JAD-130「はじける欲望」
驚くほどの純度で鉱石が掘れるという場所。
狂騒曲のような現場には、理由があった。
それは、おそらく遥か昔にここで座礁したか逃げ込んだかした、超大型輸送船。
脱出することなく、そのまま眠りについた巨人、その巨体だったのだ。
見つかったものは、コンテナとして積み込まれていたであろう資材たち。
だから、不自然なほどに掘れるものが偏っていた。
まるで、巨人のはらわたのよう。
(そんな船なら、護衛の1つや2つ、あるわよねっ!)
「新規反応多数! 罠ですか!?」
「罠ってほどじゃ……ないわねっ!」
一度飛び上がり、斜めに滑り降りるように現場へ。
ちょうど船だとしたら中央付近、どの方面にもすぐに出られるような距離。
そんな場所にあった区画に、彼らは眠っていたのだ。
「避けなさいっ!」
何が起きたかわからず、茫然としたままの重機。
つかみ取るようにして移動させれば、そのあとに着弾する脅威。
巣穴を掘りあてたかのように、何かがはい出てくる。
長い間眠っていたであろう、船の護衛戦力だ。
「これまで出番はなかったみたいですね。元気満タンな様子です」
「でしょうねっ! アンタらっ! ぼうっとしてないで撃つか逃げる!」
周囲に無線で叫び、まずは近くにいる相手に一撃。
少なくとも、車程度なら吹き飛びそうな攻撃が吸い込まれ……受け止めたっ!?
慌てつつも、場所を移動しながらさらに連射。
しかし、あたりはするが相手は壊れない。
「解析!」
「やってます! 衝撃は通ってる……この反応、吸収してます! 軽減か無効化かは別にして!」
(吸収、吸収か……厄介ね)
理屈としては知っているし、記憶では遭遇したこともある。
ある意味、手品みたいな技術だ。
石の力、星の力を使って生み出したものは消えない。
正確には、火であれば燃えた結果はなくならないし、燃える原因さえあれば燃え続ける。
石の力は燃料だと思えばいい。
であれば、その燃料を奪ってしまうとどうなるか?
「炎は消え、土は崩れ、雷は霧散する……なるほど」
「感心してる場合です? 結構激しいですけど」
カタリナの言うように、巣穴という名のコンテナから復活してきた相手は、暴れている。
周囲にひたすらに銃弾を放っているわけで……けが人は出てるな、うん。
おそらく、動かしているAIあたりが、周囲を異常事態と判断、脅威の排除にかかってるんだろう。
その激しい攻撃に、ろくに反撃できていない。
「どうもこうも、やるしかないわね」
無限に吸収できるとも思えず、ひとまず岩陰からどんどんと撃ち込み……うん、揺れてはいる。
無人機だろう、下半身はいわゆる戦車のようで、上は武装交換用にか人型。
そんな昔に見た覚えのある機体が10はいるし、奥にもまだいそうだ。
「衝撃は伝わってるみたいだから、そっちの方面でって……避難状況は?」
「そそくさと逃げてるのがほとんどですよ。器用なもんです」
儲け話に敏感であるからには、撤退も早くないと生き残れない。
そんな現状を目の当たりにする。
とはいえ、好都合だ。
「実体弾に切り替え!」
「うう、また赤字ですよ」
あとから力を補充できる石の力と違い、火薬利用の実体弾は消耗品だ。
当然、撃てば撃つだけ費用がかさむ。
「ま、ほかで稼ぎましょ。これで、どうだ!」
文明崩壊前後、多くの技術は石、星の力が前提となっていた。
エコであり、クリーンエネルギーであり、永久機関に近いとさえ思われた力。
それは兵器にも影響を大きく与えており、その結果が石の力によるエネルギー弾だ。
となれば、それに対抗する手段が産まれ……それが目の前にある。
「つまり、実体弾の出番は少なかったってことよね」
つぶやきの先で、間接部位に直撃を受けた相手が、姿勢を崩すのが見える。
周囲にも呼びかけ、一転して実体弾による蹂躙が始まった。
これには理由があり、とても簡単なことだ。
石の力が便利であるほど、世の中はそれに置き換わっていく。
つまり、実体弾は一時期大きくすたれたのだ。
コスト的にも、運用面でも、勝てなかった。
その結果が、これだ。
コンテナらしき場所から、何も出てこなくなったのはそれから1時間近く経過してからであった。
「欲望が湧き出てきて、はじけたって感じね。さて、探りますか」
「こっちも欲望まみれですよね。いや、いいんですけど」
微妙な表情のカタリナに笑いつつ、機体を潜り込ませる。




