JAD-114「未知の道」
その日は、いい目覚めだった。
探し人であった男性と一緒に、無事に戻ったのがつい昨日のこと。
家族にはとても喜ばれ、こちらとしても満足いく結果になった。
いい気分のまま、久しぶりにアルコールを口にし、早めに就寝したのだ。
「二日酔いもないし、うん。すっきり爽快ね」
実のところ、この体はあまり酔えない。
アルコールに限らず、毒素に強いのだ。
そのあたりも、自分が自然に生まれたのではないと示しているのだが……。
気にしても仕方ないので、横に置いておく。
「補給と整備……まあ、のんびりしようかしらね」
「賛成です。最近、騒動が多いですから」
先に起きて、朝食をもらってきてくれたらしいカタリナの声。
振り向けば、テーブルにちょうど朝食を置いたところだった。
「石を求めてれば、自然とそうなるわよ」
始まりの隕石が地上に落ち、この星に、石……宝石の力を引き出す仕組みが産まれた。
正確には不明だが、数百年以上前のことだ。
最初は宇宙でのコンテナ輸送の動力、そして次に重機。
発電にも使えることがわかり、施設は通常の物と石の物とでハイブリッドになり……。
そして、いつしかJAMのような兵器にも使われるようになっていく。
そんな世界で、当時からささやかれていたらしい噂、カラーダイヤたち。
「今のところ、手に入れてるカラーダイヤは……いつもの無色とイエロー、そしてこの前のグリーン。なかなか見つからない物ね」
「あってもサイズが小さくて、言うような力はなさそうです」
そう、これまでにもブルー、パープル、レッドとカラーダイヤ自体は見つけている。
しかし、せいぜいが指輪に使えるかどうかという大きさで、装飾品レベル。
とても、JAMに搭載するほどの大きさではなかったのだ。
「そもそも、このグリーンダイヤぐらい大きいのがおかしいのよね」
手にしたダイヤの大きさは、鶏の卵を優に超えている。
果たして、全部そろう日は来るのだろうか?
「まあ、時間はたっぷりありますよ」
「私にもあるといいのだけど。気にしても仕方ないか」
こればっかりは、わからない。
自分の寿命がわかる人間は、そうそういないだろうと思う。
話はこの辺りにして、食事をすすめる。
何の変哲もない、ありがちな中身だ。
逆に、それが提供できるほどには安定しているといえる。
過去の遺物が牙をむくかもしれない場所で稼ぐのか。
それとも、獣やミュータントがいるだろう自然相手に稼ぐのか。
そのどちらも、それぞれに魅力ある生活だ。
「ふう……。今日はどうしようかしら」
「受けずとも、依頼ぐらいは見に行ってみますか」
暇つぶしの趣味もないことに、そこで気が付いた私。
こう、開拓地方面だと生きてるだけで時間が消えていったものね……。
そこをカタリナはわかった上で、声をかけてくれたのだ。
情けないような、少し苦い気持ちは中に封じつつ、宿を出る。
急ぐことでもないので、トラックや機体は宿に預けたまま。
徒歩で酒場兼探索者の事務所のような場所へ向かうと、今日も盛況だ。
「おお、噂のジュエリストだぜ」
「ずいぶん若いな……だが、やるようだ」
何人かは、私のことを感じ取ったようで視線が変わる。
西側ではラストピースと呼ばれるときもあったけど、こちらではどうだろうか。
カタリナを引き連れ、面白い話でもないかと掲示板を見て回る。
輸送の手伝いや、開拓の支援、発掘の補充人員募集など等。
そんな中、人気が全くない場所がある。
ちらりと見えた張り紙の内容は、どうも微妙な物。
不人気の依頼ばかり集めた場所、といったところだ。
「相場はわかりませんけど、安いのばかりですね」
「そこらは上が出してるやつさ。儲けは薄いが、その代わりに払いは確実だ。ただなあ、地味なのさ」
「ふうん? ありがと」
近いにいた探索者の言葉通り、発注者は軍や企業名がある。
確かに、内容が地味でその分、儲けがない。
生活がぎりぎりで、貯金は難しいだろう。
(公共事業みたいなものかしら?)
一通り見たところで、それが目に入る。
「これ、いいじゃない」
「え? ふむ……西側の開拓、そのための間引きですか」
未探査地域を含む、新たな行路の確保のための……そう銘打たれた依頼に、心惹かれた私だった。




