JAD-132「遺産相続」
「思わぬ臨時収入でしたね」
「まったくだわ。金が出たって噂を確かめに来ただけなのにね」
探索を進め、ひとまず危険はなくなったことを確認した私たち。
めぼしい物は拾い、外に出た。
こうなると、あとは本当の意味で早い者勝ちだ。
主に徒歩と小型車両で飛び込んでいく人々を見送りながら、推定大型輸送船を見渡す。
探索結果は、ある程度共有されているらしい。
というのも、みんなが組織だって狙った場所に飛び込んでいくからだ。
「感じ的に、まだしばらくは大丈夫そうね」
「町1つ分みたいな大きさですよ、コレ」
周囲のスキャン結果や、地形の観察結果を合わせると、大体見えてくる。
持ち出された区画は、まだまだごく一部だ。
本当のところはわからないけれど、遺産相続は成功したといえるんじゃないだろうか?
この資源で、地域の人類は色々と整え、生活環境、そして文明を取り戻していくだろう。
「この中身が、資源より重要かどうかは……見てみないとわからないわね」
「金庫の中身ですよね? 保存用の容器にわざわざ入ってる記憶媒体なんて……」
かなり昔の物だけど、幸いにも今も読み取り装置があるものだった。
いつぐらいだかはわからないけど、こういうのが統一されたんだよね。
念のための検査はしつつ、データを確認することにした。
いくつかの画像と、動画。
変なのではないことを祈りつつ、再生だ。
「宝石……ですかね」
「そうね。良い輝きだし、とても大きいわ」
無音で映し出されたのは、何かの展示会場のようにも見える。
ずいぶんと豪華な会場なようで、きらびやかな装飾が壁一面に施されている。
無数の宝石たちが並び、不釣り合いにも見えるモニターが添えられている。
その姿を見て、ぴんと来た。
(これ、動力用の宝石だわ……)
すべての宝石、石が星の力を引き出せるわけじゃない。
品質やカットの関係で、その力にも差が生じてくる。
こうして売る際に、力をわかりやすく見せているんだろう。
そんな中、厳重に守られた棚に、いくつかの宝石が特に目立って見えた。
カラフルで、とても強い輝きを放っている。
「……これ、ダイヤだわ。カラーダイヤ、間違いない」
「これが!? 確かに、無色と、イエロー、グリーンダイヤは一緒ですね、輝きが」
映像には、ここ最近は見たことがない文字も踊っている。
いくつかを拡大して確認すると、そこにはうたい文句が書かれていた。
例えば、星の力をこの手に。
ほかにも、仰々しい言葉が並んでいた。
「人造か、豪華にそろえたか……そこまではわからないけど、お披露目とかそういうのみたい」
「なるほど……存在はした、これがわかっただけでも十分ですね」
無言でうなずきを返す。
カラーダイヤの伝説は、どこまで本当かはわからない。
けれど、こうして映像がある分には、それなりに本当らしいとわかる。
問題は、どう手に入れるか、なのだけど。
その答えは、画像データが握っていそうだ。
「こっちは、何かのレポートね」
画像データは、文章を画像にしたものだった。
流し読み程度だが、確認できたのは紛失、事故、襲撃、そんな単語。
「輸送部隊が襲撃を受けた、事件調査報告みたいです」
「さすが。次に行く場所は決まったわね」
その事件があった場所、そして向かった先の探索だ。
やみくもに世界を回るより、確実ってものだ。
問題は、今の地形とこの時の地形が一致してる部分があるか、だけど。
「レーテ、運命って信じます?」
「何よ、急に。そりゃあ、私たちが出会ったのは運命って言ってもいいんじゃない?」
本当に、そう思う。
偶然に偶然が重なった、奇跡的な出会い。
前に見た夢のように、カタリナが相棒じゃない世界も、もしかしたらあったかもしれない。
今のところ、彼女以外を相棒にするつもりはまったくないけれど。
「ふふ、ありがとうございます。ええっと、それはともかくとして。事件は1回じゃないみたいで」
モニターに写されたいくつかの画像と、強調された文章。
どういう仕組みか、地形情報も含まれていたようで、かつての映像も一緒だったらしい。
それを眺めつつ、横から出てきた映像は……。
「これ、本当なの?」
「嘘は言いませんよ。情報的に、確率が高いのはタンセ、あの町と荒野です」
ずいぶん昔のように感じてしまう、荒野の町。
普通に向かうには距離がある町のことを、ぼんやりと思いだす私だった。




