JAD-116「再現、あるいは複製」
鉱山は、一言でいえば見事なものだった。
簡易ながらも立派な柵に覆われ、作業できる環境が整っている。
防衛戦力もあるようで、これなら多少の問題はここだけでなんとかなるだろう。
『補給と小休止後、すぐに向かう』
「了解。このまま乗っておくわ」
町からは、鉱山では手に入らないもろもろを。
代わりに、鉱山で手に入るものを受け取る形だ。
今のところ井戸に問題はないようで、飲料水も無事に手に入るようだ。
「私たちは、少々の弾薬のみ、ですね」
「ここでそんなに消耗してちゃ、何にもならないものね。この先は……どうかしら」
私たちがこちらに来たルートとは、似てるようで違う。
最近の調査を踏まえて、過去にこの地方にあったルートを再開拓する形だ。
道があるのはわかっていても、地形の変動によりその通りとは限らない。
実際、私たちが通ったルートも、一般人が通るのはなかなか厳しい。
ぼんやりと柵の外や作業風景を眺めていると、時間が来たようだ。
「すぐに目的地に入るみたいね。念のためにブリリヤントハートに乗りましょう」
「了解。操縦はリモートにします」
ほかの車両たちも、ここに来る時よりも警戒度合いが上がっているのがわかる。
鉱山を後にし、かろうじて残っている道のような草原部分を進み……すぐに止まる。
まだ後ろに、遠くだが鉱山が見えるような位置だ。
『車両が通るには少し、狭いな』
「そうね。どうするの? 切り開くのは手間だと思うけど」
疑問を口にしたが、そのまさからしい。
車両の一部に、何かを取り付け始める。
「あれは?」
「たぶん、石の力を使って動く重機の装備ね。木々をなぎ倒すんだわ」
不可能ではないだろうけど、予想外に手間のかかる作業のようだ。
こうなってくると、多少目立ってでも……と思ってしまう。
「提案があるのだけど」
『なんだ? いいアイデアがあるのか?』
「良いかどうかは不明ね。こう、まっすぐでよければ一キロぐらいはなぎ倒すわよ。獣や何かいたら刺激しちゃうけど」
そう、ブリリヤントハートの力を使い、正面に石の力を放つこと。
さすがにルビーでは燃えてしまうので、ここはトルマリンやペリドットで、風だ。
岩すら切り裂く刃が、巨木を切り裂けるだろう。
『試す価値はあるか……頼めるか?』
「ええ、じゃあ前に出るわね」
「計算始めます」
何回やればよさそうか、そのことを考えつつ、武装を構えさせる。
背面、両手のライフルに意識を向け、力を巡らせる。
戦いではない場所で、色々と試験ができてこちらとしてもメリットがある。
「マーカーOKです。どうぞ」
「いけぇっ!」
目に見えたならば、大きなタイヤほどのサイズ、そんな風の刃が見えただろう。
爆発音なんてものはなく、次々とそれが放たれていき……細い道へとぶつかる。
さっきまで、獣道かと思うほどの狭い道、その左右にあった木々が根元近くで切り裂かれる。
中央は、強風がまっすぐに吹き荒れ、左右へと木々が倒れていくのだ。
「少しずつ進むわ」
『なんという……了解した』
トラックの荷台では、さすがにバランスが悪い。
堂々と地面に機体を立たせ、風を放ちつつ進ませる。
自転車ほどの動きだけど、それでもスムーズなものだ。
道沿いの切り株や、枝葉はほかのJAMや重機もどきがどかしてくれている。
そのことを確認しながら、力を放ち続ける。
「何か襲ってくる気配は?」
「今のところありませんね。みんな逃げてますよ」
それはそうだろう、と思う。
かなり乱暴な手段だし、刺激もしている。
ただまあ、重機もどきでやっていても刺激という点では一緒な気がする。
むしろ、ずっとうるさいからもっとひどいかもしれない。
予定の行程、おおよそ50キロを、順調に消化する。
本当はもっとゆっくりと安全等を確保して進むらしい。
今回は、私のことがあるのでいけるとこまで道を作ってから考える、だそうだ。
徐々に、こちらの燃料、石英の力も消耗がはっきしてきたところで、変化があった。
『ようし、見えてきたぞ』
「また川ね。といっても十分な距離かしら……」
風の刃が切るものがなく、そのまま溶けていく。
自然豊かな、川辺が視界に広がった。
『本当はもっと後に伝える予定だったんだがな。今回の目標は、あれだ』
「建物……ですよね」
「そうね。状況的に、発電所かしら」
川に食い込むようにある施設、植物に覆われているが、まだ立派な見た目だ。
ただ、発電所としては妙に大きいような。
『文明崩壊後、物流は近隣以外途絶えた。その解決のために、各地に企業は発電所と工場をセットにしたものを建てたそうだ。そのうちの1つが、あれってことさ』
「なるほどね……ここも拠点、新たな町にできるわけね」
まるで、過去の再現、あるいはかつての生活を再現するかのよう。
そんなことを思い浮かべる光景だった。