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SHADOW HUNTER  作者: 狼月
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第39話【異世界四日目――実戦、ハド】

 シャドーを前にして、シャドー以外にいろんな疑問がある。

 ミランダさんの危険視する魔術師メイガスとキョーコちゃんは同業。いや、仕事ではないから同門――これも適切じゃない。きっとハド先生とオレみたいに道を同じくするけれど流儀が違うみたいな関係だろう。そして憶測だが的を射ていると思うのは、フーカちゃんやローカも魔術師だろうということ。

 オレの知る魔術師は空想の世界の住人。錬金術といえば科学の祖先として端的に教えられるくらいだが、何の機械を用いずに火を操り、風を操り、武器を作り、空間を捩曲げる、そんな姿は文字や映像を媒介にしたフィクションでしかお目にかかったことは無い。市長であるミランダさんが認めるのだから、ここでは魔術師は公然の存在と想像する。

 しかし、ここの枠組みは分からないことが多い。言葉は通じるようでいて、故事成語などの歴史に関する細かいところは通じないことがある。特に文字になるとからっきしダメだ。風習も生活様式も知っているようで知らないし、生活水準も文化レベルも近いようで進んでいたり遅れていたりしている。でもオレの目に映る人間はレイたちだけで、そんな彼らから違和感はあまり感じられないから問題にしなかったし、これからも問題にしないだろう。

 不問に付す形で心に整理をつけ、バーサスシャドーへとシフトチェンジする。


「キョーコちゃん、剣をくれないか?」


 シャドーもこちらを確認して警戒態勢に移っている。シルエットだけの化け物でもそれが分かるくらい、オレ自身の経験値は上がっているみたいだ。証拠にハド先生は腰の刀に手すらかけずに腕組みしている。

 オレの問い掛けにキョーコちゃんは一瞬何かを考えた素振そぶりを見せ、レイに耳打ちをした。


「『リクエストをどうぞ』だって」


 そしてオレも考える。昨日はとっさに短剣二本を渡されたので使ってしまったが、使い慣れた形の方がいい。


「じゃあ、先生が持ってるやつでいいかい?」


 先生が持っている剣は造りからして紛れも無い日本刀。この世界に日本は存在しないみたいなので名称は知らないが、思い描く剣の中で竹刀に1番近い。


「『ちょっと骨が折れるけど、構わない』だって」


 レイの通訳。キョーコちゃんは少々渋ったようだが了承してくれたようだ。


「ほう……。この刀が『ちょっと骨が折れる』の一言で作れてしまうなんてね。驚嘆に価します」

「そんなにすごい物なんですか?」


 気まぐれにリクエストしたため、オレには事の重大さがわからない。昨日もメイガスの魔術の稀有さがわからなかった。自分の無知さが身に染みる。


「ええ、凄いですよ。歴史的観点から見れば、ざっと作られて千年の時を経ているので大変貴重です。機能面では今までにおよそ十万人の鎧と骨を切り刻んでも刃毀れしないことでしょうか。もはや人間が作ったとは思えない代物です。ワタシの家に伝わっていて、とても誇らしい」


 朗々と話すハド先生は誇らしげに、だが運命を呪うが如く忌ま忌ましげに目を細める。会って半日。先生は先生の人生を歩んできたと剣も語る。先生は――


 合図はシャドーの突進だった。二体あるそれらは、武器を付随したしなやかな体躯の狼。

 中空に忽然と浮かぶ武器は大剣と弩で、大剣の狼が先行し、弩の狼は後方支援。武器の特性上、定石の布陣だ。相手としては実に人間の思考に酷似していて読み易い。

 しかし、キョーコちゃんからの武器の提供は間に合わない。骨が折れる物を選択させたオレの不手際になる。


「ハド。済まないが前衛を頼む」

「仕方ありませんね。了解しました」


 レイがハドに指示を出す。自分が前に出れなくて歯痒い。


 大剣の狼とハド先生が接近すると互いの剣が閃く。重い見た目と裏腹に大剣の動きは普通の剣のように速い。しかし、それに驚きもしないで先生は大剣を払い流す。これで一合。返す刀で間髪入れずに狼の首を一薙ぎにしてしまう。もとより、次の一閃を見越しての払い流しなのだから、いくら大きさの割に速いと言っても先の先を取れなければ意味が無い。さらに大剣の狼に隠れるようにして、上手く弩の射線から身を守る徹底ぶり。

 一体を仕留めたのだからキョーコちゃんを待つのは不必要。直ぐさま後衛のシャドーに切って掛かれば片が付く。しかし、先生はそれをせずに大剣のシャドーから離れ、わざわざ弩の的になる。

 構えられた弩の射撃と次なる大剣の閃きは同時だった。仕留めたはずのシャドーの大剣と、大剣の間合いを把握して放つ矢は先生を挟撃する。

 真横に振り回された大剣を上へ払いのけて、僅かな下の空間に潜り込むことで先生は命を繋いだ。

 さらに大剣と二合して、シャドー達と先生は睨み合った。互いに力量を測り合った上での睨み合いだ。


「手応えが無くてヒヤッとしました。ところでシャドーってどうやって殺すんです、ハンターさん?」


 いつもの笑顔でシャドーと睨み合いながら司令塔へのアクセスを求めるオフェンス。司令塔もいつものキツイ口調で答える。


「逆に訊こう。何故あれだけ見事に切っておいて殺せない」

「ワタシにも不可解です。ワタシに切れない物なんて無いはずなのですが……」

「攻撃を無力化する特殊なシャドーやもしれん。とりあえず武器はロールアウトしたから次はマサトと二人で行ってもらう」


 通信終了と言わんばかりにレイは目でキョーコちゃんに命令した。

 キョーコちゃんの手には抜き身の刀身。美しい波紋の浮かんだ名刀が目の前に在った。


「オッケー、レイ。それとキョーコちゃん。いくぜ、先生!」


 やっと来た出番に疲れた体も温まってきた。ラウンド2の始まりだ。

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