JAD-107「空を行く」
「石英の補充は完了です。低純度から使用する、でいいですよね?」
「ええ、そうね。前に見つけたような、いい感じの水晶のほうはいざというときに使いましょ」
JAMに限らず、石から力を引き出す機械の燃料は、いわゆる石英の結晶、良い物だと水晶そのものだ。
何か目に見えない力が石には溜まっており、なぜかそれを燃料のように使える。
ほかの石だと、こうはいかないのが謎なところである。
使い切ったら、倉庫などに安置しておくと復活してくるのも謎。
「天候は良し、仕入れた情報からは、しばらくは悪天候はなさそうです」
「だといいわね。長距離飛行用セッティング、再テスト……うん、いいわね」
開いたままのコックピットから、身を乗り出して手を振る。
わざわざ見送りに来ていたリンダに向けて、だ。
実際には、言うほどの長距離ではないけれど……半分は気分だ。
「飛ぶわ」
「はいっ!」
わずかなGと浮遊感。
モニターでは草むらが激しく揺れるのが目に入る。
すぐに景色も眼下へと遠ざかっていく。
鳥と、一部のミュータントだけが存在する空。
「緑がない場所、結構あるんですね」
「みたいね。星の力が枯渇してしまった場所は、砂漠化する。逆に星の力がまだある場所はその力が強まって、自然が復活してる」
まるで、草木の無い場所がかじられてしまったような光景だ。
しばらく、その不思議な光景を眺めていたが、機体を横に滑らせるように進ませる。
飛んでるだけで、じわじわ石英は消費するのだから、気を付けないとだ。
「消耗は予定値以下です。思ったより燃費は改善していますよ」
「いいことなのかしらね……改造したわけでもないのに、機体性能が向上したんだもの」
言いながら、覚えのあることに納得している私がいる。
今となっては、架空の記憶なのか、実際に経験したのかわからない、戦いの記憶。
ゲームなのか、現実だったのか、わからないけれど私を形作る記憶。
「考えても仕方ないか。カラーダイヤも、そろえれば選択肢は増えていくわ」
「その意気ですよ。謎の石も、ダイヤ並みの力なんですよね?」
「感じる限りでは、そのようね」
言われ、ポーチに入れた石を外から触る。
大クラゲの核にあった、ダイヤにも似た石。
おそらく、ダイヤを目指して作られた人造石……なのだけど、そうすると謎が増える。
そんな石を、海にいた大クラゲがなぜ核にしているのか?
1つは、偶然海中に落ちたものを取り込んだから大きくなった説。
もう1つは、人間が何かの研究で組み込んだ個体が逃げた説。
そして、始まりの隕石のように星の外から来た説だ。
個人的には、何気に3つ目の可能性を押している。
始まりの隕石が発見されたのは有名だけど、地上に落ちたものが最初という保証はどこにある?
記録に残っていないだけで、海中に落ちたこともあり得る。
この星の半分以上は、海なのだから。
もしかしたら、まだ人間が遭遇していない巨大な……。
「飛行速度は順調に上昇しています。障害物がない分、スムーズですね」
「そうでなくっちゃね。どのぐらいで着きそう?」
「早ければ後30分もしないうちに着きますよ」
予想以上の速さ、地形を無視できるという強みを実感する。
懸念事項だった空中の襲撃もなく、視線の先に町並みが見えてくる。
「離れたところで降りるわよ」
「はい、真上からだと驚かせてしまいますものね」
それもそうだけど、一応ドラゴンなんかのミュータントを警戒してるだろうから……。
うっかり、それに引っかかって撃たれてはかなわない。
10キロ以上は離れた場所に降り立ち、地上を滑るように進む。
飛行の応用で、いわゆるホバー移動とも少し違う。
わずかな高さで飛んでいるのだ。
「町に無線連絡しておこうかしらね」
「了解。通信確立……早いですね。もう許可が出ましたよ」
町の壁に近づき、速度を落として歩くようにする。
見張りの兵士たちの視線を集めつつ、私はブリリヤントハートを壁の中に入れた。
特にトラブルは起きていないようで、むしろ出発の時より平和な印象を受けた。
そのまま宿に、と行きたいところだがまずは伝言と手紙を渡さねば。
すぐに休みたい欲求を抑え込みつつ、まずは仕事をこなすのだった。




