表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SHADOW HUNTER  作者: 狼月
6/44

第6話【昼のワルツ(3)】

 仄暗く狭い通路。

白い壁紙がランプの光りを受けて不気味に揺らめく。聞こえるのはレイとフーカちゃんとオレの足音だけ。壁が迫ってくるような圧迫感が不安を煽る。空気は重たい。まるで静謐な墓所のようだ。閉所恐怖症の気はないが、この雰囲気に神経が潰れてしまいそうだ。相変わらず背中は疼き、雰囲気とあいまってか不安拡大に拍車をかけていた。


 ここは時計塔もとい市役所の中。裏手にあたるこの通路に人気はない。入ってすぐのロビーにはかなりの人が居て、ざわめきが絶えなかったのに……。仕事中でもあるし、役所の通路と考えれば当たり前なのだろうか。

 それにしても、この通路ときたらまさにラビリンスだ。情けない事に一人で出られる自信は無い。とっくの昔に方向感覚は失われている。


 右へ、左へ。また左。階段を昇って、さらに右。延々と続く。もうどのくらい階段を昇ったのかもわからない。

 それにしても、誰一人としてすれ違う人がいないのは不安だ。気まぐれに扉の数を数えていたが、ついさっき放棄した。数が多過ぎて、神経に負担が増えるからだ。


 先導するレイは迷い無く進む。黙々と足を繰り出し、通路を曲がる。ずいぶんと頼もしい姿だ。

 列はレイ、フーカちゃん、オレの順番だ。普段(と言っても時間的な付き合いは短いが)どおりフーカちゃんはソワソワ落ち着きがない。見ていると楽しいので、神経衰弱の緩和に役だっている。

 や、オレはロリじゃないぞ。

10才くらいの女の子だからって、変な気を起こしてる訳じゃないからな。楽しいのは仕草が可愛いからであってだな、全然そういうのとは違う。え、楽しいって事はそういう嗜好があるからなのか? 違う、断じて違う。絶対にありえない。は?そんなに否定するって事は認めてるのかだって? み、認めてなんかいない!


「レイちゃん、まだ着かないの? いくらなんでも遅くない?」


 煩悩と格闘しているとフーカちゃんがおもむろに口を開いた。レイは答えないでひたすら進む。そして再び。


「ねぇったら。ぜったい遅すぎるよ。レイちゃん、迷ってないよね」


 返事は無い。この場合、返事が無いのは肯定しているってことだよな。


「レイ、どういう事なんだ? 自信満々に見えたけど、実は迷ったりしてないか?」

「……実のところ、そのとおりだ。すまない」


 躊躇(ためら)いがちにレイは口を開いた。俯いていて、しかもさっきまでの冷たい威厳は失せている。搾り出したような声はどこか震えた感じに思える。

 ああなるほど、恥ずかしいのか。失敗したらそりゃぁ、な。


「まぁ、過ぎたことは気にしない。で、どっち行けばいいんだろうな」


 語調が不自然に明るくなるのを感じつつ、打開策を募る。迷子って自分じゃ解決出来ないと思うけど。それでも、まいった神経に鞭を振るうほかない。


「はーい! 勘で進む! 女の勘ってあたるんでしょ」


 何が嬉しいんだか知らないがフーカちゃんは元気に手を上げ発案する。狭い場所なため声が反響してより大きく聞こえた。勘で百発百中はありえないだろう、むろん却下だ。

 打開策を考えてくれていたのか、俯いていたレイがフーカちゃんに耳打ちし始めた。

「……わかったよ、レイちゃん。それじゃあ、いっきまーす!」


 掛け声と共にフーカちゃんは目をつむる。両手は前に突き出し、手品でもしようというのか。

 フーカちゃんの構えと同時に、ヒュッと短かく風が頬をかすめる。誰か後ろに?――そんなことは無かった。


 後ろから前へヒュッ、ヒュルッ。リズミカルな風のステップはフーカちゃんが踊っていたように。


 ヒュッ、ヒュッ

   ヒュルヒュル、ヒュルッ

      ヒュ、ヒュルヒュル


 メロディーまで聞こえてきそうな軽快なアップテンポ。

 擦れる、揺れる、滞っては滑らかに、風は通路を流れていく。


「ミランダちゃん見〜つけた♪」


 かくれんぼの鬼よろしく、うれしそうなフーカちゃんの声が響いた。風が止まるのは同時、ぴたっと何事も無かったかのように『何食わぬ顔』をつくる。

 フーカちゃんの不思議な力を垣間見せてもらった瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