JAD-013「人でない物」
人型兵器を駆り、命を懸けて仕事をこなすジュエリスト。
そんな人種の1人である私、ライフレーテ・ロマブナン。
仕事にこだわりはないつもりだけど、逆に言えばやれることしかやれない。
「掘るほうに転職した覚えはないのだけど?」
「ああ、いえ。そういうことではないんですよ」
眉をひそめて問いかけると、慌てた声が返ってきた。
改めて話を聞けば、なるほどというものだった。
要は、鉱山に現れる邪魔者を退治してほしいという話だったのだ。
「ちょっと待って? 機体が入れるほど、大きい坑道なの?」
「鉱床に当たるまでは機械掘りで、既に倍ほどは高さがありますよ。むしろ、手掘りは細かい部分だけですね」
私の中にあるイメージが、結構な勢いで崩れていった。
そりゃあまあ、工場で使うような規模で採掘するなら、手掘りじゃ追いつかないか。
普通の岩盤部分は機械で掘り、有用な部分は調整をかける、と。
とはいえ、これには厄介そうな要素もついて回っている。
邪魔者も、それだけ大きいということで……。
「多くがゴーレム体ですね。後、いわゆるスライムが少々」
「なるほど。そうなると生身は怖いわね」
私以外にも何人かのジュエリストが話を受けるようで、鉱山の規模を実感させる。
担当するのは、複数ある坑道の1本ということだ。
「今からでもよければ、ぜひ」
「オーケー。ちょっと準備に時間貰うわ」
その間にこちらも人を呼ぶ、そう告げられながら仕事として受領。
ブリリヤントハートの外観を伝え、コックピットへと戻った。
「どれでいきます?」
「そうねえ……JAMが入れると言っても、狭いことは狭いし……ルビーは無し。ダイヤの光線もダメね。エメラルドたちで風や雷も微妙……うーん、トパーズかシトリンあたりで同属性にしましょう」
宝石を媒介に、力を引き出すJAM。その力にも相性といった物が存在する。
いくつか法則はあるのだけど、一番わかりやすいのは同じタイプの力は相殺し合うということ。
今回で言えば、ゴーレム体の動きを同じタイプであろう茶色、土や岩の力を引き出す宝石で相殺しようというのだ。
「琥珀は少し違いますもんね。じゃあトパーズにしましょう」
頷き、ケースから大きなインペリアルカラーのトパーズを取り出す。
とある仕事で手にいれた、かなりの大きさのものだ。
タイプが同じでも、石の差が力の差になるわけだから、多少は有利のはず。
「貴石変換完了。行けますよ」
「あっちも準備OKみたいね。呼ばれてるわ」
集まってきた集団に挨拶をしてから、鉱山へと向かう。
街から数時間といったところの、山の中。
ちなみに道中は、自警団のような連中が護衛していた。
(ご飯の種だもんね。やる気はマシマシと)
このルートが封鎖されれば、とんでもないことになるのは街の人間もわかっている。
だからこその、自衛なんだろうなと思う。
「結構お金かかってると思うんだけど……良いのが掘れるのかしらね?」
「反応を見る限り、石英が主のようですけど」
石英、水晶……基本的にはJAMクラスの動力に使われるものだ。
一部は、宝石に準ずる扱いのものもあるけど、大体はそうじゃない。
地球でいうところの、原油に近いんじゃないだろうか?
「貴石の類が出てくるのなら、黒字なんだろうなあ」
そんなことを呟きながら、お仕事の場所へと案内される。
既に多少は掘ってある坑道、その奥だ。
『拠点用に拡張していたら、奴らが出て来た』
「了解。始めるわ」
警戒しつつ、ライトも点灯。
そのまま機体を歩かせて進む。
光に照らされる中、動く物が……うん、いた。
「ゴーレムを4体確認。少し、小さいですね」
「小さいってことは、早いってことよ。ブレードで行くわ。通常分で」
一応、この前拾った形のブレードも装備はしている。
切り札のつもりなので、いきなりは使わない。
普段使いの方を手に持たせ、力を流す。
「動き出しました。……壁を飛んだ!?」
「ほらね!」
まるで動物の猿のように、飛び回り始めたゴーレム。
これじゃあ、掘っていられないのも無理はない。
あまり自由にさせると、壁も崩れるかも。
「まず1つ!」
光るブレードを振り抜き、ゴーレムの1体を両断。
コアごと斬れたようで、岩塊に戻ったのを確かめつつ次へ。
今度は2体同時に襲い掛かって来たけれど、まだ遅い。
JAMとしては、このぐらいなら!
「殴ることだって、出来るのよ!」
片方は斬り、片方は開いている手で殴りつけた。
もちろん、そのままだとこっちがダメージを受ける。
にも拘らず、殴られたゴーレムは大きく吹き飛んでいった。
そのからくりは、手首に相当する部分にある機材だ。
ブレードや光線銃ほどじゃないけど、ジェネレータからの力をまとわせるオプション品。
噂じゃ、JAM戦もこれで格闘戦にする機体もあるんだとか。
「さ、続けましょ」
暗がりに動くゴーレムを相手に、私に油断は無かった。




