JAD-117「一家に一台・前」
「消耗は予定より少ないですね……」
「そんなに狙いを定めなくていいもの、その分は消耗してないんだと思うわ」
野営の準備をし、休憩に入った私たち。
周囲には風と、木々の揺れる音。
そして、川の流れが音を立てている。
今は、そこに私たちの雑談や、虫の音も混じって案外騒がしい。
「ま、よっぽど戦い続けない限りは、大丈夫でしょう」
「そうですね。旅立った時を考えると、ずいぶんと進化してますよ」
見上げた先で、夕日に照らされるブリリヤントハートはどこか誇らしげだった。
最初は、ただ殴るぐらいしかできなかった。
それが、いつしか色々と……世の中、わからないものだ。
「よう、食いもんは足りてるか」
「あら、ありがと。ええ、おかげさまで」
名前も聞いていない、探索者の男。
強面ながら、こちらを侮る様子はなかった。
「あんたがやってくれたおかげで、だいぶ楽ができた。明日からの施設探索は任せてくれ」
「そんなこと言って、儲け話は譲らないわよ?」
おどけて言えば、聞こえていた周囲も巻き込んで笑いが満ちる。
酔うには少々薄い、ジュースレベルのアルコールを乾杯として飲み交わす。
その後も、日が暮れるまでは談笑が続き、そしてあっさりと夜は過ぎる。
獣が襲い掛かってくることもなく、拍子抜けだ。
そして、朝が来る。
「点呼よーし! では探索を行う。第一目標は電源の確保、次に生産設備の復旧と確保だ!」
野太い男たちの声を聞きながら、トラックは脇に寄せつつ、建物に近づく。
今日は最初から、ブリリヤントハートに搭乗中だ。
「生体反応はどう?」
「今のところは……外には結構いますけど。中にはわからないですね。どうも通りが悪いです」
言われ、自分でも確認してみるが確かに、反応がないというより、鈍い。
生い茂っている植物のせいか、それとも建物がそういう素材なのか。
「気配が感じにくいわ。いきなり飛び出てくるかも」
『了解。もとより警戒は続け…っと、さっそくか』
会話の途中で銃声。
歩兵として進んでいた探索者が、発砲したのだ。
見れば、大きなトカゲのようなものが倒れている。
『でかいな。毒がなければ、食ってもいいぐらいのでかさだ』
「わずかだけど石の気配を感じる……そいつ、ミュータントね」
おそらく、多少牙が鋭いとか、特殊な毒を使うとか。
あるいは、隠れるように周囲に溶け込むであるとか。
そんな力を持った存在が、ああいうタイプのミュータントだ。
「温度感知を加えて進みましょう」
「なるほど、わかりました。モニターに反映します」
すぐに、まるで熱源感知のカメラで見たような光景も加わる。
長く続けると目が疲れそうだけど、今のところは大丈夫。
スピーカーを外に向け、無線がつながらない場合に備える。
ついでに、見えた相手を知らせることにした。
「右前20メートルぐらいに2匹、前方天井に何かいるわ」
『何? 確かに、おかしいな。撃てっ! よし、当たったぞ』
音を立て、何者かが落ちていく。
多くは先ほどのようなトカゲもどきだった。
逆に言うと、この建物は彼らの楽園になっているのかもしれない。
『迎え撃つための場所を確保するぞ。今日のところは、電源設備は運が良ければ、とする』
「じゃあ前に出るわ。生身より当然こっちでしょ」
言いながら前に進めば、トカゲもどきたちが動揺するのがわかる。
そりゃあ、私たちでいえば家が動くようなものだものね。
「サブをアクアマリンに切り替え。弱冷凍弾、用意」
「問題ありません。いつでも」
相手がミュータントでも、トカゲということなら冷やすのが有効だ。
あちこちに青い光を打ち込み、相手を無力化していく。
そばにいるほかのJAMも、その相手を仕留めて回ってくれる。
「悪いわね、細かいのをやらせて」
『なあに、楽なもんさ』
そんな掛け合いを続け、そろそろ三桁のトカゲもどきを倒せそうな量になってきた。
予想以上に、たっぷりと繁殖しているようだ。
『止まってくれ。情報通りなら、この向こうが電源設備だ。結局、こもる場所はなかったな』
家具の類は朽ちており、めぼしい手掛かりは見当たらない。
それでも建物全体としては無事なあたり、早くから植物が食い込んでるのかもしれない。
それに、残っている機械はここが発電関係であることを示している。
表面は汚れているが、中身はかなり状態はよさそうである。
長い間、放置されたのに、だ。
「さあて、何が出るかしらね」
「何事もない方がいいんですけど……」
あきれたようなカタリナの声を聞きつつ、ほかのJAMと協力して巨大な扉を開いていく。
そうして見えてきた空間にあったのは……。
『あれはなんだ?』
「巨人……いえ、JAMかしら……」
巨木と見間違えそうなほどの何かが、いた。
その巨体を、半分ほど川に沈めるような形で。
力を感じる何かが、時間を超えて鎮座していたのだった。