0話:プロローグ
僕の名前はヴァイスハイト。数年前まで≪エデン王国≫の騎士として所属し、ある時に起きた≪北国≫との国境戦争での活躍と功績によって僕は≪名誉騎士公≫を授与し【リアライズ】の公名を貰った。
だからフルネームは【ヴァイスハイト・リアライズ】となる。
そんな騎士だった僕は今……騎士となる際に在籍した王都のある騎士養成学院の≪教師≫をしている。
していると言ってもまだ1年と少しと教師としてはまだまだ新米なんだけども。
……教師。正直、僕が教師なんて務まるのか?と思う事が未だにある。
それは僕が――【復讐者】だったからだ。
騎士となり騎士団に所属していたのも全ては復讐の為だった。
僕の生まれ故郷。エデン王国の北西方面にある田舎の村だ。
僕は、弓が得意で狩人だった父さんと、優しいけど間違った事をすると怖い、けどやっぱり優しい母さんとの間に生まれた。
村の人口は田舎なのもありそれほど多くはなかった。
でも食べ物は美味しいし、空気が特に良い。
それに静かな環境。
そんな故郷の村を、両親や村の皆が僕は気に入っていた。
だから老いて死ぬまで自分は此処で生きていく、と思っていた。
そんなある日。
僕は両親からエデン王都にある≪学院≫に通わないか?と打診された。
どうして?と思った。と言うより興味がなかった。
けど両親や村の皆は「お前には多才な能力を持っている。それを開花させ多くの事を成せる。けどこの小さな村では難しい。だから騎士養成学院で学んでみないか」と。
それは分かっていた。
子供の頃から村の皆からは”神童の子”なんて言われた。
一覚えたら十覚える記憶力。10歳くらいの頃には剣術で大人と引けを取らない実力があったりする。
けど騎士とか自分の才能があるとか正直興味なかった。
だって僕はこの村や両親、皆が好きだったから。
でもそんな皆がこの僕に多大な期待を持ってくれている。
それを僕には無下にする事は出来なかった。
だから内心では嫌だったけど騎士学院に入学することを受け入れた。
それから15歳の年に暫くして僕は村の門の前で皆から『頑張って!』と応援の言葉を胸に王都に向けて出発した。
故郷に村から王都まではかなりの距離がある。
早くても数日は掛かる。
それも僕が乗り気になれなかった所だと思う。
気軽に帰郷することが出来ないからだ。
そして村を初めて旅立った。
それは僕にとって後悔だった。
あの日、やはりこの村を離れなければと後悔で一杯になった。
それは村を出て2日目の事だった。途中の町で僕はある驚愕の情報を耳にした。
僕の故郷であるあの村が何者かによって襲われ壊滅状態にあると言う話だった。
それを耳にした瞬間、僕の頭の中は真っ白になった。
心が『ありえない』と叫んでいた。
そして自分でも気付いた時には村に向けて走り始めていた。
無我夢中だった。
あの情報はデマだと。
何かの間違いだったのだと。
しかし現実は残酷なのだとその光景を目にして、肌で感じて悟らされた。
あれは―自分の目に映る光景が真実なのだと。
村は焼かれたのかいたる所に、家だった跡である真黒な残骸があった。
直ぐに感覚を済ませた。
誰かいないか?生き残っている者はいないのか?
父さん、母さん!?
皆っ!?
――駄目だった。
なぜ?…そう何度も心の中で叫ぶ。
この村は辺境の田舎の村だ。
目聡いものもない。ただ空気がよく住人の心が温かいだけだ。
なのになぜ?
