JAD-123「隠れていた何か」
「思ってもみない収穫だったわね」
「はい、まさかまさかの連続でしたよ」
水晶だらけの草原と洞窟、ある種楽園のような場所。
現実味の無さに、まだ少し夢でも見たかのような感じだ。
急ぐものでもないので、ゆっくりとした速度で森の上を進む。
「報告の義理もないし、適当に……」
「? どうしたんですか?」
答えずに、機体を停止させる。
外にいれば、少しばかりの甲高いブースター音が聞こえることだろう。
そんなホバリングした状態で、私が見つめているのは……森の奥にある何か。
自然が回復し、ジャングルと呼ぶのが正しいような森の中に、突き出ている。
「あれは、建造物でしょうか?」
「行きは気が付かなかったのよね。もう少し高度があったから、森に隠れてたかしら」
今は、木々の数メートル上、なんていう高さだから気が付いたのかもしれない。
森に突き刺さった、ロウソクのような不思議な何か。
「行ってみましょ」
「一応スキャンは密にやりますよ」
向きを変え、ゆっくりと近づく。
車両程度の速度は出ているはずなのに、思ったより大きくならない。
(大きい……本当に気が付かなかったのはなぜ?)
さすがにこの大きさで、全く気が付かなかったというのは考えにくい。
そんなことを考えながら、推定何かの塔、に近づくことを止めない。
「観測値だとあと10キロ……え?」
「消え……た? でも今、すごい上まで何か……」
最初はモニターの不調かと思った。
しかし、そんなことは起きるはずもなく、相手だけが揺れたと思うと消えたのだ。
ただし、一瞬だけだが遥か上空まで突き出た形で。
急に現れ、消えた何か。
慌てて、機体を空中で静止させる。
「幻、ではないわよね。二人で見てたんだもの」
「ええ、ええ。その通りのはずです……ですけど、何も計測できなくな……いえ、これは」
モニターに写される映像。
それは、指定個所の熱源反応だ。
周囲は普通の木々の反応で、ぽっかりと途中で何も反応がない場所がある。
真っ白な空間に、ぽっかりと透明なものがある感覚。
「……擬態して隠れてる?」
「それにしては、穴がありますよ」
経年で劣化したということしか考えられない。
ひとまずそこに向かうことにし、機体を進ませる。
そうしてしばらくすると……。
「あっ! 出てきたわ!」
「確かに、反応が戻りました。調子が悪いんでしょうか」
今度は、真ん中は何も無いように見えるけど、上下に何かある。
おそらく、そういうことだろう。
加速させ、一気に距離を詰める。
すると、結構な大きさがある建造物だということがわかってくる。
全体を植物で覆われ、ところどころ建造物だとわかる部分が見える。
「私が設計者なら、内部電源と外部の、例えば太陽光なんかをついでに利用すると思うわ」
「同意します。どっちも調子が悪くなったってとこですかね」
二回目の透明化。
今度も、同じぐらいの時間が経過したら見えてきた。
そして、細かな様子がわかる距離に近づくと……。
急に目の前に空高く伸びる建造物らしきものがそびえたつ。
透明化?の内側に入ったんだろうか。
「ずいぶん大きいですね。JAMが入れますよ、これ」
「住居……違う。倉庫……でもない。工場とも違う……これは……」
空へと延びる巨大建造物。
植物は、太陽を求めて上へ上へと侵食している。
機体を少し浮かせると、すぐのところに大きな扉らしきものが見えた。
搬入口か何からしい場所へと近づくと、なんとか開きそうだった。
「サブをアクアマリンに。何か出たら凍らせるわ」
「了解。いつでも」
念のために戦いの準備をして、扉を強引にこじ開けた。
中は、思ったよりも普通だ。
植物はあまり中に……!?
「つっ……何か、聞こえる?」
「声は何も。いえ、これは……電波です。内部から上に向かって、何か放出されてますよ」
視界が慣れてくると、周囲が見えてくる。
中央に何か空間があり、その周りをドーナツ状にめぐる通路。
どうやら、本命は中央で、さっき感じたのは少し漏れている電波だったようだ。
「長居はしたくないわね……少し昇って、無理そうなら外に出るわ」
「わかりました。電波の影響はこちらでカウンターを仕掛けておきます」
すぐに、防音装置の流用で電波の感覚が消えていく。
ほっとしながら、機体を進ませるとスロープが見えてくる。
「階段ではなく、スロープ……機械での保守用かしらね」
「恐らく。動体反応はありません」
ジャングルの中に、ぽつんとそびえる塔を、進む。