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SHADOW HUNTER  作者: 狼月
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第9話【昼のワルツ(6)】

 狭苦しい戸口を抜けると、割と広い玄関に着いた。靴は脱がないらしく、少し落ち着かない。

 そのまま進むと階段で右手には細長いリビングダイニング。こざっぱりした机の上には作りかけの人形がちらほら。大きめの裁縫箱もある。壁紙はいたって平凡、洋室だが靴以外は自分家と勝手が同じだ。

 くぅーとお腹が鳴った。鳴った当人は気恥ずかしさにお腹を押さえるわけもなく、訝しげな視線をオレに投じている。


「フー、飯まだ? 昼過ぎなんだけど」

「ごめんなさい。今から作るから待ってて」


 椅子に脚を畳んで座っているのは朱い少年だった。レイとは違う感じのキツイ口調で命令するとフーカちゃんはキッチンへ飛んでいった。

 視線が合う。途端、毒舌が乱れ飛ぶ。


「まだ居んのかよ甲斐性無し。フーに縫ってもらったからって怪我人のくせにヘラヘラしやがってよ。初対面なのにここまでするレイ達に土下座――いや、土下寝して感謝すべし!」


 最後に指を刺される。こんなにまくし立てられるとこっちも治まらない。しかしよく考えれば立場は弱く、一言の反撃しかできなかった。


「悪かったな悪態坊主」


 震えを押さえて発声。悪口に悪口、喧嘩にはそれで十分足りる。お互いが沸点に達し殴りかかろうとすると、止めに二人が割って入った。オレの前にはレイ、朱い少年の前には最後の使用人らしき少女。


「喧嘩をするのは結構だけど、狭い室内で我々が被る被害を考えてもらいたいものだな。縛り上げて表に吊してもいい。蒼天のてるてる坊主も滑稽でおもしろい」


 首筋に人差し指をあてて猫撫で声のレイは妙に迫力がある。冷たい指が刀のように喉笛を貫くイメージが浮かぶ。

 昼ご飯を作るフーカちゃんの鼻唄が部屋に充満する数分間、オレは蛇に睨まれた蛙よろしく ぴくりとも動けなかった。


「お互い挨拶もまだだ。各自しておいてくれたまえ」


 そうしてレイは机の裁縫箱もろもろを持って部屋から消えていった。


「……神村将人だ。これからこの家で世話になるらしい。よろしく」


 出来るだけ当たり障りの無い言葉を選んで自己紹介を始める。


「らしいって、事態も把握できてない馬鹿かよ。俺はローカ。こっちはキョーコ。ここで使用人をしてる」


 喧嘩腰にローカと名乗った少年。年の頃は12才くらい。輪郭の良い吊り上がった目は苛立ちの色を秘めている。赤髪赤目、赤い服で真っ赤っ赤。ナチュラルに燃えているようだ。

 キョーコと紹介された少女は髪が白い。見ようによっては白金にも見える。ボブカット気味で前髪が目を覆い隠していて、少し暗い印象を受ける。

 見た目からしてフーカちゃん、キョーコちゃん、ローカの3人は年が近いようだ。


「甲斐性無しで馬鹿のムラマサこん畜生は雨風しのげる寝床に毎日三食まで付けてもらって、ありがたくないのかよ。どうなんだよ。仮にも家主の一人だぜ、俺」

「あーはいはい、ありがとうございました。でも、住み込みの使用人なら居候するオレと大して変わらないのに偉そうだな。ムラマサとか変な名前で初めて呼ばれたし」

「こいつムカつく。真っ黒焦げにして外に追い出してやろうか?」

「やれるものならやってみやがれ。それにムカつくのは反論できないからだろ」


 等とお互いに悪口を罵り合う。喧嘩っ早くないのにここまで言い争うのはいつぶりだろうか。しかし、そんなことはムカッ腹が立ってどうでもいい。


 するといきなり、ゴスッとチョップを脳天にもらう。ジンジンするほど強い。それはローカからではなく、戻ってきたレイからだった。


「うるさい。君達はガキか? 口を開けば悪態ばかり。二階まで聞こえたよ」


 チョップした右手をさすりながら、呆れて彼は言った。ついでに言うとローカにも左のげんこつが一発見舞われる。ざまぁ。

 まだジンジンする頭をさすりながら、レイに促され席に着く。程なくして満面の笑みのフーカちゃんがお皿を運ぶように全員にお願いしてきたのだった。

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