JAD-113「映画のような現実」
「正面、クリア」
「左側通路……クリア」
「右にも何もいませんね。クリアです」
さすがに、扉をくぐってすぐにうじゃうじゃと、なんてことはなかった様子。
久しぶりに灯ったであろう非常灯たちが、薄暗く通路を照らす。
不思議なことに、こちら側にはあまり残骸らしきものがない。
「拍子抜けだろ? 俺も、こんなだから何もないかと思ってトラックを進めたんだ」
「天井は高いし、JAMで行きましょ」
「どうします、中に入ってもらいます?」
カタリナがいうのは、男性を同乗させるかどうかだ。
別に機密ってわけでもないけど、ひょいひょいと乗せるのもね。
「俺はあれで行くよ。そこまで面倒見てもらうのもな」
と、入り口わきを指さす男性。
そこにあったのは、フォークリフトだった。
といっても、爪は仕舞えるし、意外と速度も出る。
「そこに倉庫があったんだよ。持って帰るのが難しいけど」
指さす先には、なるほど。開いたばかりというシャッター。
長い時間を、この中で孤独に眠っていたようだ。
さすが、昔の技術はとんでもない。
「コンテナの1つや2つは自分で持って帰りたいわよね、ちょうどいいんじゃない?」
まるで親鳥と小鳥のような大きさだが、これはこれで。
改めて、ゆっくりと通路を進む。
途中、小部屋の扉もカードキーで開けた。
残念ながら、安い雑貨しか残っていなかったが。
『ここの人たちは、何から逃げていたんだろうな。そして、どうしてああやって死んでたんだろう』
「どうでしょうね。ミュータントがいたなら、もっと荒れてるとは思うのよね」
「レーテ、左前方、強めの反応です」
フォークリフトの前に出、ライフルを構える。
今日は、ダイヤとペリドット。
雷系の力は、こういう機械のありそうな場所に有効だからだ。
左手は、あえて開けた状態で警戒。
通路の奥、大きめの扉を開けてきたのはドラム缶にキャタピラを付けたような機械。
「試しに……あっさり終わったわね。アラームが鳴る様子もない」
「単独行動するタイプでしたかね?」
単発で、電気弾を飛ばし、沈黙させる。
回路が焼き切れたとは思うけど、だとしてももろい。
『俺が入った時には、こんなのは動いてなかったぞ』
「ふむふむ……動き出したか、新しく組み立てられたか」
仮定を口にしつつ、さらに進む。
階段と併設されたスロープを登らせ、一緒に上階へ。
だんだんと、荒れ具合が増してきた。
生活の匂いとも違う、ここで……そう、さっきまで商売をしていました、という感じ。
『まった。携帯端末が落ちてる』
「ふうん? 動く?」
フォークリフトを機体の陰に入れ、起動を試してもらう。
カメラを画面に向け、こちらでも見えるようにして……。
『どこを撮影してるんだ? 音声があるみたいだな』
どうやら、撮影自体はうまくいってないようだ。
その代わりにと、聞こえる音声を大きくしていくと……。
「毒ガス? 空から何か飛んできたとか言ってますね」
「戦争でもあったのかしら?」
何かしらよくないものがこの建物に襲い掛かり、従業員や客は逃げ出した。
結果として、命令を受けたままの設備が人間をようやく見つけて、と。
本当に、どこにでもあるパターンといえばパターンのようだ。
さて、問題は何が襲い掛かってきたのか、だけど。
その正体は、あっさりと判明することになる。
警戒しつつ、さらに上階にあがったところで、巨大な生き物の骨らしきものが。
『ミュータントか?』
「そのようね。まあ、もう死んでるみたいだけど」
中央の、電源塔とでも呼ぶべき場所に向けて、倒れこんでいる。
周囲には無数の銃座の残骸。
人らしき骨もあるから、ここで戦いがあったのは間違いない。
まるで、記憶にある映画のようだけど……ここで、現実として何かが起きたのだ。
「ここで迎撃には成功したけど、相打ち、か」
「レーテ、下がらせてください。何か毒性がありそうです」
拡大された映像には、見るからに怪しい色のキノコ群。
思わず、男性もフォークリフトをバックさせた。
「マスク持ってきたらよかったな……」
「今のところは大丈夫そうよ。下手に焼くのも危ないし、この辺にして回収だけして帰りましょ」
「そうさせてもらおう」
一応生きている管理AIや、このミュータントも素材になりそう。
だけど、厄介さもマシマシな感じがひしひしとする。
結局、今一度に解決させるのは難しいと判断。
めぼしい物を回収し、トラックも拾って帰ることにする。
フォークリフトは、私がトラックの荷台に持ち上げた。
一応、帰り際には同業者に警告はしておく。
儲けを持ってかれるかもしれないが、こういう時はお互い様だ。
廃墟から離れ、帰るべき町が見えてきたところでついため息が出る。
『お疲れ。本当に何から何まで、助かったよ』
「いいのよ。笑顔があるのが一番だわ」
こんな時代だ。手の届かないことも多くある。
それでも、自分の手が届く範囲でぐらい、1つでも笑顔が増えた方がうれしい。
照れくさいところではあるけれど、そんなことを思うのだった。




