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魔王の(文字通り)箱入り娘の教師は変質勇者でした

作者: 雪野ゆきの



「初めましてお姫さま。今日からオレが貴女の教師です」


 そう言った彼は、ついこの前まで敵だった人間だ。




***



 最近この魔界は人間界と和解したらしい。

 わたしは基本ずっと箱の中で引きこもってるので聞いた話だけど、人間界に召喚された異世界からの勇者がわたしの父様と和解を成立させたらしい。

ちなみに最近の流行りは段ボール箱。固くないし温もりがあるのだ。


 そして、今日は和解成立の記念パーティだ。

 わたしは魔王の娘だけど上に三人の優秀な兄がいるのでお仕事などは回ってこない。つまりゼロ期待ポジだ。そんなわたしでもこのパーティには強制参加だと連れてこられた。

 綺麗なドレスを着ても箱の中に入ってるからあんまり意味ないと思うんだけどな……。


「ミィ、狭い所が好きなのは分かるけど顔くらいは出そうね」

 わたしが入った箱を持つ三番目の兄さまにそう言われたので、箱からひょっこりと顔を出す。今日はパーティなのでちょっと豪華な箱に入っている。魔族はみんなこの光景に慣れてるけど人間界にはわたしみたいに箱に入ってる人はいないらしく、ジロジロ見られる。

「えらいえらい」

 顔を出しただけで褒められる。なんて楽なポジション。


 ふと、一人だけオーラの違う人間が目に入った。

「兄さま、あの人間が勇者ですか?」

「うん、そうだよ」

「強いのです?」

「下手したら父様よりも」

「……関わらないでおきます」

「それがいいね」

 父様より強いならわたしは瞬殺されちゃう。


「勇者と話してる父様と兄さま達は消されませんか? 殺されませんか?」

「大丈夫、勇者は温和だからね。和解を申し出てくれたのも彼なんだよ」

「そうなのですか……」

 もう一度彼の方を見ると、一瞬だけ目が合った気がした。


 黒い、黒い瞳が何だか印象に残ったけど、もう会うことはないんだなとその時は思った。

 後にそれを言ったらミナトには「完全にフラグだな」と言われたけど。







 そして、今わたしの目の前には勇者ミナトがいる。


 ミナトがわたしの教師になった経緯はこうだ。


 パーティーが終わった次の日、父様がわたしの入った段ボール箱を抱えてこう言った。

「ミィ、ちゃんとお前にも教育をしたいと思う」

「……」

「こら、話すのもめんどくさいからって目で訴えるんじゃない」

「……今までのんびり生きたらいいって言ってたじゃないですか」

 そう言ってジトっと父様を見ると、優しく頭を撫でられた。

「今回のことで、我ら魔族よりも力のある人間がいるということが分かった。我もミィの兄達も倒れた時、この国を統べるのはミィなのだ。その時に何もわからなかったら困るだろう?」

「……」

 そんな悲しい想像をしたくなくて、めんどくさいからお勉強をしたくなくて、箱から出て父様に抱き着いた。


「はぁ、うちの娘マジ可愛い……」


 そして、父様がわたしの教師の募集をかけたらなぜかこの勇者様が手を挙げた。


 今日は初の顔合わせの日だ。わたしと勇者様の他に兄さま達と父様もいる。

「人間界で召喚された異世界人のミナトです。初めましてお姫様。今日からオレが貴女の教師です」

 ミナトはしゃがんで段ボール箱から顔だけ出してるわたしに目線を合わせてくれた。優しい人なんだと思う。

「ミィです。よろしくお願いします」

「はい握手」

 まだ発展途上のわたしの小さな手を勇者の骨ばった手が包む。

「なんでミィは箱に入ってるんだ?」

「狭くて暗くて落ち着くから」

「なんだか猫みたいだな。段ボールに入ってるから捨て猫か? 拾ってペロペロしたいな……」

「……え?」

 空耳かな。

 わたしの身内が動きだす前に勇者に箱ごと抱き上げられた。

「初めて見た時から思っていたが本当に可愛いな。名前も性格も猫みたいで、やる気がなさげなのもオレの性癖にささる。頭に生えてるツノも高ポイントだ。なにより魔族は成長が遅いからあと数百年は小さいままなのが最高だ」

