JAD-122「水晶草原」
「これは……データはとっておきますね」
「ええ、お願い。まさかここまでとは……」
ブリリヤントハート単機で空を飛び、やってきた山。
地肌の見える場所に降り立った私たちが見つけたのは、一面の鉱床。
見える範囲が、すべて水晶の集合体、クラスターで出来ている。
合間合間に、根性のある草木が生え、範囲の外は普通の森のよう。
「こんな場所を、前文明時代に放置してたってことはあり得ないわね」
「いくらでも掘り放題の水晶なんて、都合が良すぎですよ」
まったく、その通りだ。
モニター越しでも、十分燃料に使える品質だとわかる結晶たち。
慎重に動かしたつもりでも、機体の足元で水晶が音を立てている。
まるで、水晶で出来た草原を散歩しているかのようだ。
「少しだけ浮くわ。もったいないけど、ここで補給してしまえばいいもの……」
そのまま歩かせるのが気になった私は、ホバーさせるかのように飛翔させる。
数メートルは浮いた状態で、水晶草原を進む。
そうして見えてきたのは、ぽっかりと開いた洞窟……なのだけど。
ぽっかりと開いた洞窟は、見えている水晶たちが歯な、まるで大きな口に見える。
「嘘……壁も全部……」
「レーテ、水晶以外の反応もありませんか?」
「っ!? 確かに、色々混じってる。ここ、天然かしら?」
洞窟内部を、水晶らしき結晶の柱が無数に埋め尽くしていた。
そのことに驚きつつ、指摘を受けて力を探る。
結果、水晶以外の力を感じることになる。
どれがどれだかわからないような、不思議な空間。
空からでは見えなかった洞窟は、とても大きく、まるで基地の入り口のよう。
浮いたまま、機体を入れることができるほどだ。
「少し覗いてみましょ……これは、なんとも……」
内部を照らせば、目の前に星空が現れる。
奥へ向かうほど、その驚き度合いは増していく。
本物かと疑いたくなるほどの、見事な光景だ。
ゆっくり進んだ先に、さらに謎の空間が見えてきた。
巨木のような、巨大な結晶群だ。
「持って帰るには大きすぎね……すごい」
「ここにこもれば、いくらでも戦えますね」
そういう問題……なんだろうか?
気が付けば、足元には結晶があまりなく、岩肌が見えていた。
機体をそこに降ろし、周囲を探る。
(生き物はいない、か)
岩盤の間を、小川が流れ、外に。
これが最終的には下流へとつながり……水の中に力を蓄えた状態になるのだ。
うずうずと、好奇心が主張を始めたのを感じる。
手持ちの武装をつかみ取り、コックピットを開く。
「だと思いましたよ」
「さすがに、これは直に見たいのよね」
念のためにとカタリナにも準備してもらい、2人で機体を降りる。
目の前に、大きな大きな、水晶の柱が鎮座している。
2人で囲むのも難しいような、大きな結晶。
「レーテ、あれを!」
「あれ? 赤い……」
奥に、岩肌以外の色を見つける。
それは、赤い結晶。
大きさとしては、そう大きくない。
けれど、カタリナがわかるほどに、力を放っていた。
岩の中に、ぽつんと光る赤い石。
カットも、磨くこともしていないのに、見事に結晶部分が見えている。
「まさか……レッドダイヤ?」
「これが? 信じられません」
私も同じ気持ちだけど、力の感覚は水晶ではない。
手持ちのダイヤと、波長が同じだ。
でも、色の影響を受けてか、ほかにはない力を感じる。
こんな場所にポツンと原石があるなんて、色々と無視した光景だ。
「カラーダイヤ、新しく作ったらダメかしらね?」
「いいんじゃないんですか? わかりませんけど」
伝説を、見つけるのではなく再現する。
そんな気持ちを胸に、レッドダイヤの原石を周りの岩ごと切り出した。
ほかにも持ち帰りができそうな水晶はいくらか採掘し、洞窟を旅立つことにする。
果たして、ここがもともとの姿なのか、噂通りの不思議な場所なのかはわからない。
この星に、かつて何が起きたのか、今はもう大丈夫なのか。
解決しない疑問をいくつも胸に、空へと舞い上がる。