JAD-134「砂塵の中で」
「補給には寄らないんですか?」
新たな目的地への移動中、そんなことを言われる。
確かに、西へ西へと戻りつつ、町にはほぼ立ち寄っていない。
ルート的に、そこの方が良い場合にとしている。
それ以外は、できるだけ最短ルートだ。
「なんかね、早い方が良いって気がしてるの」
「カン、ですか」
そこまでの物ではないと思うけど、と返事をしつつ、地図に改めて目を通す。
実測でしかないけど、この地図データもお金になりそうよね、売らないけど。
どこかちぐはぐなこの世界。
といっても、不慮の事態が重なれば、こうもなるかなと思う。
かつての人類は、それこそ宇宙にも進出していたほどだ。
うまくいけば、他の星に……なんてことも?
「私たち以外が、カラーダイヤをそろえても面倒な気がするしね」
「それは、そうかもしれません。おとぎ話みたいなものですから、本気にしてる人がどのぐらいいるか」
「一番の問題はそこよね。確かにダイヤは石の力も強いし、価値はあるけど……ブリリヤントハートみたいに複数搭載できるなら、になるんだもの」
探索や戦いをこなしてきたことで、機体のほうも変化が出ている。
核、動力部分の強度が増しているというし、出力の最大値も増大。
気のせいではない程度に、全長も大きくなっている。
「3個目の石枠、増えてきてるんですよね?」
「そうね。どこかで試さないと」
1つでも強力で、2つとなれば地域のトップ、そこで3つとなれば……。
そのうち、ドラゴン相手に格闘ができるようになるかもしれない。
自然に生まれたとは思えない生き物を思い出しつつ、資料を読み進める。
石の力を使った、宇宙でのコンテナ輸送の記事もあった。
「動力源……クリスタルジェネレータの新型を開発に成功? ふむ……」
ニュース記事の塊みたいな資料だったけど、面白いことは面白い。
かつての人類は、石の力を引き出す核部分、その模様めいた配線をある程度解析できていたようだ。
今の人類では、その通りの生産はできないのだけど……。
(やっぱり、人為的だって思うわよね)
隕石として落ちてきた石。
大きさのわりに、被害が少ないのは当時から議論を呼んだらしい。
石の力が働いたのだというものから、何者かの意志が介入しているのだという話も。
面白いのは、今となってはトンデモな説ほど当たりだったことだろうか。
「レーテは……もし、ほかの星の生き物が攻めてきたらどうします?」
「どうもこうもないわよ。前にも言ったかもしれないけど、そのまま死にたくはないから」
襲われるなら、襲い返す。
撃とうというのなら、撃ち返す。
ただ……それだけだ。
「ですよね。私もまた眠りたくはないです」
「正直でよろしい……ん、これ、誤植かしら。この写真だと、月が4つもあるわ」
とある記事の中にある、町の風景。
ビルが立ち並び、無数の灯りが地上を照らす中の空。
そこには、丸い何かが4つ浮かんでいる。
「今は4つじゃないですよね。なんなんでしょう」
「大型の衛星? いや、でもこの大きさは……」
謎の月、その正体を見極めるのは、今は難しそうだ。
荒地を進み、揺れる車内。
残り3つの月は、どこへいってしまったのか。
そんなことを考えていると、ぞわりとした感覚。
「前方確認、久しぶりね。砂嵐だわ」
「まだここ、森が近いですよ!?」
言いながら、遠くが少し霞がかってきたのが見えた。
森を抜け、荒野に入ったところではあるけど、たまーにはあるんだろう。
「偶然でしょうね。防御スクリーン用意」
「了解。細かい場所に砂が入ると、大変ですからね」
石の力を使った、簡単な力場。
そうした形の防御スクリーンが、トラックごと半円状に展開される。
巨石が飛んできたりしたら大変だけど、普通の砂嵐なら大丈夫。
(虫よけには便利なのよね……)
そんなことを思いながら、見つめる先のモニター。
だんだん砂嵐に占拠されていくのを見守り続け……ふと気が付いた。
「……そう、か。そういうこと」
「どうしたんです?」
「砂嵐よ。これ、本当に自然に発生してるのかしら」
あっ、と。
カタリナのかわいい声を聞きながら、砂嵐のおおもとはどこか、思いを巡らせる。