JAD-108「ロマンというもの」
「おお、ようやく戻ってきたか!」
「お待たせ。ちょっとドンパチしてきたのよ。おかげで、武装にガタが来てるわ」
普通のメカニック相手だと壊した、痛めたと告げるのは怒られる元だ。
でも、このおじいさんは違う、そう感じる。
むしろ、限界を攻めない戦い方のほうが、つまらんとか言われそうだった。
「ほう? 仮にもワシ直々にいじった武装がそう簡単に……おお、これはこれは」
店の敷地に止めたブリリヤントハート。
作業台に置かれたライフルなんかを、急に機敏な動きで確認するおじいさん。
その目が輝いているあたり、お気に召したようだ。
「だいぶ使い込んだのう。しかも、一度はほぼ全部を同時射撃したじゃろ?」
「さすがね。巨大なミュータントが相手だったから、ダイヤをダブルで……どーんっとね」
私の答えに、満面の笑み。
こっちへと誘われ、工場へとついていく。
天井の高い、JAMがそのまま入りそうな建物にあったのは、武装たち。
「どうじゃ?」
「どうって……レーテ?」
カタリナの声が、あまり耳に入ってこない。
仕組みはわからないけれど、これは……かなりのものだ。
「まさしく、ロマンね。ここ、たぶん任意で石を入れておける部分でしょう? 動力を切り替えなくても、力を入れ替えたり、混ぜることができるんじゃない?」
「それがわかるなら、話は早い。普段は増幅用に水晶の良いのやカラーレスのを入れておくといい。手持ちライフルはその方が良いじゃろうと思ってな」
その後も説明は続き、最初に紹介を受けた長物のライフルが2、取り回しやすい短銃が3。
けん制用のあれこれとして、投擲用のJAMサイズの刃物や手投げ弾みたいなのがたくさん。
背面武装として、拡散前提の砲と、折り畳み式の長距離砲が1だ。
そして、預けておいたなじみのライフル。
新しい方は、この世界では初めて見る。
記憶にある、ゲームの世界では見覚えのある機構も混じっているが。
(技術が残っていたか、おじいさんのロマンがたどり着いたのか……ふふふ)
「仕組みは、そこいらのからはあまり外しておらん。今回は……上限に絞ったぞ。預かっていたライフルもいじっておいた」
「ええ、前に使っていた時より、だいぶよさそうね」
いつだったか、JAM向けのマーケットで見つけた掘り出し物だったライフル。
巨大ゴーレムなんかとも戦った相棒めいた武装も、この手に戻ってきたことになる。
「並の武装では、今回のようにお前さんの機体、その全力についていけるか不安じゃったからのう」
「その辺はね、確かに。それで、おいくらかしら?」
「これぐらいは貰いたいが、最終的にはお任せじゃの」
その言葉に、私も笑みを浮かべる。
ロマンに、直接値段をつけるのは無粋、というわけだ。
横から見ていたカタリナの顔が引きつる金額を、私は支払うことにした。
電子マネーであるそれを処理する機材は、お店の類であれば大体ある。
それはこの工場でも同じ。
まだ生き残っている衛星とのリンクは、この用途の場合はまだまだしっかりしている。
すぐに支払いが終わり、武装は私たちの物になる。
「ああ、そうだ。これを見てほしいのだけど」
「んん? ほう、あの坊主がカラーダイヤをお前さんにのう。確かに、この機体なら……待っておれよ」
何かを思い出すようにつぶやいたおじいさんが部屋にひっこみ、小さな手提げ金庫を持ってきた。
重大な取引だと感じさせる空気の中、金庫が開き、その中身が差し出される。
「これ……かなりのものですね」
「ええ、本当に。借りが高くつきそうだわ」
カタリナが思わず言葉を失いそうになるほどの、力。
良いジュエリストであるほど、この力ははっきり感じるに違いない。
おじいさんも、目をつぶさないようにゴーグルを外しているぐらいだ。
「どんなことをしでかすか、楽しみにしとるぞ」
「そうそう変なことに巻き込まれたくはないのだけど」
冗談に笑いながら答えつつ、冗談にならない気がひしひしとしてくるのだった。




