JAD-101「横合いから勢いよく」
その日の戦いは、遠くで光る何かの砲撃から始まった。
攻撃の矛先は私たち、ではなく別の方角。
「あちらには、海しかありませんよね」
「たぶんね。どういうことかしら」
戦力の調整、という名目で待機していた私。
数日かかるかと思ったが、翌日には声がかかった。
目標は、相手の主要都市……ではない。
「前に楽園型空母の話が出た時、まさかと思ったけど……」
様々な情報や、聞こえてきた話をまとめると、何かしらがあることは間違いなさそうだった。
昔からの港がまだ残っているという街に、浮かぶ島があると。
「少なくとも、外れではなさそうですね」
カタリナの言葉は、周囲にもいる味方たちと共通の思いだろう。
大当たりは回避したいが、外れも回避したい。
そんな一番都合のいい……冗談のような話。
『目標地点についたら、一気に制圧に移る。フェアリー、そちらはどうだ』
「こちらフェアリー、問題ないわ。稼がせてもらうわよ」
ほかの町からの増援も含め、かなりの数のJAM、戦闘車両が参加している。
普段の旅路であれば襲ってくるミュータントも、近寄ってこないほどだ。
「予定ではあと20分で目標地点です」
「了解。こちらが見つかったわけじゃない……他から襲撃が? でも、海……」
もしかしてという予想は、目標地点についてすぐに答え合わせとなる。
たどり着いたのは木々に囲まれた小高い丘。
向こうからは木々が隠してくれる、ちょうどよい場所だ。
「何か……いるわね」
「貴石反応多数。砲台は三桁ありますよ、どんなハリネズミですか」
映像の中では、海に向かって無数に放たれる砲撃が写っている。
そして、それを放つ主である空母自身も。
予想よりはるかに大きい。
視界の端から端までが、巨大な建造物で埋まっている。
堤防がありますといわれた方が、まだ納得できるぐらいだ。
計測はしていないけど、1㎞は優に超えているだろう。
(楽園型は、最終的には石の力で宇宙に飛ばすことも考えた設計のはず。でもこれは、違う)
『でかいな。本当に楽園型か?』
「大きさは匹敵してるわね。似てるけど、違う。あるいは、ガワだけだわ」
正確には、動力と武装とのつながりはまだ生きていそうだけど……。
中に、JAMを生み出す場所独特の感覚がないのだ。
強い力には、強い力をカウンターに用意する。
昔から人間がやってきた行動、その1つだ。
あの空母が楽園型だったら話は早いのだけど……。
私のカンでしかないけど、あれは違う。
だから、狙われているんだ。
『上はミュータントの襲撃を受けてると判断している。どう動くと美味しいと思う?』
「私にそれを聞くの? どっちもたたく、でいいんじゃないかしら。うまく利用しつつ」
「悪役みたいですよ、レーテ」
それは仕方ない。自分の信念とお金のために戦うのが私なのだ。
武装と作戦の確認をして、総員突撃である。
まずは情報収集だ。
「上昇! 映像確認とマーキングを完成させるわ!」
「データ作成は任せてください。おすきにどうぞ!」
操作レバーを握りながら、動力の宝石に意識を向ける。
大地から、機体と体をめぐる石の力を感じる。
周囲の草木をなぎ倒しつつ、ブリリヤントハートが空を舞う。
上空に来ると、相手の大きさと数がよくわかる。
そして、空母以外にも相手の戦力がたくさんおり、それらも海に向けて攻撃しているのが見えた。
地上に残る宇宙、と私の記憶でも表現されていた海、そして深海。
今、太陽のもとで照らされているのは……海面に顔を出すドーム状の……ええ?
「クラゲ? 速くない?」
「レーテ、それにこの距離であれですよ?」
「そうよね。なんなのあれ……」
数はかなりのもの。そして、大きさも。
1匹1匹が、まるで車のようだ。
それが沖合から、どんどんと迫ってくる。
砲撃を受け、多くが海面に砕けているが、全部ではない。
何より、何かを推進力にして結構な速度だ。
「進行ルート確認。嘘……全部あの空母に向かってますよ!?」
「何かあるのか、偶然か……今はたたいてから考えましょう」
何機かはこちらに気が付き、少しの間ロックオンされたが、すぐにそれた。
みんな、沖合に向かっている。
それだけの脅威ということだろう。
「サブをアパタイトに。どっちもつぶす!」
「了解、貴石変換完了です」
空母を左、海を右に見る場所に陣取った私は、ライフルを二丁構えさせる。
使い捨てにするつもりはないけど、しばらくは無茶に付き合ってもらおう。
「全部、撃ちつらぬく!」
銃口から、無数のネオンカラーの弾丸が放たれていく。
それは1つ1つが意志を持つかのように、私たちの考える敵へと襲い掛かるのだった。