JAD-138「ルーツ」
「これとこれとこれ、持ち出す奴のリストよ。確認して頂戴」
『律儀ですね、ユーザー。もう所有権を主張する者は生存していないだろう状態で』
過去との邂逅から数日。
施設内を探索した私たちは、保管されていた石や資料、物資を選んでいた。
メインは、鳥の卵ほどもあるブルーダイヤ。
明らかに、気配が違う。
今、動力として使うには機体側が足りない気がするほどだ。
『それ1つ稼働させるのに、この施設ほとんどを占有しますからね。だからこそ、各地に分散してるわけですが』
「ほかにもここみたいな施設は残ってるんですか?」
「行けるとは限らないけど、もし知ってるなら……」
モニターの中で、女性は悲しい表情になる。
つまりはこう、そういうことか。
『ユーザーたちの持ってきた映像、あれは本物です。ただし、世界に脅威が迫っている時の物です。すでに、大陸のいくらかは被害を受けていたのに、まだなんとかなるから余裕がある、なんて思っていたようです』
結果、望みは薄いだろうということだった。
どこでどう出てくるかはわからないまま、だけどね。
ともあれ、回収したものをしっかり使えるように頑張ることを伝え、お別れの時間。
長引かせても、仕方ないだろうということだ。
『外の警備には帰還命令を出してますので、収容次第、お願いします』
「それなんだけど、ひとまず周囲を砂で埋め尽くす、でいいかしら?』
モニターの中で首をかしげる女性。
その姿を見て、ますます気持ちが固まった。
「簡単な話よ。昔話ができる相手は、いてほしいの。全部終わったら、掘り返しに来るわ」
それに、私の可能性たちをちゃんと弔ってあげたい。
そのことが伝わったのか、モニターの中も、隣のカタリナも、同じようなため息をついた。
やっぱり、似てるわね、貴方たち。
「ありがとうございます」
『私からもお礼を。ああは言いましたけど、消えたいわけではないですからね。いつか、話を聞きたい』
「ええ……その時はぜひ、ね」
最後の一言だけは、男女もわからない、ひどく疲れた声だった気がした。
荷物を持ち、立ち去る背後で、なぜか女性がお辞儀をした気がした。
機体に乗り込み、無人の廊下を進む。
時折、こちらを気にしていない機械が戻ってくるあたり、ちゃんと帰還命令は効いているようだ。
「ここ、荒地のままですかね」
「どうでしょうね。力が枯渇してるわけじゃなさそうだから、復活はしていきそうだけど」
外に出ても、やはり荒野。
砂嵐はないため、余計に広々として見え……うん、緑はまばら。
でも、周囲に力の枯れた様子はない。
それどころか、どこかエネルギーの行先に迷っている様子すら感じられる。
施設で使っていた動力が維持分を除き、周囲から取り込む力を減らしたからだろう。
「動体反応なし。全部中に入ったみたいです」
「了解。じゃ、始めましょう」
岩山から機体を離し、武装を構える。
メインはトパーズ、そして動力補助としてダイヤ。
「ひたすら砂と砂利を放出していくわ」
「貴石変換完了。いつでも!」
畑に水を撒くかのように、勢いよく力が発揮されていく。
どこまでも伸びるような、砂の放出。
ある程度積もったところで、不思議な力で岩のように固まっていくのだ。
これで、しばらくはそのまま。
力が抜けても、そうそうむき出しにはならない。
その間に、完全に埋もれてしまうわけだ。
「ちゃんと、掘り起こしに来ないとね」
「はい。でも、本当に来るんですか?」
何が、とはカタリナも言わない。
私自身も、いつかはわからない。
この星に、侵略者が来るのがいつか、なんてことは。
ただ、なんとなく……本当になんとなくだけど。
「私が動けてるうちに、だったらなんとかできるかなあって思っただけよ」
力を放出しながら、雲1つない空、その先の宇宙を眺めるのだった。




