JAD-009「太古からの呼び声」
「綺麗……」
街の水源があるとされる山々。
見回りとしてそこにやってきた私たちは、陽光に輝く湖の前にいた。
「かなりの大きさですね」
「ええ。ますますこっちを開拓しない理由が……」
言いながら、無理な理由は自分でもわかっている。
自然がありすぎるのだ。
住民が常にJAMに乗っているのなら、まあできるかもしれない。
そうでなければ、夜の闇と共に何者かに襲われるだろう。
(事実上、無理な話ね)
「たくさんいすぎて、把握しにくいですよ。これ……獣の楽園、ですね」
「濁ってないのを見ると、底の方で結構湧いてるのかしらね」
湖畔には、水を飲みに来ている獣たちがたくさん。
それに、中にはミュータントらしき相手もいる。
「一応、水質の検査ぐらいはして……っ!?」
突然の、気配。もといレーダー反応。
何かが木の上から、襲い掛かってきたのだ。
そちらに振り向いた私は……武器を持っていない方の手で、包み込むように相手を掴んだ。
どう見ても普通の、獣だ。
猫のような、大きさはかなりのものなんだけど。
「無意味に狩るつもりはないわよ……ってああ……」
でかい猫?がこちらの手から飛び立った先には、子供らしき存在が数匹。
守るため、気を引こうと無茶な手に出たというところだろうか。
「移動するわ」
「今のところ、大丈夫そうですね」
湖畔へと移動し、獣を脅かしつつも片手を湖へ。
センサーにより確認の結果、有害物質等は検出されなかった。
ここから川、あるいは地下水としてタンセの街は利用しているわけだ。
「これ以上は私で調べることじゃないわね。変なのもいないし……これで終わりかしら」
「異常がなければ規定日数の見回りで終了、となっていますね」
普段は、なかなかやる人がいないのだろう。
人の手が入った個所はほとんど見られず、自然のまま。
だというのに、まるで人が斬ったかのような場所があるのは、不思議である。
「せっかくだし、何かないかしらね」
「レーテが考えているようなことが、そうそうあったら困っちゃいますよ……」
ごもっともである。
どうしても、無駄な場所、オブジェクト配置がないと考えるゲーマーの悪い癖だ。
今の世の中、ゲームに興じることもなかなかできないのが悩みだけども。
獣たちを刺激しすぎない程度に、ゆっくりと周囲を見て回る。
今のところ、浅い鉱床の反応等は……ん?
「この金属反応……」
「レーテ、見てください。山が崩れてますよ」
カタリナに言われ、そちらをズーム。
かすかな金属反応があった方角で、確かに茶色い斜面が見えている。
一気に飛び上がり、現場へ。
何者かが山を崩したようには見えず、自然と崩れたようだ。
「よくわからないさびの塊……か。大きさ的に、乗り物かな」
「恐らくは……フレームらしき跡ですね。事故か何かで取り残されたまま、自然が飲み込んだと」
ちょっとだけ、しんみりしてしまう。
結局私も、いつかこうして朽ち果てるのだろうかと思ってしまうのだ。
当然、人間だからいつか死ぬのだろうけども……。
「レーテ、最後まで私は一緒ですよ」
「ふふ。ありがと……あら、こっちはJAMか何かだったのかしらね」
乗り物らしき物から少し離れた場所にも、何かが埋もれていた。
そして、驚いたことに何かの形が残っている。
「……鞘?」
「ケースの様ですね。保管に適しているのか、痛んでますがまだ崩壊はしてないようです」
周囲とは色が違う、人型の何かがあった場所に、長方形のケースが埋まっていた。
私には、それは鞘に見え……当たりだった。
ロックを無理やり解除し、中身を確認するとそれは大きな剣だったのだ。
ある種のロマンを形にしたような、武骨な直剣。
「データベースに照合無し。自作でしょうか」
「かもしれないわね。希少品だろうし」
カタリナのデータベースに無いのも無理はないと思う。
記憶が確かなら、大きなイベント時に懸賞品として提供された、かなりの希少品だ。
持っている人がかなり限られる。
(もしかしてこれ……ううん、この人……私と同じ)
もう確かめるすべはないけれど、これを置いていくというのは考えにくい。
なぜなら……。
「接続チェック。オールグリーン。嘘……動くんですか、この武器」
「見た目は初期装備そっくりだけど、実体は別物っていう奴でね。変換効率がとんでもないのよ」
試しにと、アクアマリンの力をブレードに使うように回す。
すると、すぐさま刃が青く、ネオンのような輝きを放った。
数回振り回すと、それだけで周囲の気温がかなり下がったのが感知できた。
「切り札には間違いなく、使えるわ」
「私が知らないだけで、大戦前後はどんだけだったんですかね……」
思わぬ拾い物に、笑みが浮かぶのがわかる。
後は、使いどころの問題と……どうしてこんな場所にということかな。
「帰ったら、地図とか探して見ましょうか。この山の中に、何かあるのかも」
そんな都合がいいことがと思いつつ、残りの時間を見回りで過ごし、トラブルなくタンセに戻るのだった。