JAD-100「威を借りる」
都市奪還の部隊と、そのための陽動を行う部隊。
二手に分かれた作戦は、今のところ順調だ。
私が参加した陽動側は、相手が引き払っていた感じもあり、不穏ではある。
何も理由なしに、仕掛けてはこないとは思うのだけど……。
「一部の派閥が暴走したと?」
「ここで捕虜にした幾人かは、そう言ってるようだ」
奪還した町にたどり着いたところで、リンダとも合流。
そこで聞かされたのは、相手側も一丸となってというわけではないということ。
むしろ、結構な強硬策なのだとか。
「ある程度は信じていいように思う。そちらも少し気になる状況のようだしな」
「データはこちらを。ほとんどカラでしたね」
ちらりと見えた町中は、あまり破壊されていない。
電撃的に制圧されていたんだろうか?
町の外に戦いの跡があったから、外に相手は出てきたわけだけど……。
うん、この町を含めてどうしたいのか、よくわからない行動だ。
「詳細は上が判断するところだが……どうも時間稼ぎのような気がしている」
「時間稼ぎ……相手に何かしら切り札があると」
「それこそ、本当に見つけたんですかね……空母」
カタリナの冗談めいた言葉に、ハッとなる。
確かに、それなら多少無茶をしようというのもわからないではない。
海上に出るのはミュータントたちを考えると難しくても、地上近くや川ならどうか。
囲うように岩礁の壁でも作れば、大物以外は侵入を防げる。
あとは、内部の復活ができれば大規模な武装都市の出来上がりだ。
何より……。
「話通りなら、JAMの生産設備もあるでしょうね。もともと、国が失われた際の避難先だもの」
「となると、決着をどうするかだな。空母の破壊はさすがになあ……」
町は再建できるけど、楽園型空母となれば天秤に乗せられない。
壊すのは簡単だけど、直すのは大変なのだ。
「さすがに、噂通りのスペックだったら、フィールド自体破るのがつらいわね。有効打はいけそうだけど……」
できればそうしたくはないものである。
どうにかして、人間の復興のために使えればいいのだけど。
ここで話していても、相手とこちらの上がどこまでを決着とするかで変わる。
私としては、あまりひどくならないことを祈るのみである。
「部隊の調整の上、結論を出すらしいので少し待機しててくれるか?」
「ええ、それは構わないわよ」
「よろしく頼む。ああ、そうだ。呼び出し用のコードを登録しておく。フェアリー、だそうだ」
「ずいぶん乱暴な妖精もいたものね。まあいいわ」
建物を出て、ブリリヤントハートを置いてある区画に向かう。
陽動作戦で一緒だった部隊の場所を、間借りした状態だ。
周囲には見覚えのない人たちもいる。
「よう。あいつらは別都市の援軍さ」
「それもそうよね、こっち側の国……が喧嘩売られたんだもの」
昔のような国、という枠組みはほとんどない。
多くは大企業の勢力、言い換えれば商圏が領土のようなものだ。
昔々の、都市国家というものが近いかもしれない。
ずいぶんと、刃はお互いに鋭利なものになっているけれど。
「ま、俺たちはやれることをやるだけさ」
「ええ、そのとおりね。私も……討てる相手を、刈り取るのみだわ」
おそらく、私たち以外にも発掘品のJAM、その動力を使っている人はいるはず。
今のところ、出会ってはいないけれど……。
いや、違うかな。
(いてほしい、んだ。自分と同じ時代を生きていたかもしれない相手や、物に)
「武装のチェックでもしておくわ」
「おう、俺たちも調整中さ。またな」
男と別れ、機体のもとへ。
汚れはあるけれど、破損はほぼない機体を見上げる。
少し、たくましくなっただろうか?
「ライフルの銃身が少し焼けてますね。交換できる部分はもらってきましょうか」
「そうね、お願い」
彼女が気を利かせたのか、一人になった。
そのまま、そっとブリリヤントハートの足に手を添える。
冷たい装甲、何も言わない機械。
けど……。
「頼りにしてるわ」
短い言葉に、機体も応えてくれる。
そう信じて、石の力を巡らせるのだった。