「?」

 勇者が何か言ってる。


「おい!! うちの純粋無垢に何言ってんだ!!」

「ここまで純粋培養するのにどんだけ苦労してると思ってんだ!!」

「うちの天使は勝手に本棚漁っちゃうから俺らもやましい本全部捨てたんだぞ!!」

「最後のは素直に尊敬するわ」

 兄さま達がなんか怒ってる。

「ミィ、こっちおいで。その変質者から離れなさい」

 父様が両手を広げてる。

 父様の方に行こうとしたら段ボールのフタをパタンと閉じられた。ニヤリと頭上で勇者が笑う気配がする。

「このまま持ち帰ってしまおうか……」

「ああっ! なんて誘拐しやすい仕様!!」

「ミィーー!! 抵抗しなさーーーい!!」

「今はめんどくさがらないでーーー!!!」

 兄さま達はいつも元気だなぁ。


「ミナト殿、貴殿を教師に採用するのはミィには手を出さないという条件だった筈だ」

 父様の厳しい声が箱の外から聞こえた。

「おっと、そうだった。オレとしたことがミィの可愛さに我を忘れたぜ」

 勇者が正気を取り戻したらしい。箱のフタがあっさりと開かれた。

「スマンな。理想を前にして理性が旅行しかけた」

「いえ……」

 近くにいるとまた我を失うからと、わたしは箱ごと父様に受け渡された。


「じゃあちょっと教師らしいことするかな」

 ソファに座ったミナトはそう言うと、荷物から紙とペンを取り出した。

「まずミィのプロフィールを作るぞ」

「お前の趣味か?」

「趣味と実益をかねてる」

 一の兄さま、既にお前呼びになってる……。


「まず名前は?」

「ミィ・グレイリートです」

「年齢は?」

「わかんないです」

 魔族は途方もない時間を生きるのであまり年齢を数える人はいない。その分子どももあまり生まれないので、わたしは今魔族の中で最年少だ。

「じゃあ書類上は十歳って書いておこう。オレのテンションが上がる」

「それでいいです」

 自分の年齢覚えてないし。

「オレが言うのもなんだけどいいのかよ。これでドン引かないミィ天使? 将来の夢は?」

「将来は箱の中で無為に時を消費したい」

「将来の夢はヤドカリ……っと。得意な分野と苦手な分野は?」

「得意なのは昼寝、苦手なのは運動」

「オレ日本にいた頃は保健体育が得意科目だったから相性ピッタリだな」

「ピッタリじゃないよ変態勇者。こんな奴だとは思わなかった」

 三の兄さまは勇者を温和って言ってたもんね。会ってみると、なんだか温和とは違う気がする。



 そんな勇者だったけど、授業は意外と厳しかった。

「ファイア」

「ぴぃ!?」

 この勇者、迷いなくわたしの段ボール(皮膚)に火をつけやがった!!

「ほらほら~、早く消さないと~」

「うぉーたー!!」

 動転したわたしは自分の頭上に大量の水を出現させてしまった。

 バシャッ!!

 段ボールもろとも、自分も濡れた。

「……」

「……濡れ鼠……いや、濡れ猫か? まあ、そんなに落ち込むな。ミィを取り囲む箱がなくなった代わりにオレが箱になってやるから……ん? 我ながらいい案だな、これが濡れ手で粟ってやつか。……って聞いてねぇ」


