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SHADOW HUNTER  作者: 狼月
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第32話【異世界四日目――修業(1)】

 レイに小さな鉄の箱を開けてくれと渡された。なんでも両親からの贈り物らしい。俺に任せたということは、焼き切る分野ってことか? 箱は頑丈そうで、蓋らしきものも見当たらない。

 とりあえず、安全に中身を取り出すことに専念してみよう。壊すことにはいつでも移行できる。そういえば小球ボールより小さい炎は使った事が無い。炎は調節が難しく、槍やボールに形成することでうまくやっている。速度重視がボール、貫通力は槍といった感じだ。形作るのにも熟練度と言うか“慣れ”が必要だから、作った事の無いハンディナイフとかは即座に作れない。どっちかっつーと俺は不器用な方なんだぜ。どうしたもんかね……。


 小箱と睨めっこしていたら、キョーコが寄ってきた。俺より理知的で博識なキョーコのことだ、解決策がすぐ出るだろ。

 キョーコは小箱の出っ張りに着目した。それは六角形の溝が彫り込まれ、四隅に突き出している部分だ。

 サバイバルナイフを取り出してカチカチとつつく。反応は無し。正直イライラする。


「ちっ。キョーコでも駄目か」


 キョーコから小箱を取り上げ、半ば諦めに入る。コイツは俺に焼かれてーのか? そうなんだろ? 答えやがれ小箱め。


「ん? 何舌打ちしてんだよ、ローカ。キョーコちゃんもお揃いで」


 そんなところにムラマサことカミムラマサトがやってきた。狭い家のリビングだもんな、集まって当然と言えば当然か。


「レイにこれ開けろって言われてな。無い知恵絞ってんの」

「どれどれ、貸してみ?」


 ミランダとかレイから聞いたが、ムラマサは異世界人らしい。名前が変だから、そんな気もするし、しないような気もする。こいつがどうだったって良いや。それより俺らがわからないこの世界の事をムラマサが解決できるとは思えない。


「ふーん。キョーコちゃん、六角レンチ出して。この溝にはまる太さの」


 ロッカクレンチ? なんだそりゃ。キョーコもキョトンとしてやがんの。でたらめを言うもんじゃないぞ。


「わかんないか。それじゃぁ、六角形の棒探して。L字形だとなおさら良いな」


 エルジガタ? ああ、人差し指と親指を立てたムラマサの指の形か。そいつは12番の左上だぜ。まぁ想像はできたが、さっきから意味不明な言葉ばっかりだ。異世界じゃ普通なのかね。

 キョーコから“ロッカクレンチ”を受け取って、それを溝に嵌めてくるくるくる。なるほど、これはボルトだったのか。

 箱はいとも簡単に開いた。後はレイに報告するだけだ。


「サンキュー、ムラマサ」


     ◇◇◇


 レイに箱を渡す。中身はサファイアの指輪だったようだ。形は古いが玉は飛び切り大きくて透き通っている。


「良いものを貰った。ありがとうローカ」

「それ開けたのムラマサだぜ。お礼は言っとけよ」

「そうだな。しかし、マサトが開けたのなら余程のえにしがあるって事だな」


 満足そうな顔をしてレイは言った。

「さあ、朝だ! カンパンじゃ足りない、お腹が空いた。ローカとキョーコ、市場までスクランブルダッシュ!」

「サー、イエッサー」


 ビシッと敬礼して二人が走って家を出ていく。玄関越しに見る高い空は、昨日と一転して秋晴れのようだ。

 異世界も今日で四日目。朝一番に回復したフーカちゃんに背中を縫ってもらったので体調も万全。何度も思うが、痛みが飛んでいくのは不思議なものだ。


「あ、レイ。ちょっといいか?」

「ん、何か用かな?」


 威勢良く二人を送り出したレイが反応を示す。玄関からリビングに移動して席に着くと膝を交えてくれた。


「あのさ……、強くなりたいんだ」


 少しタメて話を切り出す。レイには昨日の事をまだ話していない。この機に説明してしまおう。魔術師と呼ばれたあの人に太刀打ちできなかった悔しさが強さを求める理由だから、レイに話して自分でも納得するんだ。


「要約すると君は昨日さくじつシャドーに襲撃された直後、魔術師と呼ばれる男と交戦し敗北。ふぅん……。仕事中に君に頼る機会があったが、常々力不足を感じていたよ。しかし良い心掛けだと思う」


 すっかり話してしまった後、彼はやんわりとオレの気持ちを肯定してくれた。でも、そんなに力不足だったのか。あらためて言われると胸に立ち込めるわだかまりが無いとは言えない。


「問題は具体的な方法だな。武器はキョーコがなんとかするとして、君の技量アップが期待されるわけだ。気が進まないが、ミランダのツテを借りようか」


 彼は眉間に皺を寄せて困ったような顔をしたのだ。大人びた顔であって、それでいてあどけなさを残した少年の苦笑い。オレが笑ってもこんなにうまくは笑えない。嫌味ったらしさが無い笑みは彼だけのもの。


「また時計塔に行くのか。今度は迷わないでくれよ、水先案内人。オレは道を知らないどころか土地勘だって無いんだ」

「う……、熟慮しよう」


 皮肉を多分に含んでオレも笑う。それと同時に彼もまた苦笑を浮かべた。

 彼は立ち上がると、棚から食卓に並ぶ全員分のティーセットを取り出してキッチンのフーカちゃんに手渡していく。どうやら食後の紅茶を淹れるためにカップを温めておくようだ。間もなくしてローカとキョーコちゃんがどたばたとリビングダイニングに乱入してくるのだった。ローカは息をぜえはあ切らして、キョーコちゃんは涼しい顔をして、それぞれ決まった椅子に着席する。


「ただいま帰ったぜ。いや、帰りました軍曹! ほらキョーコも敬礼しとけ」

「こら、軍曹って誰のことだ。まあ、二人ともおかえり」

「でも、レイちゃんは軍曹って言うより元帥だよね。鬼より知的クール」


 賑やかで愉快なやり取りを脇で頬杖を付いて眺めるのが楽しみになりつつある。自分の家と大差ない光景が今ここにもあることに少し感謝したい。

 今回の前書きにてサイドストーリーを掲載。時系列は不確定。あなたの思い描いた時制が正しいのです。


 第41話にて「2ページ突破記念小話」を掲載予定。内容は登場人物の身長などのステータスや語られないワルツの世界観について、主要人物を中心にラジオ感覚でお送りします。あくまで予定。ステータス関係はローカが切って捨てるかも。

 また、読者からの質問も受け付けております。例えば、「フーカとローカとキョーコの歳はいくつ?」とか「作中でここがよくわからなかったけど、どうなってるの」とかを感想欄へどうぞ。匿名希望と記入されていない限りはラジオネームということで名前が掲載されます。

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