僕の家も焼けていた。
そして見てしまった。
あきらかに何者かと争い殺された両親の亡骸を。
涙が止まらなかった。感情表現が出難いとよく言われたけど、こんなにも悲しい、怒りが込み上げて涙が止まらないのが。
怒りの感情が止めどなく湧いてくる。
その感情は【復讐】の感情に転換された。
一日掛けて僕は村の両親や皆を供養した。
村の殆どの者はおそらく夜の寝入っている時に火を家に放たれ逃げられず焼け死んだようだった。何人かは刃による傷があった。
被害の少なく一番空気の良い場所に慰霊碑を作りそこに皆の遺灰をおさめた。
そして僕は”祈り”を捧げる。
皆の魂が恨みなく安らかに眠れるようにと。
そして”祈り”の間、自分自身に誓った。
必ず復讐を果たすと。
村の敵を必ず探し出す。そして後悔なんて生易しい、ただただ絶望させてやる。
そして必ず殺す、と。
そう誓った後に、この村も含む周辺を治めている領主が今更ながらやってきた。
事件が起きて三日はすでに経っているのに今頃やってくる。
元より貴族なんて何とも思っていなかったが、この時に貴族に対する嫌悪感が心に芽生えた。
この惨状の事情を問われたが何も答えなかった。
自分に答える事が出来ないのもあるが、口にするのも吐き気がする気がしたのだ。
1時間ほど村を調べた後領主達か帰って行った。
それは本当にただ見て回っただけだった。
領地と言っても小さな村一つがどうなっても貴族様には些細な出来事だと言う事なのか……。
+
そのあと、再び王都の学院に向けて出立した。
予定より遅くなり、入学の1日遅れで、事情を話し入学を果たした。
本来なら入学することも危ぶまれたが、入学試験の際に圧倒的な成績を見せつけた。
模擬試験では、相手の試験官を掠らせる事なく倒した。
魔力測定では、10万を超えていると驚かれた。通常の人間が保有している魔力量は多くて1万程。その十倍の保有量を秘めていれば驚かれるだろう。
さらには魔法適性の試験では、魔力にはいくつかの適性があり≪火≫≪水≫≪風≫≪地≫の四属性に、生まれた時に得る事が出来る特別な≪光≫≪闇≫の固有二属性の計六属性となる。
基本は一人の人間が持つ魔法適性は一つ。訓練や環境の変化の中二つ習得出来る者もいる。
稀に≪火≫≪水≫≪風≫≪地≫の四属性全てを保有する者も確認されており、その者は≪理≫の使い手と称される。これは極稀で数十年前に王族から一人輩出されたくらいだ。
因みに≪理≫を持つ者は≪光≫≪闇≫の適性は無いとされている。と言うより前例が未だ嘗て見られていないのだ。
そう――見られていなかった。
僕が試験を受けるまでは……。
適性試験で僕は≪火≫≪水≫≪風≫≪地≫≪光≫≪闇≫の全てを保有しているのが分かった。
大変驚かれた。
どうでもよかった。
僕にとっては、力は全て復讐に繋がる。
自分の力を知り学びその力を能力として昇華させていく。
そこに他者の眼は関係ない。
特に嫌悪感のある貴族の人間には気にも留める事がなかった。
絡まれる事もあったが、そこは学びにて得た能力の実験として有効活用させてもらった。
無論悔恨残さずだ。
徹底的な恐怖を植え付けた。手を出せばこうなる。次はもっと酷い目にあう、と。
……この時の僕の心は憎しみでささくれていたな。あまり思い出しなくない過去だな。
学院に在籍の期間は3年。
その3年であらゆる分野を学んだ。
武器での戦闘術。剣、槍、斧、弓……あらゆる武器を学び扱い方を学んだ。
武器術の中では剣と弓が特に巧くなった。
村では物心ついた頃から剣を振るったりしていたし、弓も父さんに習っていたから。
跡は武器を用いた技である武技。その武技を極めた一撃を繰り出す”奥義”も会得した。
魔法も全ての属性を使えるので、満面無く覚えていった。
特に攻撃系魔法と、光属性の治癒魔法である”祝福”。状態を付与する性質である闇魔法の”呪印”。
特に、念入りに回復魔法と、相手を拘束したり拷問し喋らせる”呪印”は会得した。
もう2度と僕から大事な者の命を奪わせない!
