JAD-129「金・キン」
「黄金銃……か」
「何かの比喩ですか?」
依頼として話を受け、現場に向かうべく準備中の私。
といっても、どう動こうかとコックピット内部で調整中というところ。
ガッチガチの武装が必要とは思えないけど、万一がある。
ついでに、歩兵としてのハンドガンを手にしたときに浮かんだ武器名、それが黄金銃。
「ううん。文字通りよ。純金で、撃てばそれで変形しちゃうような儀礼用の銃ね。時代や文化が変わって、貨幣はなくなっても、銃という象徴は残る。そんな話よ」
ゲームで見覚えのある武器だが、なぜだか実際に手にしたことがあるような記憶さえある。
いい加減、この辺りの記憶はどっちの記憶なのかはっきりさせたいけど、無理だろうな。
「銃があるなら、全身金で出来たJAMとかどうでしょう」
「そりゃいいわね。意外と丈夫そう。力の通りは違うもの」
トラックを宿に預けたまま、機体を動かす。
向かう先は、車で1時間も走らせれば到着する場所。
酒場でいわれた通り、色々と近すぎる。
(万一、何かまずいのが眠ってたらすぐに町に行ってしまうわ)
「思ったより人が行き来してますね。混雑してます」
「ええ、予想以上だわ。無理してないといいのだけど」
言いながら、我慢できないだろうなとも感じる。
掘れば掘るほど、確実にお金になるのだ。
そりゃあ、生活に困っていたり、小金持ちになりたいなら動く。
「目的地は……なるほど、そういうことか」
普段街道として使う場所とは離れた場所に、現場はあった。
山ではなく、地下。
見事なまでに地下へと、地面が掘られている。
運び出すための部分は手つかずだが、そこを残してどんどんと。
(まるでスプーンですくい取ったみたいな……んん?)
「行かないんですか、レーテ」
「気になることが……鉄鉱石同然のものが掘れるといっていたわよね」
「はい。驚くほどの純度だとか。すぐにでも使えそうなほどの。その中に金が……?」
その話を聞いて、備蓄倉庫が見つかったんじゃないか、そう思った。
けど……どうも違う気がする。
「そう……よね。わかってる範囲での発見分布図と、地形図を頂戴」
「わかりました。三次元マップで出します」
すぐにモニターに表示される周辺地図。
半透明の地形に、発見を意味する赤で染まる場所が増え……。
「? 地図を引いて広く見たいわ」
「こうでいいですか?」
ズームアウトされた地図。
一見すると、何でもないような平原や森、そして少しへこんだ土地。
そう、へこんでいる。
そもそもだ、この場所が見つかったのはなぜ?
「ここ、昔は川か何かだったんだわ。だから、雨が通ってだんだん地面が削れていった……」
「え? だとするとあれは鉱床じゃなくて……」
見つかった資源の分布図、それをよく見ていくとわかることがある。
驚くほど、区画がわかれていた。
だからこそ、みんな割のいいものが掘れる場所を重点的に、だ。
そして、その原因は……。
「超大型輸送船……それが座礁したか、逃げ込んできてそのまま、よ」
何百年も前の、そんな事件。
文明崩壊後の自然は、不自然なほどの復活を見せる。
その中には、星の力が枯渇したのか荒れたままの場所も。
逆に、時間を何十倍にでもしたような変化を示した場所もある。
この場所は、そんな場所だ。
「輸送船が、腐り果てる前に埋まってしまうほどの、大地の変化……」
「そんなことがあり得るんですか?」
ない、とは言えない。
実際、石の力で生み出した土、岩は消えるわけじゃないのだ。
似たようなことが起きたとしたら、なくはない。
「否定はできないわね。それより、これが予想通りの物なら、そのうち見つかるものがあるはず」
「ええっと、それは……まさか!」
「そう、そのまさかよっ! 戦闘準備、誰かが禁断の箱を開けたらしいわ!」
急に騒がしくなったのを見るや、私は機体を一気に飛翔させるのだった。




