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SHADOW HUNTER  作者: 狼月
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第43話【縁と勘】

 縁。それはハドには糸の様に見える。ハドの先代には川とも滝とも見えたらしいが、浄眼に優劣は無く、見えることに意味がある。ハドが見るにレイと銀髪の少女の縁はとても珍しいが想像のできる範疇であり、また見たこともある縁だ。

 問題は将人。彼のゆかりの地がハドにはわからない。少なくともこの地平には存在しない。かといって衛星の使いでもない。まったくの未知。初めて見て、今後一切見ることはないであろう縁。

 ハドにとって将人は興味深く、また未知の恐怖でもある。自らが何なのか、それは人間の抱く最大級の問い、物心付いてからまとわりつく業。将人は自分が何であるのか答える機会に決を下すことができるのか?と思案してしまう。

「ハド氏。市長がお呼びだ。マサトについてあなたなりの解釈をするのは結構だが、仕事に付いてきたのはあなただ。最後まで付き合ってもらいたい」

「もちろんです。しかし街の中央までかなりありますね。馬車もありませんし、どうするおつもりで?」

「歩いて行く。明後日になっても構わない」

「それは個人的に困りますね。市長である彼女に何を言われるやら」

「知らない。私の関知することではない」

「では、ワタシが“手繰り”ましょう。王より教えていただいた魔法です。貴方も転移する方法はあったのでしょうが、今は使えないと見た」

「すべてお見通しのようだな。便利な眼だ」

「この眼がワタシですから。眼を抜きにクインの名は、白牙≪はくが≫の字≪あざな≫は名乗れない」

「あなたは白牙なのか」

「ええ」

 将人には聞こえない程度の声量で交わす言葉。

 王の兵――牙、甲、耳、目――攻撃の“牙”。そして色はワルツの世界で最も忌む、不活の“白”。黒が最上位、黄が最下位、白はその下。それがハドの字。

 レイは顔には僅かにも出さないが、畏怖と畏敬と憐れみの混ざった心情をしているに違いない。

「マサト、行くぞ」

「あ、ああ。ミランダさんのとこだよな。どうやって」

「繋がりを引っ張りまして市長の所に跳躍します。慣れない方はちょっと気分を悪くします」

「気分が悪くなるのは遠慮したいな……」

「まあまあ、そう言わずに」

 ハドが二人の手を取る。そして顎を向けると、そこには美人市長ミランダの顔が。

「わっと!」

 ミランダは驚くと、銃を発砲した。遮るものは何も無い、と思いきや更に目の前には盾が現れるのだった。目まぐるしい変化に将人は目を回した。

「少しこれは……ハド氏、気分が悪い」

「あんた達、さては飛んで来たな。やめてよ、もう」

 レイが頭を垂れ、ミランダがあきれ果てる。

 ここは中央大橋で、将人たちがいたのは南東区の端。ハドは見える縁を手繰ると目的の人まで跳躍することができるのだ。魔法の領域にある彼の術中で、彼以外は不調をきたしている。出てきた不細工な盾はキョーコが出した。現状を分析すると以上になる。

 瞬間移動は相応の負荷がかかることをキョーコの盾が物語る。

「ここは……どこですか、ミランダさん」

「中央大橋。マサト君も知ってるでしょ?」

 さぁっと夜風が吹き抜ける。今は晴れていて、視界が広い。人混みも無いのだから一層遠くまで見渡せる。約一キロ続く石畳の橋梁。幅は500メートル。超巨大な橋は河を別つ、町並みを伴わない黒き一閃。あらためて将人は異文化を見た気がした。長さはともかく、横幅が広すぎる。空から見たらほぼ四角形ではないか。

 突然のこと。バリバリっと地面をめくる音が聞こえたと思ったら、緋色の影が岸の方から飛び出してくる。それは黒いのっぺりとした影をいくつか伴っていた。ギンと響く遠吠えが、緋色の影は黒い影と戦っているのだと知らせる。

「こいつら多くてさ。だから召集かけた」

 黒い影は四足歩行をし、各々が1つの武器を纏っている。先刻将人たちが戦っていたシャドーと同形――いや同一。同じモノがいくつもいる。

 またギンと遠吠え。緋色の太い腕から放たれる一撃がシャドーの2、3を散り散りにした。あれは……あの緋色の影は、ようやく分かる距離まで近付く。

「意外と早いナ」

 音が腹に響く。以前に将人を家まで送った竜人のクナハトだ。

「なかなか手こずル。無尽蔵ダ」

 竜人は独特のなまりを口にしながら近づき、ため息をもらしていた。怪我はなさそうだが疲労の色は濃い。

「対処法は無いんですか? ミランダさん」

「この手のシャドーは親玉を潰すに限るんだけど、見当たらないんだよね。大概、発生の中心と相場が決まってもいる」

 美人市長は竜人と同じく、その美貌に陰を落とした。

「親玉……」

 将人がポツリと呟いた。さっきまで苦戦していたシャドーを20以上倒す。もっと加勢が来るなら別だが、現実的ではない。首領を倒せばいいのなら、それに越したことはない。

 ミラはハドに目を向ける。眼力で言えば、彼が抜きん出ているからだ。

「やれやれ。ワタシには無理ですよ。これらには繋がりが無い」

 ハドが匙を投げる。もともと握ってもいないのだろう。

「たぶん、見付けられる……。親玉かどうかも勘でしか分からないけど、いる。あの群れの中に中心がある」

 そこに将人が提す。自分なら分かると。なにも根拠は無いけれど、感じているらしい。

「嘘を……! あ、いや、あながち嘘でもないのかも……。昨日は一番最初に壁がシャドーだってのに気付いたっけ。メイガスのメビウスリングもそれっぽいし。君に賭けてみようか」

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