JAD-136「可能性たちの墓」
「これで、どうして動いて……生きている?」
「うっすらと、石の力が膜のように覆ってるわね」
大きさはブリリヤントハートの半分ほど。
ずいぶんと小柄な相手だ。
武装はしっかりとしており、戦えそうなのが怖い。
その場で、じっくりと観察していると……こちらに向かってくる。
「いえ、これは……私たちを認識していない?」
ふと、感じたものがあった。
その場を移動してみると、相手は何事もなかったように移動を続ける。
それはまるで、決まった場所を移動しているだけのよう。
「レーテ、まさかあれは……」
「ええ、たぶん。部品として残ってるだけだわ」
生きているけど、死んでいる。
自分を保てていない、生体部品としての何か、なんだろう。
岩山兼建物に近づくと、さらに異様なことがわかる。
門番と言えそうな感じで、さっきと同じのが2機。
こちらも、侵入者のはずの私たちに見向きもしない。
その姿に、哀れみよりも、親近感が芽生えてしまう。
この感覚を、私は知っている。
「行きましょう」
「はい」
覚悟を決めて、建物へ。
岩山を利用した、基地といった方が良いだろうこともわかってきた。
石の力が働いているのか、入り口は開いているけど、何かフィールドがある。
不思議と、機体はそれをするりとすり抜け、中へ。
「なんでしょう。初めてなのに、久しぶりのような」
「そうね。私とカタリナ、2人の眠っていた場所に似てるのよ。技術がね」
「あっ……」
もちろん、見た目は3つとも違う。
けれど、雰囲気というか、根幹にある技術が同じなのだ。
その証拠に、知らない場所なのに迷わずに進める。
いくつもの通路、小部屋は無視。
奥にあった大きな扉。
JAMが通過も可能な大きさのそれを、そっと開く。
「今、スキャンされましたよ」
「でしょうね。私たち、招かれてる」
そこは、研究所であり、工場だった。
何年たっているかはわからないけど、古ぼけた機材たち。
でも、まだ生きている機械群。
いくつものモニター、いくつもの……シリンダー。
実験そのものは続いていないのか、現状維持といった感じだ。
液体で満たされたシリンダーの中には、人影。
男も女も、老いも若きもといったところ。
ただし、みんなほぼミイラ化している。
まともには生きていない。
せいぜいが……外のあれのように使えるかどうかだろう。
「これは、何なんでしょう」
「私よ。私の、可能性だわ」
この場所に入ってから、ズキズキと頭が痛む。
刺激が、記憶を揺さぶる。
(ああ……私は、生きているんだ)
そんな言葉が浮かび、涙がにじむのがわかった。
ここは、私と同じ存在を研究していた場所の1つだ。
おそらく、私がいたのが支部のようなもの。
本命は、ここだ。
無事なのが、支部、予備である私だけっぽいのがさらに切なさを感じさせる。
「降りるわ。危険があるかもしれないけど……」
「最後までお供しますよ。かけがえのない相棒じゃないですか」
そんなのはいいのに、と思いつつ、感謝を告げる。
かけがえのない相棒、そのことにうれしく思う。
念のために武装はしつつ、コックピットから外へ。
一番目立つコンソール、モニター群へと近づく。
と、電子音が響いた。
「もし、もし私が正気を失うようなことがあったら、どうにかして止めてね」
「わかりました。キスしてでも止めて見せますよ」
笑いながら、コンソールにある認証装置へと手を。
知っているものと、使い方の変わっていないことに少し驚きつつ、待つ。
そして……ランプがグリーンに。
『エンハンサーの情報を確認。前回認証日時……不明。ようこそ、未登録者』
「文明崩壊と情報伝達の断絶が発生。共有を求めるわ」
適当に思いついたままを口にしてみる。
そもそも、反応してくれるかどうかも賭けだったけど……。
『防衛機構が自動制御されていることを確認。さて、何からお伝えしましょうか。おとぎ話風に行きましょうか』
案外、お茶目な管理AIらしい。
戸惑いも感じつつ、口を開く。