JAD-135「荒野の生存者」
「つまりは、これは不慮の事態だと?」
「かもしれない、ってぐらいよ」
トラックの荷台で、機体の姿勢を変える。
どこまで行くかわからない以上、トラックごといかないとだ。
普段なら、地面に設置するように展開する防御フィールド。
名前のわりに、砂ぐらいしか防げないそれを、機体を中心にした展開へ。
砂嵐に向けて車を走らせるという、普段なら自殺行為に思える行動。
でも、予想通りに、石の力が風に干渉を始めた。
油の塊の中を、熱い石が滑りぬけていくかのようだ。
「やっぱり……前に言ってたじゃない? なんでセンサーより先にわかるのかって。これ、ただの砂嵐じゃない。石が関わってるわ」
「言われてみれば……だとするとこれは?」
「誰かの意志がこうしてるのね。今、生きてるかはわからないけど」
生存者に対して濁したのには理由がある。
運用面もそうだけど、そもそも石の力を引き出すための動力源、これが問題だ。
細かい調整、出力の強弱をやるには、なかなか大変なのだ。
少なくとも、今の時点で人類が製造できるものでは難しい、そう思う。
つまり、この砂嵐の原因は……ある程度以上はそっちの技術を使っていることが確定している。
「スキャン継続中。確かに、力の波を感じます」
「これまで気が付かなかった、私たちの問題ね……」
意識してみると、途端に見えるものが変わってくる。
いいことなのか悪いことなのか、それはわからないけど……。
普段の倍ほどの速度で、砂嵐の中を突き進む。
不思議なことに、目視では何も見えないけど、力の流れを見ることで地形が丸わかりだ。
風が避けていくところは、何かあるということだ。
そうして、記録にすると半日は過ぎたころ……急に砂嵐を抜けた。
何か、硬い皮を突き抜けた感覚。
普通のトラック等なら今のは超えられず、吹き飛ぶんじゃないだろうか?
「機体チェック! 砂の噛みは?」
「ほとんどありません。いつでも!」
視界に写る、荒野。
遠くに、何か動くものが?
「機械……? こんな場所に?」
「シールドはまだ解かないで。近づいてみましょう」
砂埃を上げながら進んだ先に、そいつはいた。
ぽつんとたたずむ金属的な何か。
不格好な四つ足で、頭には赤色灯。
脈動するかのように点滅するその光は……石の力だ!
「武装は確認できません」
「いらないのよ……こいつが、原因の1つだわ」
モニターに写している砂嵐とを交互に見る。
偶然だろうけど、バレたかとばかりに、赤色灯が力を帯びた。
これが隠したい秘密の中に、飛び込めたらしい。
四つ足は、思ったより俊敏な動きで、移動し始めた。
逃げるつもりか、それとも単に砂嵐の場所を変えるだけなのか。
「壊したらややこしいかもしれないから、無視!」
「え、レーテ!?」
戸惑いの声をそのままに、中心部へ向けて突進。
そのまま四つ足の脇を抜け、奥へ奥へ。
追いかけてくるように、力の波動が周囲に広がり……風が産まれる。
砂嵐が、時折無風になり収まっていたのはこのせいだったのだ。
(砂嵐のおおもとが、移動していたならわからないわけよねっ!)
今度は、追い風となった砂嵐。
偶然にも抜けた相手には、これでトドメとばかりに仕掛けるようだ。
その力を逆に借りて、突き進む。
「どこまで行くんですかっ!?」
「どっかにあれの拠点があるはずよっ。例えばそう、アイツが来た方向とかにね!」
砂嵐がまだ薄い中、ぎりぎりで岩らしきものが見える。
とっさに回避したのは、残骸だ。
中にもともといたのか、あとから来てダメになったのかはわからない。
力の、星の力の流れるのを確認しつつ、さらに進む。
そうしてどれぐらいたっただろうか?
「前方に何か反応があります! 大きい……」
「攻撃に警戒しつつ、接近するわ!」
覚悟を決めて速度を上げると、音を立てて砂嵐を抜けた。
とたん、視界に荒野以外の物が飛び込んでくる。
大きな、大きな岩山。
ただし、明らかに……。
「人工物……?」
「っぽいわね」
もとは普通の岩山だっただろうそれが、人の手によってか加工された場所。
そびえたつ壁のように見えるそれの前に、トラックを止める。
振り返れば、砂嵐。
ただし、どこからかくっきりと境目がある。
まるで……そう、まるで防御フィールドの様。
見渡せば、岩山を囲うようにその境目が存在した。
隠す場所もないので、仕方なくトラックをそのまま停車し、機体へ。
「少なくとも、何かフィールド発生装置は生きてるわね」
「気を付けてください。金属反応、多数です」
立ち上がらせつつ、機体にライフルを握らせる。
背面武装もアクティブに。
石はダイヤとイエローダイヤ、そしてブルーサファイアだ。
いざとなれば収束しきれなくてもこの大容量のエネルギーを放てば……。
と、視界に動くもの。
それは明らかに機械で、武装もしているように見える。
「っ!? 何、これ……」
「JAM?……レーテ、あれは……」
ある意味、無人機より驚くべきものがそこにはあった。
小さ目のJAM、ただしコックピットがむき出し。
そして、そこにはミイラとなった人型が収まっていたのだった。




