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JAD-106「対価の価値」


「来たか。彼女がそうです」


「ほう、例の? 初めましてだな」


「ええ、初めまして、ね。ライフレーテ・ロマブナン、レーテって呼ばれてるわ」


 報酬の受け取りに向かった先で、出会ったのはリンダと見知らぬ男性。

 状況的に、リンダの上司といったところだ。


 自己紹介を受けたが、正直印象が薄い。

 わざとか……たまたまなのか。

 少し気になるところだ。


 白髪交じりで、体格的には前線に立つことは難しそうだ。

 でも、ジュエリスト特有の感覚が相手からは感じられた。


「今回も助かった。まさか合体する生き物が存在するとはな」


「あれは私も初めてよ。どうにか撃退出来て良かったわ」


 大クラゲが、周囲の小クラゲを取り込み、巨大化したのは今でも信じられない。

 その姿も驚きだが、攻撃を何かで軽減させたことは特に、だ。


 私の力がまだ足りないのか、もしくは……。


「これを機に専属を、と言いたいところだが……目的があるらしいと聞いているが?」


「ええ、そうね。笑われるかもしれないけど、カラーダイヤを探してるの。夢というか、なんというか」


 目覚めた時からある記憶、その中で主張してくる目的。

 自身の生まれを知った今では、その記憶が正しいのかはわからない。


 はっきりしているのは、そろえた先には、私が倒せない相手はほぼいないだろうということ。


「いや、笑わんよ。男女問わず、ジュエリストなら一度は頭に浮かべる話だ。宇宙へと延びる虹の橋が産まれるとも、あらゆる力を得るとも、さまざまに噂される。問題は、どのカラーダイヤがそうかわからないことだな。私もあきらめた口だが」


「結構昔はヤンチャだったらしい話は本当だったのか」


 意外にも話のわかる相手のようで、昔の戦闘スタイル等の話になった。

 長距離の狙撃を得意としていたそうで、だから生き残ったのだと自虐的に笑った。

 なるほど、印象が弱いのは日ごろから目立たないようにしていた癖ということらしい。


「おっと、お供の彼女が退屈そうだな。報酬は増額して対応させてもらう。それに、回収した宝石があれば申告してほしい。全部は無理だが、希望に沿うようにしたい」


「この子はオペレーターみたいなものだから、気にしないで。回収しためぼしいのは、あの大クラゲの核だったであろうこれぐらいね」


 馬鹿正直にカタリナのことを説明する必要もないと判断し、ごまかす。

 そして、布袋から取り出したのは赤ん坊の拳ほどの輝き。


 ダイヤにも似たまばゆさと、自然の物ではなさそうだと感じるそれ。


「ううむ? あいにく、鑑定しきれないな。ダイヤのようで、違うようだが」


「はっきりしないものは、査定が安いんだ。それは持って行っても大丈夫だ」


「そう? じゃあ石のほうはこれでいいわ。カラーダイヤの情報があればさらにうれしいけれど」


 石を袋に入れなおし、訪ねてみれば深いうなずき。

 上司の男が、タブレットを操作して見せてくれたのは地図。


「君が出撃してきた町に、ロマンを感じる工場があるのを知ってるだろうか?」


「表に大きな長物を看板代わりにしてるところなら、そこで注文してあるわ」


 ならば話が早いといわれ、困惑する。

 さらにタブレットが操作され、何かの目録のようなものが。


「前線からは引退したがね。そこに私の見つけたカラーダイヤ、グリーンダイヤが預けてある。力が足りるかどうかはわからないが、持っていきたまえ」


「いいの? 貴重なものでしょう?」


 口にした疑問に、男性は自嘲気味な笑みを浮かべる。


「ああ。使いこなせなかったんだよ。正確には、使おうとしたら機体がオーバーヒートしてね」


「それは……」


「私も初耳だな。そんな理由だったのか」


 驚きの声をあげるカタリナとリンダ。

 私は逆に、沈黙する。


 少なくとも、力が小さいということはないらしい。

 実際に私の欲するレベルのものかどうかはともかく、ありがたい。


「ありがたくいただくわ。後日、何か依頼があれば遠慮なく言ってちょうだい。この土地にいる限りは、前向きに受注するつもりよ」


「その時はよろしく頼む。今は……それどころではないからな」


 ようやく浮かべた笑みは、笑うしかない、といった感じ。

 確かに、あれこれややこしい状況で、スムーズにいくかどうか怪しい。

 大変さは目に見えていて、笑ってないとやってられない、と。


「もう戻るのか?」


「そうね。一人戻るだけなら、なんとかなるから」


 戻る人員と一緒に移動してもいいけれど、装備を整えたい気持ちが強い。

 そう告げると、手紙を預かることになった。


 通信だけでは確実ではないということで、報告書めいたものということだった。

 簡単に挨拶を交わし、さっそくとばかりに機体へと戻るのだった。



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