JAD-110「掘り出し物には厄がある・前」
町に戻ってから、こまごまとした依頼を受け続ける私。
比較的落ち着いた地域ということで、開拓地とは傾向がずいぶんと違う。
一番違うのは、そこに廃墟があることがわかっている場所の探索、が頻繁にあることだ。
なんでも、がれき撤去も並行して行うためになかなか進まないのだとか。
「戦争期のトラップや、警備システムとかがそこそこあるらしいです」
「あー、じゃあ大変よね。下手に漁るより、壊した方が楽だけど……」
(そうすると、眠ってるかもしれないあれこれも壊れる、と)
探索における、よくあるジレンマである。
欲をかけば、何かに飲み込まれて……と。
かといって、全部吹き飛ばしていては儲けもないわけで。
「うまくやれば割が良いし、場所によっては一獲千金を夢見て、突入する人が後を絶たない、と」
今日の依頼は、そんな運の悪い人物の探索と救出、だ。
できれば成功させたい……依頼主が明らかに家族だからだ。
子供のためにも、ここらで余裕を作っておきたい、といったところだったんだろう。
「心配そうでしたね」
「そりゃあね、大体探索されつくした場所だってことだけど、何かあったのね」
特に工場もなく、倉庫でもない廃墟群。
自然があまり増えておらず、ミュータントがほぼいないのが救いか。
それでも、コンテナ一杯に金属の残骸を拾って帰れば、それなりにお金になるらしい。
普通に働く、のでは満足できなかったんだろう。
家族がいるなら、その辺はどうかとは思う。
「今の私には家族がいないから、よくわからないところね……」
「少し寂しい考えじゃないです?」
カタリナのことは家族同然に思ってるわよ、なんて返しつつ進む。
今回はトラックは宿において、機体だけで来た。
現地には、私たちだけ……ではなかった。
かつては防壁だっただろう残骸のそばに、いくつかの車両。
キャンプをしている人々は、こちらに気が付いて警戒している。
そりゃあ、こんな場所に戦闘用だろうJAMがいきなり来たら、ね。
「通信を外に。あーあー、聞こえる? 探し人に来たの」
『そいつはご苦労さん。どんな奴だ?』
空いてるスペースにブリリヤントハートを停止させ、降りる。
少しばかり、好奇の視線がやってくるがいつものことだ。
タブレットに、奥さんからもらった画像を表示させる。
男たちにそれを見せると、さまざまな反応が返ってきた。
「見たことあるような、ないような」
「確かしばらく前に見た気もするが」
「こうも特徴がない顔だとなあ」
そう、何か目印になるような特徴のある顔ではなかった。
逆に、印象に残らない方が珍しいのかもしれないが。
それでも手に入れた情報からすると、この場所にいたのは間違いなさそうだ。
「ありがと。依頼だもの、やるだけはやらないとね」
「やばい物が出てきたときは赤、山分け希望の救援希望は緑の発光弾って決まってる。ローカルだがな」
立ち去ろうとした背中にかかった声に、手を振って応える。
したたかというか、なんというか、である。
機体に戻り、周囲を一応サーチする。
「今のところ、変な反応はないですね」
「というか、廃墟のほうは薄い反応が多すぎてわからないわね」
特別強い反応がないのは幸いだけど、探し物をするには不向きだ。
仕方なく、まずは外周を進み、目撃された場所へとできるだけ近づく。
ここでもサーチをかければ、引っかかるのは虫の声ばかり。
目星をつけて、飛翔。
「大きな、街だったんですね」
「みたいね」
眼下には、あちこちを木々に侵食されつつもまだ町並みのわかる廃墟。
工場なんかはないらしいから、住居の集まった都市、ということかな。
いくつか、商業施設だったんだろう大き目の建物が見える。
年月から、相当傷んでいるとは思うけど、それでもかなり形を残している。
「かき集めるなら、ああいう場所かしらね?」
「ですかね? 道中を考えると結構リスクありだと思いますけど」
リスクありで引き返せるなら、こんな場所に稼ぎに来ないような気がする。
そう思い、外壁跡を超えて廃墟の立ち並ぶ敷地へと舞い降りる。
「静かね」
「はい、特に動体反応もありません」
律儀に返してくるカタリナに、頷きつつも私はライフルを右手に構えさせた。
弾丸は実体弾、そして左手には、投擲用のナイフ。
念のために、収音機能の感度を上げるが……うん。
「レーテ?」
「生き物って結構敏感なのよね。騒動がありそうなとき、意外とあっさり逃げたりするの」
そう、キャンプ地や外周では聞こえていた虫の声が全くない。
何なら、ブリリヤントハートの足音がかなり響くぐらいに。
警戒しつつ、じりじりと巨大な商業施設だっただろう建物へと近づく。
「石壁!」
感じた殺気を跳ね返すように、ナイフの先から目の前に石壁。
動力をダイヤとトパーズにした状態の機体が、大きな石の壁を生み出し、何かが当たる。
「銃撃!?」
「相手を確かめるっ!」
廃墟の町で、相手の不明な戦いが始まる。