その一心で覚えた。さすがに命の蘇生の様な神如き魔法は会得できなかったが、息がある限りどんな致命傷でも完全回復させる”究極治癒魔法”を会得した。まあこの”治癒魔法”を使うには僕の魔力が全快状態である事が条件で一度行使するとほぼ魔力が空になってしまう。
物体構築や錬金など、他に戦術などを学んだ。
そして3年を月日が過ぎ無事卒印した。
正直もうこの学院に僕が関わりになる事はないだろう、と思っていたんだけどね……
それがこうして今はこの学院で先生をしているのだから、不思議なものだね。
+
学院を卒印した後は王都に近いとある街の騎士団に入隊した。
そこで……まあいろいろやらかしたな~。
エデン王国は奴隷制度を承認していない。
なので奴隷の売買はこの国では禁止であるのだが、ある日に巡回任務に出た際に僕は3人の奴隷として捕まっていた少女を助けた。
故郷を滅ぼされて以降、僕の中では悪は即滅ぼす、というのがあった。奴隷売買はこの国では犯罪、なら悪と言う事だ。だから即行動に移し奴隷売買の組織は壊滅させた。
それと街の貴族が関与していたのを知り告発した。
ただその時に内心で闇を抱えている一部の貴族間で、僕が自分達にとって面倒な存在と認識しそう判断するや、友好国である≪西の国≫の国境に近い田舎の騎士隊に僕は左遷される事となった。
左遷された事は特に思う所はない…。
左遷されるまでに出来る限りの情報を集めた結果、少なくとも僕の故郷の敵がこの国の者ではないのは確信できていた。
だから次は友好関係のある≪西の国≫に定めた。だから国に近い国境付近に飛ばされたのは好都合だった。
まあ結果は違うと言う事だった。
故郷の村と正反対で距離のある友好国である≪南の国≫も違うだろう。
だから残るはエデン王国と友好関係にない≪北≫と≪東≫の国。
どちらを探りを入れるかと思案していた際、都合よくと言うべきか≪北の国≫との国境戦線が起きた。
僕は一部の貴族から嫌われているが、逆に僕の騎士としての実力は認められていたので、この戦いに召集された。
そこで誰もが認めるであろう戦果を立てた。
弓の”奥義”を使用し敵集団を吹き飛ばしたり、魔法で薙ぎ払ったりね。
この時、左遷されて以降あまり戦いとは無縁に近い環境だったのもあり戦闘感覚を戻す意味も兼ねて全力で相手にした。
そして――この戦線に参加したことで、僕の中の復讐の行き場がなくなってしまった。
戦いの中で自分の欲しい情報、故郷に襲撃し滅ぼした憎い敵の存在、もしくは知っている可能性の人間を探していた。
その中で知っていた奴を見つけ”拷問”し吐かせた。
そしてそいつから知ったのは、復讐する相手はフリーの傭兵で、そいつはすでに数年前に死んでいるというものだった。
”呪印”による拷問で吐かせたのでまず正確な情報となった。
+
今回の戦果を認められて僕はエデン王都にて陛下からお褒めの言葉と≪名誉騎士公≫の称号を授与されたりもした。
けどずっとあれ以来僕は何をしたらいいのかがわからくなった。どう生きればいいのか分からなくなっていた。
ずっと復讐する事だけを望み強くなり生きてきた。
騎士団に所属していたのも騎士の身分なら情報が入りやすそうなのと戦場に参加しやすいと言う点だけだった。
この先に何をしたらいい?
何を生き甲斐にするべきか?
――分からなかった。
そんな僕に一つの転機があった。
それは≪名誉騎士公≫の授与式に出た際に、学院時代に魔法理論を教えてくれた先生と再会した。
その人は今は出世しており騎士学院の学長に就任しているようだった。
その人との――学長との出会いが僕の今後の生き方の転機となった。
『君の新しい道を私は示してみたい。君は卓越した戦闘術、魔法術、知識を有している。その君の、どのような理由で得たものでも価値あるものだと私は思う。だからその君だけの持つ技術を若い者達に教え導いてみてはどうだろう』
そう告げられた。
左遷先で近くにあった村の子供達にお願いされ、時間のある時に簡単な稽古をつけたりした事があった。
その時、一時の間、復讐の心が薄くなった。
僕の教えた事に嬉しそうに、真剣に向き合っている子たちに、なんだか眩いものをその時感じたのを覚えていた。
「考えておいてみて」と学長に言われたが、僕はその場で了承の意を示した。
こうして無気力だった僕の新しい生き方が出来た。
そのあとは早速と教師となる為の学びを学長から教わり――そして、今、僕は一つのクラスの担任教師となった。
僕のクラスの生徒は合わせて8名。
皆それぞれに才能を秘めた可能性を持った子たちだった。
殆どが貴族の出身の子と過去の経験から思う所は片隅に抱いたが、今では気にしていない。
個性的でいい子達だ。
僕の目標は、彼女達は伸びやかに学び成長して行くその過程をサポートできるようにしたい。
皆が望む明日を得られるように。
だから大切に、時には厳しく教え導いていく。
――決して僕の様な間違った道を歩ませない様に、と。