 わたしは鎮火した代わりにベショベショになった段ボールを地面に埋めた。

「供養……」

「こらこら、そのゴミを供養すんのはまだ早えぞ。今からそれで『再生』の練習するんだから」

「え……」


 それからはわたしの寝床を再生しては燃やされ、再生しては燃やされるを繰り返した。


「ミィ~、様子を見に来たよ。一緒にいられなくてごめんね。変態に何かされてない?」

「うええええええええん兄さまああああああああああああ!!」

 わたしは様子を見に来た三の兄さまに抱き着いた。コアラみたいに体全体でしがみつく。

「ど、どうしたの!? おい勇者! うちの子に何をしたんだ!」

 兄さまがキッと勇者を睨む。

「ちゃんと真面目に授業してたわ。ただちょっと熱が入っちゃったがな。あ、あれだ、小学生が好きな子についつい意地悪しちゃうみたいな」

「はぁ?」

「みぃの段ボール(お友達)があああああああああああああああああ!!」

「み、ミィ、そろそろ箱をお友達って言うの止めない? 人とまでは言わないから動物とか、動くお友達を作ろう?」

「甘やかしモンスターが。そんなんだから妹の友達が無機物なんだ。ミィ、オレなら友達を前提に結婚してあげられるぞ?」

「シレっと結婚を申し込むな。ミィに人型のお友達はあと百年はいらない」

「え? そのころオレ死んでるんだけど? 結婚どころかお友達にもなれないの?」

 ……三の兄さまと勇者は結構相性いいんじゃない? もう二人がお友達になればいいと思う。



 そして次の日も勇者の授業は行われた。


「ぴいいいいいいいいいい!!」

 わたしは無理やり箱から出されて森を走らされている。必死で走るわたしを勇者が上空から監視する。

「必死に走るミィも可愛いな……」

「ぴゃあああああああああああ!! 『再生』『再生』『再生』!!!」

 勇者の魔術でわたしの走る地面が粉砕され、木が倒れ、地面に大きな穴が開けられても全部再生していく。

「ほら、自分の周りの結界を切らさない! ゴールは目前だぞ!!」

「びやああああああああああああ!!」

 わたしはなんとかゴールテープを切り、置いてあった箱の中に飛び込んだ。ホッとしたのも束の間。

「ふぇ……?」

 突如足元に現れた穴にわたしは箱ごと落ちていった。



「ご、ゴールって言ったのにぃぃぃ……」

「その油断が命取りなんだ」

 穴に落ちたわたしは勇者に救出された。

 救出のお礼だと、わたしの入った箱を抱えられてツノを撫でられる。

 ……わたしを穴に落としたのも勇者だった気が……?



