JAD-102「欲望は果てしなく」
「ミュータント側には命中率90パーセント以上、地上は……結構避けていますね」
「よっぽどってことかしら……」
足を止め、ひたすらに光の弾丸を放っている私。
言ってしまえば、ホーミング性能のあるマシンガンのようなものだ。
主な方向は海に向けているけど、道中は地上側の砲台やJAMたちにも当たっている。
わかっていても、反撃する余裕があまりないということだろうか。
「沖合からまだ来ますよ!? どうなってるんですかこれ!」
「ミュータントに何か考えがあるとは思えないわね。向かってるらしい空母に何かあるはず……」
ひとしきり撃ち、目に見えた範囲ではミュータントもかなり数を減らした。
だというのに、まだ沖合からは気配が途切れない。
空母からの攻撃も、まだほとんどが海に向けてだ。
『港湾部に突入開始、おいおい、こいつは……』
誰かのつぶやきの後、聞こえてくるのは怒号と発砲音ばかり。
通信の問題を考え、私も遠距離からの攻撃を止めて前に進む。
港の施設、その中でも比較的背の高い建物へ向けて進むと、あちこちからの会話が飛び込んできた。
『隊長! 先にクラゲどもを倒さないと終わりだぞとかみんな言ってますぜ!』
『こっちもです! 相手上層部への恨み言ばかりです!』
『班を分ける! 港の左右に展開、中央は空母に乗り込む!』
なんと、反撃らしい反撃はほとんどなく、今はそれどころではない、といった反応のようだ。
すべては、海側のクラゲ型ミュータントが原因なのだろう。
「空母なら、武装の空きが1つぐらいあるわよね、きっと」
「まあ、だと思いますよ。でもあっちに行くってことは……激しい方が逆に気楽ですね」
私が答える前に、カタリナもわかったようだ。
騒動につっこんだほうが、結果的に早い、と。
目立つ形で射撃を続ける私にも、ほとんどロックが来ない。
その事実に驚きつつ、一気に機体を飛ばし、空母の甲板へ。
「データスキャン開始。今のところ、楽園型との一致率は4割ほどです」
「大体、参考にして作ったってとこでしょう。さて、何が……痛っ! この感覚は!」
空母に近づく前から、こっちには石の力を感じていた。
大きさに見合った、かなりの強さ。
頭痛を伴うような、強烈な……明確な何かの叫び。
これは、ミュータントや獣等、生き物の発する石の力によくある現象だ。
つまりはこの力、まだ生きている!
「フェアリーより各機へ! 空母の中に、石を抱えた何かが生きてる! どういうこと!?」
『こっちが知りたい! 空母が化け物に制圧されてるってのか!?』
重要拠点の中に、ミュータントがいるとなれば、そう考えるわよね。
でも、実際にはミュータントを迎撃している、つまりは制圧されているわけじゃない。
ということは……。
「最っ悪……! あいつら、無力化して無理やりつなげてるわね」
「そんなことが!? あ、でも……動力に、意思は関係ない……?」
そう、その通りだ。
始まりの隕石の中には、当然生き物はいなかった。
けれど、自然か人為的にか作られた回路的なものは、力を生み出した。
それがきっかけかはわからないけれど、文明崩壊前後にミュータントは世界に生まれている。
彼らや、一部の獣は牙や体の一部分を石と変え、力を持つようになった。
だけど、石は石、そしてそれを流用することもできる。
原則、切り離してただの石に戻す必要はあるが、それは安全のためだ。
「この空母、何が動力になって動かしてるのかしらね」
人は力を求める。
生きるため、敵を退けるため。
自分の、自分たちの欲望を満たすため。
「そんな……」
「索敵を厳に! 相手の様子はどう?」
「っ! はいっ! 勢いは弱まってますが、いくらかは迎撃網を超えてすぐそこに来てます!」
当たり前だが、私の放つ弾も甲板を貫通させられるわけじゃない。
結果、潜り切った分には当てられないのだ。
わずかに揺れる空母。
どうやら、攻撃は少しずつたどり着いているようだ。
「仕方ない。私たちもいけるところまで突入しますか……。フェアリーより各機、ミュータントを追って突入する!」
『俺たちも向かう。無理はするなよ!』
了解、と短く答え、甲板上に開いたままの突入口から中に降りていく。