JAD-112「生まれる疑問」
元町の壁を越え、行きに出会った探索者たちのキャンプへ。
不在なところを見ると、探索中のようだ。
かまどなんかはそのままなので、世間のお約束に従って流用させてもらおう。
こういう助け合いが開拓地だと……まあいいか。
「ひとまず礼を言わせてくれ。助かった、ありがとう」
「どういたしまして。それで、探し人に来たんだけど、あってるわよね?」
椅子に拘束された状態から解放され、男性も少し元気を取り戻したようだ。
一応、依頼人にもらった画像からも間違いないと思う。
多少……いや、ずいぶん消耗してるけど。
(そりゃあ、あんな状況だと食事もトイレもねえ……)
思ったよりにおわないのは、探索するときのコツをしっかり活かしているんだろう。
例えば、道具はしっかり準備する、予備は持つ、とか。
そんな中に、探索先でトイレ、特ににおいを残さないようにお腹にため込まないというのがある。
獣やミュータントがいると、気が付かれるし、残すのも問題だしね。
「ああ、合ってる。そうか、心配かけちまったな。俺のトラックは……声をかけて頼んでおくか」
「落ち着いたら取りに行ってきてもいいわよ。それで、何があったの?」
大体は予想がつくけれど、聞くだけ聞いておこう。
周囲を見回ってくれていたカタリナが戻ってくるのを見つつ、焚火を囲む。
「何がも何も、単純に施設が生きてて、つかまっちまったってとこだな。ここの北に元発電所があってよ。そこはもうだめらしいんだが……そのおこぼれで繁栄してただけの町だったはずなんだが」
詳しい理由は不明だが、どうもミュータントの襲撃を受けたような記録があるらしい。
大方、発電に石の力を併用するような状態だったんだろう。
そのミュータントたちが、石を狙って……狙って?
(この前もそうだけど、どうしてミュータントは石を見つけて、狙えるの?)
浮かぶ疑問に、正解を教えてくれる教師はいない。
全部自分たちで見つけ、解き明かさないといけないのだ。
「そこそこの拾い物ならできると思ったら、嫌な当たりだったってことですね。レーテ、どうします?」
「うーん。赤字は嫌だけど、かといってあんまりつっこんでもねえ」
わらわらと銃座やそれを備え付けて動く何かか出てきてもめんどくさい。
一番いいのは、その前に動きを止めて資材を確保することだけど。
変に正面から行っても……ああ、そうだ。
「アンタ、どこから入ったの? トラックで乗りつける場所があるんでしょう?」
「あ、ああ。従業員用口が無事でな。ちょうど逃げようとしていたのか、色んなブツが転がってた」
換金するものはトラックに置きっぱなしだとのこと。
で、そういう場所ならほかの手が使えるかも。
「一応聞くけど、稼ぐ? 見捨てずに帰るつもりだけど」
「ありがたい話だが、本当にいいのか?」
お人よし、そういわれるような行為ではある。
とはいえ、自分の感情に従って行動してるだけである。
「レーテはこういう子なんですよ」
「子って何よ。そんな子供ではないわ」
実際問題としては、お互いに年齢不詳、下手すると数百歳だ。
そんなどうでもいいことを考えつつ、再出発。
男性には片手の中で、ひとまずつかまってもらった。
ゆっくりと壁を越え、再び商業施設近くへ。
今度は男性から聞いた従業員口側。
「なーるほど、あれこれあるわね」
「だろう? 持ち出すには限界があるけどな」
確かに、物がありすぎて微妙だ。
たくさんの車両やコンテナ、乱雑に散らかった光景。
一番奥には、電源が生きている扉。
「俺が来た時には死んでたんだがな」
「ま、そういうもんでしょ」
私の目的は逃げてきた従業員。
ロゴの入った車両、荷物、そういったものを探索だ。
「レーテ、こっちに従業員らしき骨が」
「あら、まだ残ってたのね」
「ここらには、犬型の獣とかはあまりいないんだよ」
持ち出す獣がいなかったということのようだ。
一応、手を合わせて荷物を探り……あった。
「カードキー? そんなの金にはってそういうことか」
「そ。施設が生きてるなら、逆に弱点も生きてるってこと」
一度JAMの中に戻り、カタリナと一緒のカードキーの情報を確認。
さくっと書き換え、整備士2名と補助員として電源の復活している扉の前に立つ。
「さあって……よしっ」
わずかに音を立て、扉は私たちを迎えるように開くのだった。




