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JAD-105「空」



 結論から言うと、町の制圧も含め、派閥争いの結果だったという。

 協力して生存権を拡大すべきという派閥と、意思統一を図るべきという過激派閥。


 この港を管理、発展させていたのはその過激派閥だったらしい。

 ある日、探索先で建設中のまま封印されていた空母を見つけ、再建造へ。

 そして、近海にただようあのミュータントを発見、捕縛に成功したのだ。


 色々なことが、都合よく重なっている。


「まあ、捕虜と相手の別派閥による言い分だからどこまで本当かはわからないけれどね」


「どうして、人間って争うんでしょうね」


 作られた存在としての自覚があるカタリナには、いまいちピンとこないようだ。

 誰かの介入がという点では同じ私にも、すべてはわからない。


 ただ、誰かの幸福は誰かの不幸で、片方の正義はもう片方の正義ではない。

 そのことは、記憶でも、ゲームといった作品の中でもある。


「みんな、自分が大事なのよ……きっとね」


「そんなもんですかね?」


 制圧した港の一角、私が雇われている形の企業、エストック。

 私たちは今、彼らの陣地として構築された敷地内にいる。


 この港はエストックおよび所属国家の物……というには少し早いようだ。


「そう、だからあまり広い土地は治めにくいのよ。通信もうまいこといかないしね」


「あー……電波障害、不定期にありますもんね。だから、ですか」


 そう、今回宣戦布告めいたものが届くのが遅くなったと言い訳にも使われた。

 そのぐらいには、よくあることでまるで目に見えない手紙のような状態だ。

 とても、普段からのネットワークとして使うことはできない。


(つまりは、統治するには途中の距離や自然が邪魔すぎる)


「一応、表上は吸収合併だけど、実際の統治は穏健派、小競り合いで過ごしてきた派閥が行うらしいわ」


 それはそれでどうなのかとは思うけれど、無駄に争いが続くよりはいい。

 二つの地域、その間の道は整備を進め、交流は行えるようにしていくらしい。


 輸送分のコストはかかるけど、言い換えれば物と人が動く需要が維持されるわけで。

 その分、私のようなジュエリストや、それ未満の人たちも集まってくるだろう。


「同盟ってやつですか。うまくいくんですかね?」


「さあね? 私にはあまり関係がないわ。ずっといる予定もないし。よし、終わったわ」


 あの合体するミュータントへ向けての全力攻撃。

 それはこちらにも影響が大きかったようで、武装がいくらか損傷していた。

 正確には、流し込まれた石の力に耐えきれなかったというところだ。


 戦闘時には、まだいけそうだったけどそれは気のせいだったようで。

 岩を砕くぐらいはまあともかく、それも何発大丈夫かわからない。


「結局、ニコイチサンコイチで一丁ぎりぎり、ですね。どうします、戻りますか?」


「ええ。そろそろ装備も出来上がってるでしょうし。むしろ、取りに来ないとは何事だって怒られそうだわ。あとは、大クラゲの核にあった石をもらう手続きもしないと」


 そうと決まれば話は早い。

 リンダたちのいるだろう建物へと向かい、相談だ。


 外に出ると、予想以上の快晴。

 海からの風が吹き、独特の香りを届けてくれる。


 思わず空を見上げ、思い切り伸びをして……。


「……この感覚、何?」


 大クラゲの核にあった石、ダイヤにも似た確かな輝きの石。

 名前がよくわからないそれを入れた布袋を握る手に、熱を感じた。


 同時に、地面……いや、その下からの力の流れが体にめぐる。

 その力が細く細く、目に見えないような細い糸となって空に伸びる。

 その糸はあちこちから、上空に伸びているように感じた。


 まるで、空の向こうにいる何かにつながるように。


「レーテ?」


「え? ああ、いい天気だなって。行きましょう」


 カタリナの声に、不思議な感覚は消え去った。

 布袋から感じていた熱も、気のせいだったように一切ない。


 気持ちを切り替えるべく、歩き出すのだった。



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