表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

138/278

JAD-137「スペーストラップ」



『私の態度に疑問を抱いていますね、ユーザー。さっさと種を話しますと、私が目覚めたのはおおよそ約18万時間、標準時間でいうと、20年ほどになります』


「20年……」


 短いような、長いような、何とも言えない時間だ。

 というか、結構早口ね、この子。


『月の数や自転も違うので、本家とは単位は同じでも、実際の数値が違うんですけどね』


「本家? どういうこと?」


『そのあたりは残っていませんか。かつて、人類は別の星に繁栄していました。そこから、宇宙へと進出、そのほとんどが失敗でしたが、ここは数少ない成功例です。ま、機械が遺伝子情報から再生したんで、天然物の人類はもともといなかったってだけですよ。なーんて、私もデータでしか知りません。本当かどうかも』


「ずいぶんと個性的ですけど、もしかしてこの人格は……」


『スキャン確認……ああ、うらやましい。そちらは出歩けるのですね』


 モニターの1つに、少し古さを感じる姿で、妙齢の女性が表示される。

 壊れかけなのか、写ってない箇所が多いけれど。


「やはり……レーテ、これは私の可能性、ですよ」


 納得しかない言葉が飛んでくる。

 JAMもどきを動かすためにいたのは、私の可能性。

 そして、施設維持のためにいるのは、カタリナの可能性。


『人類は、未知の恐怖におびえていました。まあ、これはよくあることですね。古来より、そうして人は武器を作り、脅威を排除してきたのです』


『ただ、人類はやりすぎました。未知の恐怖に対抗するために、どこまでも刃を磨いた結果、いざというときに、その力は強すぎたのです』


「文明崩壊に関係があるの?」


 なんとなく、わかる気はする。

 JAMをはじめとして、昔の武器でもそうだけど、威力のほうが高すぎる。

 正確には、防ぐ手段がなさすぎるというか……。


『はい。ここまで来たのなら、目撃しているでしょう。人類そのものもそうですが、どうやって生き残っているのか謎な生物、そして』


「明らかにおかしい技術が、たまにありますね……そもそも、JAMたちの動力源も……」


「どこまでがそうなのか、今となってはというところかしら」


 宇宙からの隕石、その中身を参考にした石の力、星の力のシステム。

 それは使い過ぎにより、自然を荒廃させる結果を生んでいる。


『石の力、引き出された星の力は、いうなれば活力です。データによれば、数値化はできても、電気のように管理して扱うことはできなかったようですね』


 落ちてきたオリジナルを除いて、と続いた。

 つまり、人類の技術では、石の力は完全ではない?


『私自身は、その補助を行うために設計されたようですが……まあ、御覧の通り。パートナーは開発に失敗、流用はできましたが、それももう終わりですね』


『私よりも先に施設と彼らは目覚めていたようで、もうどうしようもありませんでした。ただただ、施設の秘匿と残された命令を実行するしか』


「どうして、眠らせなかったの? あんな姿になってまで……」


 言いながら、自分でも理由はわかっていた。

 理由が、欲しかったのだ。

 この世界に、生まれてきた理由も知らず、何もせずに死ぬのは……つらい。


『貴方の考えた通りです、ユーザー。何かしてから、何かを残してから行きたい。そう願われたのです。教育ソフトの結果かもしれませんが』


 モニターの中の顔が、悔しそうにゆがむ。

 やはり、感情豊かなAIだ。


『話がそれましたね。おそらく、カラーダイヤの情報を求めて、でしょう? あれは、本物です。何か出てくるわけではありませんが、ダイヤをそろえるほど、星の力のパイプは太く、確かになります』


「昔の人たちは、どうして使わなかったの? いえ、使えなかったのかしら」


『はい。使い道がなかった、というのが正しいでしょう。あの日まで、そんな矛先を向ける相手は、いませんでした。ですから、その準備もまともにはされていなかったのです』


 言葉の節々に、不穏な気配を感じるようになってきた。

 なんとなく、これまでの旅でも感じていたこと。


 この星は、何らかの攻撃を受けていたんだということ。


『まともに映像等は残っていません。あるいは、あえて残さなかったのかもしれませんが、とあるとき、隕石が多数飛来したようです。そして、迎撃しきれなかったその隕石が、始まりでした。各地の大都市が謎の襲撃を受けるようになり、並行して海の生物たちが変化、異常な事態が始まりました』


 それから説明されたのは、それこそ、映像メディアの創作のような話だった。

 石の力を使う謎の勢力が世界を侵略し、人はそれに抵抗。

 けれど、そんなときでも人同士の争いは収まらず……異常な生物、ミュータントも参戦。


 そして、人類はかろうじて勝利したが、その文明のほとんどを失った。

 まるで、この星に人類自身がやってきたときのように。


『どうやら、飛来したのは極一部だったようですね。本体であったなら、人類は負けていたかもしれません。先にこの星に住み着いたのにも関わらず』


「面白い話だわ。その方が都合がいい、という点では満点よね」


「レーテはこの記録が、嘘だと?」


 首を横に振り、適当な椅子に座る。

 立ちながらで考えるには、少々重すぎる話だ。


「いいえ、本当だとは思うわ。当時の人類もそう思ったんだろうけど、最初の隕石自体は偶然で、それ以降は仕組まれてたと思う」


 何かの時に妄想したけど、宇宙の何かは、こうして襲撃してうまみのある場所を探している。

 その検査というのか、偵察が隕石だと思うのだ。

 うまく仕組みを解析し、流用できる文明であれば、その力が探知できる。


 つまり、石の力を使うことで宇宙の何かを誘導していた、という考えだ。


『当時の研究員らの仮説もほぼそうです。宇宙の広さの中にあって、石の、星の力を使うということはまぶしく見えるのでしょう。並行して、さらなる隕石の襲来が予想され、メテオブレイカーが生産、最終的にはスタースレイヤー、別名竜騎兵が作られ……まあ、世界は荒れ果てたわけですよ』


 聞いてみると、肯定が返ってきた。

 その返答を最後に、急に静かな時間が産まれる。


『ユーザー、お願いがあります。ダイヤを持ち出した後は、この施設を砂にすべて沈めて下さい』


「それは……ええ、わかったわ」


 カタリナも、神妙な表情でうなずいていた。

 複雑な感情を胸に、もう眠りたいという意志を尊重することにしたのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 某ゼーガペインとか某DTエイトロンとか、設定的には全くの別物ですが、何となく思い出しました。…はっ!私の歳がバレ_ NO CARRIER
[一言] 復旧して基地化、再生産で完全体部下量産とかはやらないのか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