***




「ミィ~!」

 二の兄さまが訪ねてきた。いつも通り手を広げてハグを求めてくる。

 だけどわたしはサッとソファの影に隠れた。

「え? ミィ?」

「あなた、ほんとに兄さまですか?」

「え?」

「兄さまに化けた偽物じゃないですか?」

「え、数日合わないうちに妹が立派な人間不信になってるんだけど……」

 察知……よし、この魔力は兄さまのものだ。

「兄さま!!」

 わたしは兄さまに抱き着いた。


「よしよし、オレの教育が行き届いてるな」

「うちの妹になに教えてんだ」

「言っておくが真っ当な授業しかしてないぞ。セクハラもしてないし、奇跡だろ」

「それが普通だ」

 胸を張る勇者に兄さまが冷たい視線を向ける。

「この短期間でミィは随分成長したぞ。今や周りの物が壊れたら無意識に『再生』を発動させられるくらいだ」

「ほお、それはすごいな」

「厨房の前を通りかかったら皮の剥かれた野菜の皮を全て『再生』して戻しちまったぞ」

「成長エピソードじゃなくて迷惑エピソードだな」

「全部オレのしごきのおかげだ」

「うっ……」

 勇者の授業を思い出してわたしは兄さまの肩に頭を預けた。

「全身筋肉痛です……」

「ミィから筋肉痛なんて言葉が出るなんて……!! 無理しなくてもいいんだぞ?」

「お前も甘やかしモンスターか。最近和平に反対の魔族が動き出してるだろう。自衛の手段くらい持たせておかないと可愛いミィがコロッとあの世行きだぞ」

「変態がまともなこと言ってる……」

「お前ら兄弟はもうオレを変態扱いすることを隠さないのな」

 勇者は兄さまと会話しながらいつも持ってるノートに何かを書き込んでる。表紙にも何か文字が書いてあるけど勇者の世界の文字なので読めない。


「ところでお兄さん」

「お前にお兄さんと呼ばれるいわれはない」

「(未来の)お兄さん。手を出すなってどの範囲までならセーフなんでしょう」

「真面目な顔で何を悩んでるんだこの変態」

「シスコンも大概だと思うが」

「ミィが可愛すぎるから俺達がシスコンになるのは自然の摂理だ」

「おいオレと同じ匂いがするぞ」

 わたしもそう思った。


 ふぅ、なんだか疲れたなぁ。

「ん? ミィ眠いのか?」

「ん」

 コクリと頷く。

「じゃあお部屋に行こうな。おい勇者、今日の授業はもう終わりか」

「ああ。え!? ミィの部屋オレも入りたい。匂い採集して香水にしてもいいか?」

「よくない」


 結局勇者はわたしの部屋までついてきた。


「え? ちょいちょいお義兄さま、妹を棺桶に入れるなんてブラックジョークがきき過ぎてねーか? 吸血鬼かて」

「ちょっとずつ呼び方をランクアップさせるの止めろ。この棺桶がミィのベッドだ。棺桶も一種の箱だろ?」

「ああ、なるほど」

 兄さまはわたしをクッションの敷かれた棺桶の中に寝かせてくれた。そのまま寝ようと思ったけど、寝っ転がるわたしを勇者がジーっと見つめてくるのでちょっと寝づらい。

 そして勇者が真剣な顔で言う。

「重大なことに気が付いた」

「どうした変質者」

「この棺桶だと小さすぎて添い寝イベントができない……!!」

「予想以上にどうでもよかった。ミィ、おやすみ」

「おやすみなさい兄さま。勇者も」

 そう言うと、兄さまが棺桶のフタを閉めてくれ、わたしは眠りに落ちた。



***



 その日の夜更け、ある魔族達が魔王城に侵入を果たそうとしていた。

 数人の男達が外壁を登り、ミィの部屋の外まで来ていた。

「ここが末娘の部屋か?」

「はい。やはり、陛下含め王子たちも末娘を溺愛しているので、末娘を誘拐して和平を撤回させるのが一番かと」

「大した魔術も使えないと聞いていますし、攫うのも楽でしょう」

 部下達の言葉に頭領は頷いた。

「にしても、なんでこの部屋には窓がないんだ……不健康な……」

「おかげで壁を破壊しなきゃならなくなりましたもんね」

「ああ。いいか? ここからはスピードが命だ。この壁を破壊したら素早く娘を捕らえ離脱する」

「「「はっ」」」

 そして頭領が壁に手を当て、魔術を発動した。






「……ん?」

 棺桶の外が騒がしくてミィは目を覚ました。

 フタを開けて外に出ようとしたけどなぜか開かない。

「なんで? ……まあいいや」

 ミイはあっさり諦め、耳を塞いで再び眠りについた。





「なぜ壁が壊れない……!? 確かに魔術は発動しているのに……!」

「破壊できないんじゃなくて、ミィが視認できない程の速さで壁を『再生』してんだよ」

「!?」

 突如背後から掛けられた声に誘拐犯たちが振り向くと、そこには浮遊した勇者ミナトがいた。

「なっ!? いつの間に!?」

「せっかく、ミィの部屋に忍び込んでミィ入り棺桶のラッピングにいそしんでたのによ~。外が騒がしいと思って出てきたら、かわいいかわいいミィの誘拐だぁ!? お前らは光源氏パイセンかよ」

「ヒカルゲンジ……?」

「日本で一番有名なマザコンだ。たまにロリも誘拐するらしい。まともに読んだことないからオレにも分からんが」

「よく分からんやつのことをよくそこまで言えたな」

「うわ誘拐犯に正論言われたんですけど」

 誘拐犯が意外とまともな思考回路をしていたことにミナトは驚きを隠せなかった。ミナトのその様子が誘拐犯たち神経を逆撫でする。

 誘拐犯の一人が言った。

「そもそも! 末娘に我々が目視できない速度の『再生』なんていう高度な魔術など使えない筈だ!!」

「そこがオレの教え方の良さとミィの潜在能力の為せる業なんだなあ。たった数日で『再生』と『結界』が神レベルになりやがった。これでオレ以外からはほぼ確実に身を守れる」


