JAD-120「プランJ」
森が近くの朝は、思ったよりも騒がしい。
今日も、目覚まし以外の何か、おそらく周囲にまだまだある森の中からの音。
「やわらかいベッドが恋しいわね」
「普段、車両移動の時にはあまり気にしてないじゃないですか」
「こう、違うのよね。感じ方が違うの」
冗談めかして応えれば、そんなものですか?なんて冷静なカタリナ。
こんなやり取りも、ずいぶんとなれたものだ。
テントから外に出れば、町中では味わえない濃厚な緑の匂いが胸いっぱいに広がる。
「今日も静かね……さすがに変ね」
「鳥は騒がしいですけど、確かに。あのトカゲみたいなのはあれだけなはずないですよね」
そう、この施設を探索するときに遭遇したオオトカゲたち。
確かに結構殺してしまったけれど、だからといって全部とは思えない。
だというのに、この数日、襲われたという話は聞かない。
見張りも、ほとんど機械任せといえばその状況がわかるだろうか?
「何事もないといいのだけどね」
あえてそう口にして、今日の依頼をこなすべく動き出す。
今日は、JAMに乗ったままでの建物内の探索だ。
あの電源代わりのJAMもどきの精査立ち合いでもある。
ブリリヤントハートを起動させ、建物の中へ。
これだけ大きな空間であれば、虫も大量に入り込んでよさそうだけど……。
大きな扉が、スムーズに開閉し、私たちを迎え入れた。
「この先は、空調が生きてるみたいです」
「直したのかしらね? そのあたりが復旧できたのだと思うけど……」
家具などは崩壊していたが、施設としての機能はそうでもないらしい。
電源のコントロールに、そういったものも含まれていたようだ。
小さな、掃除用機械が動いているのも目に入った。
(設計は雑なのに、変なところが効率良いのよね、ここ)
こうして探索が進むと、謎も個人的には増えている。
一番謎なのが、いつでも廃棄できそうな設計だということだ。
例えばそう、電源代わりのJAMもどきが、いつでも出撃できるような……そんな感じ。
考え事をしてる間に、川のある部屋にたどり着く。
今日も、技術者がコントロール用のパネルにかぶりつきだ。
コックピットから飛び降り、そばに向かう。
「おはよう。調子はどうかしら」
「ああ、問題ない。電源はもとより、施設全体の把握もできた。驚いたよ、生活区域は早々に廃棄されてるが、生産設備は最後まで維持、更新するようになっていた」
「生産設備は? なるほど、レーテ、ここは……」
うなずき、周囲を見渡す。
さすがに川辺は緑があるが、それ以外はずいぶんときれいになった。
川辺とJAMもどきだけが、違和感の塊といった具合。
今日も、静かにJAMもどきは電力を生み出している。
中の石種類まではわからないが、燃料としての石英、その力はまだまだ大丈夫らしい。
「前線基地への補給拠点だったのかしらね? いつでも放棄できるように……」
だとしたら、前線が移動したことで人がいなくなった、と説明もつく。
実際にはそれだけではないようにも感じるけど、それはわからない。
「これの摩耗具合はどうなの? 数年でおじゃん、では話にならないと思うけど」
「そちらも問題ない。戦闘行動をしていないからな。表面の汚れやこけさえどかせばまだまだ現役さ」
「……本当? 逆に怖いわね」
目の前のJAMもどき、その装甲を手でコンコンと……なるほど。
普通の素材でもないし、どうも戦闘向きとは言えないような力の通り方だ。
その分、長持ちしそう……なぜか私には、それがわかった。
「電源施設を動かせるようにしたのか、それとも逆に動ける兵器を電源施設にしたのか……」
そう口にしながら、JAMもどきを見上げる。
兵器としての側面が強いJAM、しかしこの子はそうではない。
でも、だとしたらこんな形にこだわることも……。
「俺たちにとっては、ありがたいことばかりさ。おお、そうだ。JAMの装備らしい設計図もあるぞ。権利はある、コピーしていくか?」
「ええ、お願い。カタリナ」
「はい、私が……んんん?」
すぐにパネルを操作し、データを転送し始めたカタリナ。
そんな彼女の口から洩れる疑問の声。
「どうしたの? ロマン武装でもあった?」
「ええっと、どうなんでしょうね。おそらく、ロマンだと思いますよ」
意外に、肯定の返事。
思わず私ものぞき込んだパネルに表示されていたのは……。
「JAMの増加装甲? 外部核を使用したドッキング機構???」
まさにゲーム。
そう言わんばかりの、謎の設計図が表示されていたのだった。




