JAD-128「資源熱狂」
「なんでいるんだって顔してるなあ」
「お久しぶり、ね。リンダはいないのね」
酒場に顔を出してみると、見覚えのある男性が数名。
いかにも、ないかつい顔の荒くれが似合う男性たちだ。
軍人であり、この地域の主要企業エストックが抱える私兵でもある。
いわゆる政治家、国家というものがないに等しい状況だと区別がつかないのだ。
人間は、こんな時でも何か代表者、誰かの指示、というものを必要としている。
いや……こんな時だからこそ、だろうか?
だからこそ、軍人と私兵が両立なんていうことができる。
「ちょっとバタバタしててな」
「でしょうね。で、だから私もそんな顔をしてたんだと思うけど」
顔には出していないつもりでも、やはりわかる人にはわかるようだ。
まだまだ、私も要修行である。
空いている椅子に座り、適当に注文。
前より、アルコールの種類が増えたような気がする。
「みなさんは稼ぎにいかないんです?」
「ただ掘るだけじゃなあ……」
カタリナの問いかけに、飲んでていいのかと思う色の液体を揺らしての返事。
つまりは、今は出撃するつもりがないということでもある。
「まあ、地味よね。稼ぎは悪くなさそうだけど……?」
「最初は、な。ただなあ、すぐに頭打ちさ。何せ近すぎる。一気に掘って、一気に足りる」
実にわかりやすい理屈だ。
他とあわただしく競争しながら掘ったとして、儲かる期間は短い、と。
少なくとも、非番らしいこのタイミングに副業するほどのものではないということだ。
「稀に、変なのも出てくるからよ。暇なら行ってみたらどうだ?」
「変なの? 防衛用の無人JAMとか?」
「なんだよ、知ってるじゃねえか」
適当に、過去の出来事から言ってみたら大当たりだった様子。
なるほど、倉庫の護衛か、たまたまかは別にしてそういうことはどこにでもあるらしい。
これだけなら、そういうこともあるよねって終わりなんだけど……。
(なんだか、イベントを見逃しそうな気がしてならないのよね)
カンとも違う妙な感覚。
誘われてる? これも違う気がする。
どちらにしても……。
「場所を詳しく聞いても?」
「アンタならあそこで稼がなくてもいい気がするがなあ。まあいい。えっとだな、地図でいうと……」
詳しく聞いている間に、来客。
なじみのある気配に顔を上げると、リンダだ。
「なんだ、ラストピース。来ていたのか」
「その名前で呼ぶってことは、仕事?」
ツカツカと歩み寄ってきたリンダは、地図を見るなりうなずき始めた。
どうやら、無関係ではないらしい。
「これも運命というやつだろうか? 妙な噂を聞いてな」
「妙な噂、ですか。変な言い方ですね」
「ええ、そうね。リンダにしては……というほどまだお付き合いはできていないけど」
何度か仕事としては一緒に過ごしたけど、そのぐらいだ。
逆に、冗談を言い合うほどの関係でもない。
つまり、冗談なしの真面目な話というわけだ。
「まあな。話を戻そう……金が出たそうだ」
「おいおい姐さん。それはあれじゃないのか?」
男の一人が言いたいことは私にもわかる。
いわゆる、愚か者の金と昔から有名な話だ。
鉄が採れるという話からしても、それっぽい感がマシマシだ。
「それがある意味残念なことに、少量だが持ち込まれたのは本当に金だったそうだ」
その言葉に、少し考えてしまう。
この時代でも、金は何かと有用な物質だ。
JAMの動力にはならないけれど、配線として使うと効率が良かったり。
まあ、そもそもとして一部のマネーカードが使えない地域で、貨幣に使われたりするのだけど。
やはり実物じゃないと、という需要も確かに残っている。
「ここで我々が出ると、憶測が憶測を呼ぶ。わかるな?」
「なるほどね。軍人、私兵、どっちの立場でも問題だわ」
立ち上がり、リンダと握手。
細かい条件はこれからとして、仕事として話を受ける合図となった。




