JAD-099「何もないという違和感」
『そっちの調子はって、もう終わってんのかよ』
「遅かったわね。牙持ちは狩らせてもらったわよ」
味方の通信に、安堵を交えつつ返事。
やはり、何度やっても人同士の戦いは神経を使う。
たとえ、記憶では何年も毎日やっていたことだったとしても。
空を埋め尽くすミサイルや光線の群れ、地上から迫る無数の槍。
そんな光景を駆け抜けたとしても、結局私の命は1つ、相手の命も1つ。
「手加減したいなら、強くなるしかなかった……」
『ん、何か言ったか? まあいい。少し、妙な感じだ。確かに戦力はある、アンタがいたから楽勝な部分もある。ただ……』
「思った以上に、あっさりしてるってところ?」
カタリナに目くばせすれば、うなずきからデータ解析が始まる。
確かに、抵抗が思ったより早く収まったというか、なんというか。
『隊長! 妙ですぜ、ブツがっ』
「レーテっ! 資材や現物がほとんどありませんっ!」
「なんですって?」
言われて、解析データを周囲にも送信する。
この距離なら、衛星やサーバ機材がなくても直接送ることはできる。
それを見る限り、施設はほとんど無事だが、もぬけの殻。
そう、動力の部分も、だ。
『そうか、あいつら……可能性を踏まえて放棄したか? 俺たちが、できるだけ無傷で制圧したいのはわかりきってる』
「時間稼ぎ、ね……」
問題は、何のための時間を稼ぐか、だ。
知ってそうなのが、1人いるわね。
「さっき、制圧したJAMのパイロット、何か聞けないかしら?」
『了解した。任せてもらおう』
通信がそこで切れ、私は周囲の探索に移る。
伏兵があるかもしれないし、罠だってあるかもしれない。
「おっと、開けるとドカン、ね」
さっそく、無事な建物、倉庫の扉にある石の反応に気が付く。
仕方ないので、横の壁を切り裂いてお邪魔した。
危ないものは回収してっと。
本来は機材とかがあっただろう場所だけど、めぼしい物は輸送されているようだ。
「にしても、何が目的かしらねえ?」
「土地を減らしてでもやりたいこと……ですよね?」
そう、一時的にでも敵に土地を奪われる行為。
ましてや、先に攻撃をしかけて奪ってきたのは向こうなのだ。
それこそ、何もせずにいればこちらは気が付かないままだったはずなのに。
「反撃でこんなに被害を……でも反撃を予想して何もかもが移動されている……」
何かが引っかかる。
でも、言葉になっていかない。
と、合図代わりの照明弾が打ち上げられる。
尋問をしているだろうそこへ向かうと、ほかの面々も集まってきていた。
『聞いてみたが、ろくなことは知らされていないようだ。楽園の鉄槌を、とだけ』
「進むしかないわけね……楽園……奪われる前にこちらを、ということかしら」
本当のところはいまいちわからない。
損害の確認をして、本体への合流に向かう。
予定なら制圧用の人員を残すけれど、制圧する意味の薄い状態ではまとめて移動した方が良い。
あちらは今頃、都市奪還の真っ最中のはずだ。
そこから、逆侵攻をかけるか、維持に戻すかは状況次第。
『少し、いいか?』
「何かあった?」
輸送してくれてるトラックから通信。
前にもあったことがある、兵士の1人だ。
『いや、問題があったわけじゃ……アンタ、星は斬れるか?』
「変な話ね。やったことがないからわからないわ。でも、できないと思ってやれば、何も成功しないでしょうね」
何かの比喩だろうか? あるいは、星相当の何か脅威を見たことが?
よくわからないけど、正直なところを答える。
実際、ゲームだろう記憶では、山と見まごうばかりの相手ともいくらでも戦った。
(メテオブレイカークラスとも、そこそこ戦ったのよね)
『そうか、すまん。変なことを聞いたな』
「気にしてないわ。それより、そろそろ野営の準備をした方が良いと思うのだけど」
日が傾いてきた時間。
まだ、合流予定地点には距離がある。
『ああ、そうだな。隊長もそれはわかって……うん、停止命令が来た。野営だ』
大きく開けた平原で、隊列が止まる。
ここが野営にふさわしいかは別にして、森のそばも危険ではある。
であれば、まだ動きやすいここにということだろう。
どこか緊張感漂う野営が、静かに始まる。