわ」
「了解。オート発砲開始」
車内でもわかる音が鳴り響き、弾丸が飛んでいく。
それは集団の正面に突き刺さり、動きが止まった。
「あっさり引いていきましたよ」
「逆に厄介ねえ。知ってるんだわ。火器の強さを」
問題が先送りされただけなのだけど、今は後回しだ。
逃げてきたトラックに合流し、無線越しで会話と行こう。
「ひとまず何とかなったと思うわ」
『助かった。あの大きさだと、さすがにな』
本当は、JAMの一機か重火器を備えておくべきだと思うけど、難しいか。
そんなお金がないから、ということがほとんどだものね。
『タンセに行くんだろう? 付き合ってもいいか?』
「ええ、いいわよ。その代わり、先にね」
『ああ、そのぐらいは当然だ』
後ろから撃たれないため、という理由があるのだけど、相手もわかっている。
車両の向きを変え、そろって砂煙を上げて進むのだった。




