JAD-124「見えない相手」
「おかしい……」
「レーテ? 何をそんなにきょろきょろして……あの電波以外は特に変な反応はありませんよ?」
機体を止め、周囲を探る私。
目に留まるのは、おそらく保守用の機械。
まだ動いていること自体、驚きではある。
けれど、問題はそこではないのだ。
「カタリナ、あれを詳細にスキャンしてちょうだい」
「この小さいのをですね? でも攻撃してくるでも、こっちを探ってくるでもない相手を、んん?」
この建造物を、外から見た時にもうっすら感じていた違和感。
それは、中に入ると強くなり、この機械をしっかり見た時にはっきりした。
「どう? 覚えがないでしょ」
「ええ、外でこの技術はデータには……あ、いえ。覚えてます? なぜか増える機械の間引き依頼」
覚えている、言われてみればそうだ。
あれも、既存技術と未知の技術で半々ぐらいだった。
だから、どこかに何かの工場があるんだろうと予測していた。
「そうね。あれに近いのかしら」
「問題は、ここの場合その比率が10割ってとこですね、ほぼですけど」
そう、この保守用機械は見覚えのない技術しか使われていないように見える。
こういう機械の構造なんてものは、どの文明でも似通うものだと思っていたのだけど。
「住むでもなく、作るでもなく、何のための施設なの?」
つぶやきながら、機体を上階へと進める。
そうして進めば進むほど、ここが無人前提だと感じてくる。
休憩場所もなく、ロッカーのようなものもない。
机やそのたぐいも一切なく、ただひたすらに続く内部。
時折あるのは、機械補修用の設備と備蓄部分だろうか?
(その備蓄らしきものもほぼなし、と)
長い間で、使いつくしたのだろう。
いくらかのボルトと、鉄板のような金属板があるのみだった。
目の前を、保守機械の一機が滑るように動き、上階へ。
ふと、それについていくとちょうどスロープの途中にシャッターが。
音を立て、ゆっくりと開いていくシャッター。
錆が見えるあたり、ここも限界なのかもしれない。
「レーテ、上に反応が」
「ええ、わかってるわ」
空気に充満でもしているのか、シャッターが開いていくごとにそれは強くなる。
滑り込ませるように機体を中へ。
そうして上がった先は……どこかの管制塔のようですらあった。
並ぶ機械群、人が管理しない前提というのを補強するように、1つもないモニター。
何かを処理している機械はたくさんあるというのに、だ。
そして空間の中央に、球体が1つ。
上下に柱が刺さっているから、ここが何かの中心か中継だ。
「あら、もうスロープはないのね」
「ここが最上階でしょうか? それにしては、まだ上にこれは続いてそうです」
確かに、中央の柱はまだまだ伸びていそう。
ここから上は、本当に保守機械しか入れない部分なんだろうか。
と、視界に動くものがある。
「人……じゃないわね」
ドラム缶に触手を付けたような何かが、数機。
伸ばした触手、というか配線かな?を機械に伸ばしては付け替え、何かをしている。
「拾える?」
「何か動いてるのはわかるんですがデータとしては……あ、一部拾えましたよ」
さっそくとばかりにモニターに表示されるデータ。
その中身は、おそらくは数字。
表記は見覚えはないが、種類は10種類あることがすぐにわかる。
星の外、知らない生命体も10進数を使ってるというのだろうか?
そのあたりは、この星に合わせたのかもしれない。
ここまで来ると、私にもわかったことがある。
「ここ、宇宙への報告施設ね。何のためにか、受け取る先があるのかはわからないけど」
何かしらのデータを集め、星の外へ送信している。
文明崩壊前だったら、さすがに探知されていると思う。
つまり、文明崩壊後に建てられたということだ。
「解析……は難しそうね」
「はい。数字の塊、羅列なのはわかりますが、おそらく暗号化されてるので……」
ここで時間を使うのは良くない感じだ。
何年たてば解析できるかも、不明。
ただ恐らくは……この星に住む人類、下手をするとほかの獣たちにもあまりいい内容ではないだろう。
これまでの状況的に、この星は狙われている。狙われていた、かもしれないが。
「どうします?」
「どうもできないわ。定時報告が途切れたらってトリガーかもしれないもの」
めぼしい回収物もなく、下手に建造物を壊すこともできない。
結果としては、赤字しかない探索になってしまった。
「何か持っていけるものがあればいいんですけどね」
「まあね。でも、収穫はなくはないわよ」
不思議そうなカタリナに、モニターの画像を一部拡大して見せる。
そこ写っているのは……朽ち果てた機械群。
直すこともできず、放置されている。
何より、透明化のほころびが、そのままなのだ。
「こんな風にボロボロになってきても、送信先は何もリアクションができていない。ってことは、相手はもういないか、相当遠くってことよ」
そう、ある意味ではっきりしたのだ。
現在までに、この星には侵略者そのものは、たどり着いていないのだと。
「わかりませんよ? 明日がその日かもしれません」
「それを言ったら……夜も眠れないわ」
冗談半分、本気半分のやり取りをして、この建物……電波塔から出ることにする。
できれば透明化の技術を持ち出したかったが、どうもうまくいかなそうだ。
いくつも光る機械群の灯りが、まるで視線のように感じたのは、気のせいだろうか?
落胆の気持ちと、どこかすっきりした気持ちを同居させ、脱出。
いつしか空は、夕焼けに染まっている。