「お前から身を守れなければ意味ないだろう。ミィの部屋に忍び込みやがって。そこの奴らと何も変わらないぞ」

「あら、一番上のお義兄様」

「おい他人、ぺちゃくちゃ話してる時間があるならそいつらを捕まえろ」

 新たに第一王子が現れたことで危機感を感じたのか、誘拐犯たちが逃げの姿勢に入った。

「た、退却……!」

「残念。もう遅いぞ」

「なっ!?」

「クソッ!」

 誘拐犯たちは一瞬のうちに鎖でグルグル巻きにされた。

 ミナトはガシガシと頭をかく。

「ヤローを縛る趣味はねぇんだけどな」

「じゃあ女子を縛る趣味はあるのか」

「そこはご想像にお任せするわ~。地下牢に転送しとくぞ」

「ああ、頼んだぞ変態」

 こうして、誘拐犯は迅速に捕らえられた。



 その頃、二番目と三番目の兄もミィの部屋に駆けつけていた。

 二人は大急ぎでドアを開ける。

「ミィ……ぅわあ!! 何たる過剰包装!!」

 そこには表面が見えなくなるまで色とりどりのリボンでグルグル巻きにされた棺桶があった。兄二人は大慌てでリボンを解いていく。

 そしてパカッと棺桶のフタを開いた。

「「ミィ無事!?」」

「……んん~っ」

 熟睡していたミィが少し顔を顰める。妹を起こしてしまった兄達は大いに慌てた。

「ああっ、寝てたんだね、起こしてごめんね」

「まだおねむなんだな? ん? ああ、寝てていいぞ」

 どこまでも妹に甘い兄達はよちよちと妹を撫でくり回した後、棺桶のフタを戻した。






 次の日の昼、ミナトはブスッとした顔をしてソファーの上で胡坐をかいていた。

「……一年間のタダ働きなんて刑が軽くないか? オレのミィを誘拐しようとしといて……」

「誰がお前のミィだ。刑が軽いのは恩赦だ恩赦。奴らのおかげでミィの部屋に変態が侵入してることに気が付けたからな」

「和平に持ち込んだオレの苦労を無に帰そうとしたんだから死刑でいいだろ死刑で」

「人の話を聞け命を軽んじる勇者」

 ミナトに長男の呆れた視線が向けられる。その視線にミナトは「勇者に夢見んな」と返した。

 勇者がまだ刑に納得しないのを見て長男はきちんと経緯を説明することにした。

「実際に誘拐は防ぐことができたし、元々ミィを害する気がないのだからそれほど腹も立たん」

「なんでそんなことが分かんだよ」

「奴らのアジトに行ってみたらファンシーなミィのおもてなし部屋が作られてた」

 天蓋付きのベッドもぬいぐるみもフカフカのカーペットも新調されており、正に女の子の部屋だったことを長男はミナトに話す。

「…………ガチ?」

「ガチだ。まあミィを誘拐するなら魔族は皆これくらいはするだろうが……」

「オレが思ってたより魔族の頭ん中はお花畑なのかもしんねぇなぁ」

 あまりに自分の想像と違い、さすがのミナトも驚いた様子を見せた。


 二人が話していると、ミィが段ボール箱を引きずりながら部屋に入ってきた。

「一の兄さま、勇者、おはようございます」

「お~、ミィおはよう」

「おはようミィ。もう昼だがな」

 そう言って第一王子がミィを抱き上げた。


「勇者、昨日は助けてもらったみたいで。ありがとうございました。。それに、勇者に散々仕込まれた『再生』が役に立っていたと聞きました」

 ミィがそう言うと、ミナトはデロっと相好を崩した。

「ははっ、じゃあ結婚するか」

「させるか」

 長男がミナトにチョップした。

「うわっ! 変態呼びだけには飽き足らず手まで出してきやがった!」



「勇者、なにかお礼をさせてください」

 ミィがそう言うと、ミナトは腕を組んで少し考える素振りを見せた。きっと彼の中には様々な選択肢が浮かんでいたのだろう。

「ん~、じゃあミナトって名前で呼んでくれ」

「ん、わかりましたミナト」

 コクリと頷いて名前を呼ぶミィ。

「ん゛ん゛っ素直か! ぐうカワ!!」



「さて、ミィとオレの距離が縮まったところで、早速今日の授業に入るぞ」

「はいミナト」

「はい可愛い」

 内心悶えながらミナトはいつも持っているノートをパラパラとめくった。

「ミナト、そのノートには何が書いてあるのですか?」

 ミィは前々から疑問に思っていたことを聞いてみた。

「ああ、これか? これからミィが身に付けなければならないこととそのための授業内容が書いてある」

 ほい、とミナトがミィにノートの中身を見せた。それはミナトの世界の文字で書かれているので読めなかったが、一冊丸ごと細かい文字で埋め尽くされているのを見てミィは絶望した。

「これと同じのがあと九冊ある」

「……すとらいき……」

「させねーよ? まずは『再生』と『結界』の復習だ。その後は体力作りに森で走り込み。その間にオレが魔術で奇襲するから全部『反射』で跳ね返せ。さあやるぞ~♪」

「ぴいいいいいいいいいいい!!!」





 末っ子が箱ごとグルグル巻きにされて引きずられていくのを三兄弟は柱の影から見つめていた。

「ああ~ミィが連れていかれちゃった……。てかなんであんな厳しい授業するんだろ」

「ミィに好かれたいなら優しく授業すればいいのにな」

「あれだ、意外と不器用で真面目なやつなんじゃないか?」

 長男がそう言った瞬間―――。


「……あ~、このままミィを閉じ込めてぇな~」


「「「……」」」

 ミナトの呟きに三兄弟か沈黙する。

 次男三男の視線が長男に向いた。


「……やっぱただの変態だわ」





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― 新着の感想 ―
[一言] 何気に兄様達も変だよねww ま、ミナト程じゃ無いけど(笑)
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