JAD-109「日常を大事に」
「本当に良かったんけ? こんな頼んじまってよ……」
「ええ、どういうものかわかった上できたもの。大丈夫よ」
仕事現場に来て、なおも心配そうな依頼人、農家の男性に笑顔で答える。
視線を背中に感じながら、ブリリヤントハートへと乗り込む。
今いる場所は町の外、車両で小一時間といったところ。
すでに開拓され、畑が連なり、それを守る防壁もあるような場所。
そのそば、まだ大まかに伐採だけが済んだ場所に機体を向ける。
そこで私は、見回りや護衛……ではなく。
「じゃ、カタリナ。行くわよ」
「はい。まさかJAMを耕運機代わりに使うとは……」
「なあに? カタリナも戦うだけに使いたいの?」
「そういうわけじゃ……戸惑い、ですかね」
冗談を口にしながら、コアの石をトパーズのダブルへと切り替え。
普段なら、滅多にやらない組み合わせで、これからやることもそう。
「土中のサーチ完了。やっぱりまだ、岩や切り株らしきものがありますね」
「了解。すぐに砂になる強度で、行くわ!」
機体のあちこちから、黄色や茶色い光が放たれる。
それは力となり、これから畑にしたい場所へと注がれ……。
無数の砂で出来た柱が、超スピードで伸びる植物のように突き出てきた。
石の力で生み出した、砂の柱たちだ。
先端は鋭くしてあるので、岩や切り株を貫き、地上に飛び出てきている。
全身を穴だらけにしてしまいそうな、ある意味では怖い光景かもしれない。
「よさそうね、解除」
「解除完了です。柱がそのまま砂になるから、地面には穴もあいてない……ってことですよね」
「そうそう。あとは人力で上に出てきたのをどかしていけば短縮ってわけ」
機体を移動させると、恐る恐るという感じで農家の人たちがやってくる。
大丈夫そうだとわかると、あとは任せろとばかりに作業が始まった。
「細かい石やら枝やらはあるけど、それはもう人力しかないからね……」
「鉄をくっつけるのとは違いますもんね。あ、呼んでますよ」
言われ、依頼人が手を振るのが見えた。
次の現場に、ということだろう。
そして案内された先で、同じようなことを。
畑拡張、開墾の手伝い。
依頼人たちは、単純に肉体労働の人手確保のつもりだったと思う。
そこに私が、JAMを使っての作業を提案したのが現状、となる。
「今さらですけど、報酬とトントンですよね」
「いいのよ。こういう使い方もしておかないと、力の加減は覚えられないわよ」
半分冗談で、半分本当だ。
いつだって全力、も悪くはないけど微細な手加減も大事だ。
壊さないぎりぎりを攻める、とかね。
「ここね。じゃ、また始めるわ」
「了解!」
その後も、場所を移動してざっくりとした開墾の手伝いをする。
予定では半年ぐらいかけて行うものを、これならと前倒しで実施となった様子。
壁の増築が間に合わず、ありあわせの壁になるほうが問題なようだ。
さすがにそっちまでやると、仕事を奪ってしまうだろうから口出しはしない。
「いやー、本当に助かったよぉ。こーんな地味なのはって、不人気なんだぁ」
「こっちも気分転換がてらだから気にしないで」
いざというときの護衛も兼ねていることが、安心材料だったんだろう。
思った以上に好意的な態度に、少し戸惑うぐらいだ。
予定通りの報酬、お金と日持ちのする野菜類を受け取って別れる。
食料のほうは、宿にでも渡せば使ってくれるだろう。
野菜の入った木箱を抱えるJAMというと、少しレアかな?
一応、トラックは持ってきているのでそちらに木箱は移してっと。
「見回りもかねて、こっちで戻るわ。トラックはよろしく」
「はい、わかりました。この辺りは平和ですよね」
そのためにも、見回りは必要ってことね。
大丈夫という手抜きが、ほころびになる。
一応、コアの石をダイヤに切り替え。
グリーンダイヤは、さすがにオーバースペックすぎる。
(これを使う相手が、来ない方がいいんだけど)
強い力は、強い力を呼ぶという。
昔からの言い伝えは、ある程度の真実味を帯びながら胸の中に響いた。




